39 幼女魔王、最強の魔物と対峙する①

 サウストリスタ宿場区画にある宿で作戦会議を終えた四人は町に残るラフィエール、ドラゴンと対峙する予定のサキ、レイラ、セレナの三人に分かれて行動していた。

 そのなかでもドラゴンと対峙する予定の三人は現在町の中でサルトラ大森林に最も近いサウストリスタ西門へと向かっている。


「分かっていると思うが気を抜かないようにな。今回ばかりは助けに入ることが出来ないかもしれん」

「うん、私達頑張るよ! ドラゴンなんて私の魔法で倒しちゃうんだから!」


 レイラは強気な発言をしながらも顔だけは正直なようでこわばった表情をしている。

 彼女は皆の緊張をほぐすために強気な発言したのだろうが自分自身が緊張していてはまったく持って意味がなかった。


「本当に大丈夫なのか?」


 サキはそんなレイラを心配しながらも門までの誰もいない道のりを歩き続ける。

 そしてようやく門の近くまでやって来たサキ達の二十メートル先では複数の兵士らしき人達が門の外で集まっていた。

 緊迫した雰囲気を体から出している彼らは一見町を守っているように見える。

 だがその反面でいつ町を襲うか分からないドラゴンに怯えているようにも見えた。

 とにかく今は門から町の外に出なければいけない。

 そう思ったサキは前へと進む。


「サキちゃん、なんかあの人達さっきから動いてないよ」


 サキ達が前へと進んで門を潜っているときだろうかレイラは兵士達の様子に違和感を感じサキへと話しかけた。

 それからレイラの言葉を聞いたサキは前方にいる兵士達を見る。

 よく目を凝らすと彼らはある一点を見つめて固まっていた。


「ああ、確かにおかしいな」


 まるで石化でもしているかのような光景にサキは不気味さを覚える。

 彼らが固まっている理由は別に石化しているからというわけではなく彼らの視線の先にあった。

 サキ達が近づいても気づく気配すら見せない兵士達の視線の先、そこにはサルトラ大森林からゆっくりと町へと向かっている『ブラック・ドラゴン』の姿があった。

 『ブラック・ドラゴン』はまるで何かを探している素振りであちこちに首を巡らせている。

 そう、彼らはこちらへと迫ってくる『ブラック・ドラゴン』の恐怖から動けずにいたのだ。


「ドラゴンがこちらに向かって来ているじゃありませんの!」


 サキに続いて『ブラック・ドラゴン』の姿を確認したセレナは大きな声をあげる。

 そんなセレナの大声のおかげか先程まで固まっていた兵士達が次々と我に返った。


「……はっ! こうしてはいられない! 今すぐギルドへと応援要請を頼む!」

「分かりました!」

「よし、残りのものはバリスタと大砲を用意しろ! 出し惜しみはするなよ!」


 兵士達のまるで機械のスイッチをオフからオンに切り替えたかのような反応に驚くサキ達。

 そのサキ達に今更ながら気づいた兵士の隊長らしき大柄の男は彼女達へ一目視線を向けると言葉を発した。


「女、子供が何故ここにいる! 危ないから町に避難していろ! おい、誰かこの女子供を町に避難させてくれ!」

「ちょっと待ってくれ! 俺達は冒険者だ!」


 サキは必死に自分達が冒険者だと告げるが兵士の男は聞く耳を持たない。


「何を言っている? お前のような子供が冒険者としてやっていけるはずがないだろう! 夢を語るのはいいが時と場合を考えろ!」


 それどころか大柄の男はサキに説教を始めた。

 その光景にセレナは一旦引き下がろうとサキとレイラの肩を叩く。


「サキさん、レイラさん、一旦引きましょう。ここで言い争っていてもらちが明かないですの」

「うむ、ここで待っている暇はないのだが仕方がない。一度引き返すとしよう」


 セレナの冷静な判断にサキは渋々引き下がることを承諾する。

 『ブラック・ドラゴン』と戦う前に兵士達と言い争うとは思ってもみなかったサキはそれからレイラとセレナを伴い兵士に連れられていった。


◆◆◆


「ここに入れば大丈夫だろう。指示があるまで避難していろよ!」


 先程の兵士達の隊長らしき大柄の男に指示されサキ達を避難所連れてきた兵士は強く念押しするとすぐさま去っていく。

 残された三人は兵士を見送った後、地面から入口部分だけ顔を出す地下に繋がる扉へと体を向けた。


「で、ここまで来たわけだが」

「ドラゴン退治のつもりがなんか避難することになっちゃったね」

「あそこは一度引いておかないといつまでも先に進めませんでした。この行動は間違ってはいませんの」

「でも困ったな。これではドラゴンと戦うことすら出来ない。そうなれば俺のせいで町が……」


 サキは眉をひそめて不満を漏らす。


 門にいた兵士達ではEX級の魔物『ブラック・ドラゴン』の相手にはならない、すぐに倒されてしまうのは目に見えていた。

 そうなれば町は『ブラック・ドラゴン』によって破壊されてしまう。

 『ブラック・ドラゴン』に唯一対抗出来るサキも今は町の中に軟禁されているようなもの。

 サキ達が町の外へと出ないことには町が破壊されるという未来は防ぎようもなかった。


「あの皆さんこんなところでどうしたのですか? ドラゴンに戦いを挑むため門に向かったのでは?」


 困るサキ達へと声をかける人物が一人、それは町に残ると言って宿を出ていったラフィエールである。

 彼女はサキ、レイラ、セレナの三人が町の中央付近にある地下避難所近くで話をしていることに疑問を覚えていた。


「その声はラフィエールか、それが門の外に出られず追い返されてしまってな」


 サキの返答にしばし考えるラフィエール。

 それから彼女は一つの案をサキ達に提示した。


「なるほど、分かりました。それならこの避難所の地下から外に出るルートが一つありますのでそちらを通ってみてはいかがでしょう」

「それだ! それなら外に出られるではないか!」


 ラフィエールの提案に肯定を示したサキはレイラとセレナにも視線で意見を求める。


「外に出るのはそれが一番早いんじゃないかな?」

「門の兵士に捕まらないのなら何でもいいですの!」


 サキ達三人の返答を聞いたラフィエールは地面から顔を出す避難所の入口へと向かう。


「それなら私について来てください。案内します」


 それからサキ達はラフィエールの指示に従い避難所の入口の中へと入っていった。

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