40 幼女魔王、最強の魔物と対峙する②
薄暗く洞窟のような通路を四人の女性冒険者が一列になって進んでいる。
光という光は彼女達の先頭にいる女性冒険者──ラフィエールが持っているランプの明かりのみで彼女達の数メートル先には暗闇が広がっていた。
「もうすぐ外に出られると思いますので……」
そう発言したのは先頭を歩くラフィエール。
彼女は後ろに続く三人を心配するように三人がいる方向へと体を向ける。
「もしかして心配しているのか?」
ラフィエールがそこまで顔に表情を出してしまえば当然サキも気づかざるを得ない。
サキはラフィエールへと単刀直入に問いかけた。
「ええ、これからドラゴンと戦うのですから心配して当然です」
「そこに俺も含まれているのか?」
「はい、当然です」
ラフィエールの自分も心配される対象に含むという返答に疑問を覚えるサキ。
サキが疑問を覚えたのも彼女は元魔王、ラフィエールは勇者パーティーの子孫と普通だったら敵対すべき者同士だからだ。
いくら人間に危害を加えるつもりはないとラフィエールに伝えたとはいえ、そんなすぐに気持ちが切り替わるとはサキ自身思ってもみなかったのである。
「サキさんは魔王である自分に何故心配を……とでも思っているのでしょうがサキさんは私のことを少々勘違いしています」
ラフィエールはサキの顔を見て考えていることを察したようで彼女に対してゆっくりとした分かりやすい口調で言葉を発する。
「確かに私は勇者パーティーの賢者ラフィラ様の子孫で、サキさんは昔ラフィラ様が封印した魔王です。ですがそれは昔のことですよね? 私は昔のことをグダグダと引きずったりはしません。大事なのは今です。そうですね、私もはっきり伝えていなかったのが悪かったのかもしれません。なのでこの場で伝えます」
ラフィエールは一つ大きく息を吸うと宣言する。
「サキさんについてはまだ分からない部分もありますが私はサキさんのことを仲間だと思っています」
ラフィエールの宣言を受けたサキはしばらくの間何も言うことが出来なかった。
まさかラフィエールの口からそんな言葉が飛び出して来るとは思っていなかったのだ。
沈黙が場を支配する中、ラフィエールは再び口を開く。
「とにかくこれで分かっていただけましたか? 私が何故サキさんを心配するのかを」
ラフィエールは『仲間』という言葉を面と向かって口にするのが恥ずかしかったようでコホンと一つ咳をすると顔を薄い朱色へ染めた。
「今更私が何を言っても無駄でしょう。なら私に出来ることは皆さんを外に送り出すことくらいです。必ずドラゴンを倒して戻って来て下さい」
ラフィエールはサキ達にエールを送ると自らの拳を前に突き出す。
「ああ、必ず戻ってくる」
サキはラフィエールの突き出した拳へと自分の拳を合わせるように突き出しラフィエールの目を見る。
一方のラフィエールはサキと彼女の後ろにいるレイラ、セレナと目を合わせた後、外に続く方向へ振り返ると薄暗い通路を再び歩き出した。
◆◆◆
サウストリスタに程近いサルトラ大森林。
その森に鬱蒼と生い茂っている五メートル程の巨大な木々の上からは一つの黒い影が顔を出していた。
二足歩行をするその黒い影は正確には影ではない。
『ブラック・ドラゴン』
その巨体と獰猛な性格から町に現れたら最後、その後には何も残らないとまで言われているEX級の魔物だ。
その魔物は現在サルトラ大森林の入り口付近で何かを探すように周りを見渡している。
そして魔物の肩の上には頭から角を生やした肌が薄紫色の男が腕を組んで立っていた。
「私が召喚している間に一体どこへ行ってしまったのですか……サキル様」
男の目的は自分の元上司を始末すること。
男が乗っているドラゴンもそのために彼が召喚したものであった。
「見つからないのなら仕方ありません。この魔物の使い心地を確かめるため、とりあえずあの町を更地にしましょうか」
男──サタルニクスは手を前に出すと大きな声をあげる。
「進め! 『ブラック・ドラゴン』!」
サタルニクスの声に反応しドラゴンは前進する。
ドラゴンはまるで機械のように感情なく動いていた。
それも彼がそのドラゴンに使役魔法をかけているためである。
使役魔法、現在では廃れてしまった古代魔法に分類される魔法で対象の体を術者の魔力によって支配し動かすという魔法だ。
しかし、その魔法は通常多くの人と多くの魔力が必要であるため中々発動することができない。
そこでサタルニクスは使役魔法を改良し、全身ではなく主要な部位──頭、胸部など──のみを魔力で支配し使役出来るようにしていた。
サルトラ大森林での一連の騒ぎは彼が試しに使役した魔物によるものだった。
「ギャオォオオ!!」
ドラゴンは一歩一歩大きな歩幅で確かに町へと近づいていく。
大きな足を踏み出す度に揺れる地面、その音は着々と町に近づいていた。
「打てええぇええ!!」
町から響く大きな声と共にサタルニクスが使役するドラゴンへ飛来する複数の砲弾とバリスタの弾。
弾の多くはドラゴンの体に当たるが、その程度では『ブラック・ドラゴン』の鋼のように硬く黒い鱗を貫くことなど出来ない。
ダメージを与えるどころか寧ろサタルニクスの怒りを買ってしまっていた。
「その程度では私の『ブラック・ドラゴン』にダメージすら与えられませんよ。ですがやられたままというのも
サタルニクスが頭の上から手を振り下ろすとドラゴンはその場に立ち止まり口を半開きにする。
ドラゴンの口の先端から三十センチ前方の空間には火の塊が生成され始めていた。
火の塊は徐々に大きくなり球体へと形が付いていく。
「では行きますよ。放て!」
サタルニクスの言葉に合わせてドラゴンは大きく口を開くと今まで生成していた火の塊を前方へ放った。
放った火の塊は一直線に町の外周をぐるりと囲む石の城壁へ向かっていく。
しかしその火の塊は城壁に当たる数メートル手前で横から飛来した水の塊と衝突して消滅した。
「何事ですか!? 『ブラック・ドラゴン』の攻撃を止める人間などいるはずが……」
サタルニクスは目を凝らして前方を見る。
だが門を守っている人間達の中にそれらしき人物は見当たらない。
「一体誰が私の邪魔を……」
続けて彼が門の周りを見渡していると、三人組の人影のようなものが見えた。
三人組のうち一人は腕を前に突きだした状態で止まっている。
どうやらその者が魔法を発動してドラゴンの放った火の塊に衝突させたようだった。
しかし、そんなことが出来るのは限られている。
サタルニクスは魔法を放った者の姿を見た途端に笑みを顔に浮かべた。
「そうですか、やっと見つけましたよ。サキル様」
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