◆ちょっと待ってよ、シンデレラ◆

 怒涛どとうの自己紹介?から1日過ぎてから、やっとあたし達は落ち着くことができた。


 シンデレラにも名前を伝えて、義姉として「改めて、よろしくね!」と挨拶することもできたしね。


 うん、あのさ、悪い子じゃないのはわかった。悪気があるんじゃなくて、お義父様が言う通り、思い込みが激しいだけなのよね。


 お母様はあれから、大変だったらしい。

 お義父様とシンデレラの部屋まで行って、何とか部屋まで入れてもらったみたい。


 そして、とにかく落ち着かせて、服を着替えさせてから、話を聞いてみたそうだ。


「それが、お伽噺とぎばなしの影響もあるみたいでねぇ」

 お母様が額に手を当てて困ったように言った。


「お伽噺とぎばなし?」

 あたしとドリゼラは部屋に戻ってきたお母様を訪ねて話を聞いていた。


「そう、お伽噺とぎばなし。最近流行りのお話は、ほら、継母と虐げられる美しい姫が出てくるのが多いでしょ?」


「確かに」

 うなずくあたし達。

 こういうのは悲劇性があればあるほど、後のハッピーエンドが引き立つから、このパターンを好む子は多い。


「感受性が強い子なのねぇ。すっかり影響を受けちゃったみたいでねぇ」


「ふむ、それってアレかな?

 この右手に宿ったドラゴンの蒼き魂、今解き放つ!とかそういうの?」

 と、これはドリゼラ。


 ドリゼラ、あんたもそういえば、好きだったよね、そういうの。


「うーん、気持ちわかるんだけど、ちょっとこじらせちゃってるのかもねぇ」

 ドリゼラはシンデレラに同情的だ。


 お母様も、うんうんと頷いている。

「ここは、何とかわたくし達の力で健全なオタクへと戻しましょう。お父様もご心配されているのよ。せっかくお城の舞踏会も近々開かれるというのにねぇ」


 え?今、サラッとオタクとか言いましたけど、お母様。

 ドリゼラとお母様は何やら作戦会議をしている様子。


 あたしは、何だか取り残されたみたいな気持ちになって紅茶を啜った。

 そういえば、あたし達は初めから行く気がなかったんだけど(さすがにねぇ、よりすぐりの美女が集まるって噂だし)王子様の花嫁を選ぶ、舞踏会があるらしい。


『何よ、それなら、あたしのあのコレクションだって隠さなくても良かったんじゃ……』

 あたしの頭の中は既に、我がコレクションの置き場所についての事でいっぱいになっていたのだった。


 その後に起こる、あの悪夢の騒動など知る由もなく……。


 §


 夕食時、さすがにもうシンデレラも灰まみれのドレスを着るのは止めたようだ。

 青いドレスに着替えたシンデレラは一段と美しい。


『あの衝動的な思い込みの激しさが少しおさまってくれたらなぁ』

 しみじみと心で呟く。


 あたしもドリゼラも、結構オタクだから、気持ちが分からなくもないし、仲良くなれると思うのよね。


 とにかく、継母と義姉たちが必ずしも意地悪で美少女を虐めるばかりではない事をわかって貰わなきゃね。

 この誤解は早めに解いておきたいし。


 そして早速、夕食後に接近。

「シンデレラ、ちょっといいかな?」


 まだ若干緊張が抜けないようなシンデレラがコクリと頷く。

 うん、やっぱり可愛い!

 ドリゼラなんてもう頬がゆるんじゃってるもん。


「後でお部屋に遊びに行ってもいい?」

 ドリゼラが声をかける。


 ちょっと驚いた様子だったけど、

「何かオヤツ持っていくから紅茶でも飲みましょ?」

 と誘うと意外にも、ちょっと嬉しそうみたい。


 こうして、あたし達は食後におやつのクッキーを持ってシンデレラの部屋をノックした。


 コンコンコン


「はい、どうぞ」


 シンデレラは部屋着に着替えていて、これもよく似合っている。

 美少女って得よねぇと改めて思う。


 早速、テーブルに座り、まずは紅茶を飲みながら、どんなお伽噺とぎばなしの王子様が好き?とかの、たわいない話。


 そして、シンデレラが、あたし達がオヤツに持ってきたクッキーを一口齧かじった後に、それは起こった。


「か、痒い!」シンデレラが腕をポリポリ掻き出したのだ。


「シンデレラ?もしかして、卵アレルギーとかあるの?」

 慌てて聞くあたし達。


 頷くシンデレラ。


 ああ!やっちゃった。

 仲良くなる為のお茶会でアレルギーの有無を調べずにクッキーを持ってきちゃったことは、あたし達のミスだ。


 とにかく、主治医を呼んでこなきゃ。


「シンデレラ……」

 ドリゼラに主治医を呼びに行かせた後で、シンデレラに駆け寄ろうとすると、手を振り払われてしまった。


「やっぱり、やっぱり、お義姉様たち、私の事がお嫌いなのね。だから、わざとこんな……」


「ごめんなさい、こんなつもりじゃ、違う!違うのよ!シンデレラー!」

 泣きそうなあたしを尻目しりめにシンデレラの目がまた、つり上がる。


「ちょっと待って!ちょっと待ってよ、シンデレラー!!!」


 あたしの声は入ってきた主治医の声に掻き消されてしまい。


 シンデレラのアレルギーは酷いものでは無いようで、すぐにひいていってくれたんだけど、それでも当然ながら、あたしとドリゼラはお母様から、しっかり怒られた。


 そして


 シンデレラは、それから3日間、口を聞いてくれなかったのだった。トホホ……。


(続)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る