◆お義姉様たち、奮闘する①◆

 さてさて、そんなあれこれの出来事の中、どんどんお城の舞踏会が近づいてきた。


 あたしとドリゼラは行くつもりは無かったんだけど、お義父様からの、たっての願いということで、出席することになった。


「その……シンデレラを頼みたいのだよ」

 と、お義父様。


 二人で話し合いをされたのだろう、お母様も横で、うんうん、と頷いている。


「あのね、シンデレラは、ほらちょっと思い込みがね……だから、あなた達二人で、その辺をフォローしてあげて欲しいの」


「これは内密の話になるんだが……」

 お義父様が、何故か声を潜める。


「実は今回の舞踏会なんだが、最初からお相手は決まっているのだ」


「???」

 あたしとドリゼラは顔を見合わせる。


「王子様がな、どうもお忍びで城下にいらした時にシンデレラを見かけて……その、な、一目惚れされた様なのだ」


「はぁ……」

 それはとても、おめでたい事だと思うのだけど、それなら、後はシンデレラの気持ちを聞いて、シンデレラも同じ気持ちなら、めでたしめでたしなのでは?


 そんな気持ちが顔に出でいたんだろう、お義父様は、わかっていると言う様に深く頷いて話し出した。


「問題はだな、シンデレラが、その……恋というものに物凄く夢を描いていると言うことでな」


 あーなるほどね。

 確かにシンデレラは劇的ドラマチックな事が大好きだ。

 思い込みが強い分、平凡なことでは満足しないのよね。


 ここしばらく一緒に暮らしてみて心底わかったのだけど、これはもう彼女の変えられない性格だってこと。

 いや、本当にね、悪い子じゃないのよ。

 寧ろ、純粋すぎるからじゃないかなぁ。

 だから憎めない。


 そして、普通どれ程の劇的ドラマチックなものを望んでも、美貌だの華やかさが不足していては、なかなか、そうもいかないのだけど。


 でもシンデレラは、シンデレラならのよね。


 だから、普通に王子様から街で見かけられて一目惚れされました、じゃダメなんだろうなぁ。

 そこに何か劇的要素が必要になるというわけね。ふーむ。


 そこを理解して舞踏会を開こうと言うんだから、王子様もなかなかノリが良くて、シンデレラの事をかなり良く見てるんじゃないかなぁ。これはお似合いかもねぇ。


 あたしが色々考えている間、お義父様とお母様は縋るような目でこっちを見ていた。


 ふぅ。ドリゼラの方を見ると、彼女もうんうん!と決意の表情をしてる。


 あーもう、仕方ないわねぇ。

 一肌脱ぎますか。


「わかりましたわ」

 あたしが力強く頷いて見せると、お義父様は感動の、お母様も期待の眼差しでこちらを見ていた。


 まったくもう!

 これが上手くいったら、ぜーったいコレクションを大っぴらに部屋に飾るんだもんね!

 誰にもこのオタク生活に文句は言わせないんだから。


 そして『GOGO!シンデレラ舞踏会作戦』(お母様命名)は密かに着々と進められたのであった。


 §


【計画書】と書かれた紙を囲んで、あたし達は椅子に座っていた。

 お義父様とお母様はシンデレラに怪しまれないように卵を使わないお菓子(特製、卵アレルギーのシンデレラ用)と紅茶でシンデレラを引き止めている。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


【計画書】

 ①時間の制限

*時間に制限を設けた方がハラハラドキドキ感が増す。

 ・少し遅れて舞踏会に到着。

 ・真夜中の0時までに帰りつかないと魔法が解けてしまうという縛りをワザと設ける。


 ②ドレスについて

 ・舞踏会の少し前から、シンデレラの気分を盛り上げるために以前着ていた灰被りのドレスを何気なく用意。

 ・そこから美しいドレス(王子様よりプレゼントあり)への劇的な着替え方法。何かないものか←\_(・ω・`)ココ重要!考える余地あり!


 ③靴

 ・美しく印象に残る素材は?

 布に飾り付けたものではインパクトが弱い?

 履きにくさはあれどガラスでは?

 普通じゃない方がシンデレラも飛びつきそう?

*帰りに片方残しておいて、名乗らず消え(ミステリアスな演出)探させる(盛り上がり最高潮!)


 ④馬車と御者

 ・意外性のあるもの?変身的な感じで?

(ドレスの変身とセットで考えられないか?)


※シンデレラを舞踏会に敢えてワザと連れていかないという意地悪で悲劇性を盛り上げる。

 その後で一発逆転!


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 うーーーむ、書き散らした計画書を前にしてあたしは唸っていた。

 とにかくドラマチック!この作戦のキモはそれに尽きるわ。


 横で考えこんでいたドリゼラが口を開いた。

「この靴だけど、ガラスの靴ならね、何とかなるかも」


「実はお姉様には話してなかったけどアタシガラス工芸始めててね」


 へぇーオタクで、どちらかというと内に篭っていることの多いこの子に、そんな打ち込むものが出来ていたなんて。

 お人好して大人しいばかりと思っていた我が妹の意外な一面に驚くやら、頼もしく思うやら。


「工房の師匠に事情を打ち明けて相談に乗ってもらおうと思うのよ」


「でも、その師匠という方、口は固いのかしら?」

 あたしが聞くと、何故かドリゼラは真っ赤になって、慌てたように

「だっだっ大丈夫よ。とても誠実で素敵な方なんですもの」

 と、答えた。


 あーーもう一人ここに別の意味で厄介な……。


 こうして少しずつ、あたし達の『GOGO!シンデレラ舞踏会作戦』(お母様命名)は着実に進められたのであった。


 しかし、大丈夫かな?これ……。


(続)

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