35 幼女魔王、異変の元凶と遭遇する①

 サルトラ大森林の奥地手前にある一つの洞窟。

 入口の周りが木々に覆われ隠されており、普段なら人も魔物も近づくことがない場所だ。

 洞窟内は人の形を判別出来る程度の光しか届かず常に薄暗さが辺りを支配しているため、どこか不気味な空気が洞窟内には流れていた。

 そして現在その洞窟内を四人の女性冒険者が探索している。

 彼女らは一体の魔物を追い洞窟の奥深くまでやって来ていた。


「レイラちょっといいか?」


 サキはレイラに手を離すように求める。

 彼女の不自然な行動にレイラは彼女に対して疑問を抱いた。


「サキちゃん? 一体どうしたの? そんなに怖い顔して」

「いや、少々嫌な気配を感じてな」


 サキが見つめるのは前方。

 暗くて先を見通すことは出来ないが彼女は何かを感じ取っていた。


「嫌な気配? もしかして洞窟に入っていった魔物かな?」

「その可能性はありますね。気を引き締めて行きましょう」


 それから一歩一歩慎重に奥へと進んでいく四人。

 しばらく道なりに進み、とある角を曲がったときセレナが声をあげる。


「何ですか!? 先にある曲がり角が緑色に光ってますの!」


 セレナの視線の数十メートル先にはまたも曲がり角、しかしそれは先程の曲がり角と異なり強く緑色に光っていた。


「行ってみよう」


 ここは洞窟内、強い光がましてや緑色の光などあるとは思えない。

 不審に思ったサキ達は光を放っているであろう曲がり角の先へと行ってみることにした。


 曲がり角までの道のり、サキを先頭にして今まで以上に慎重進む一行。

 ようやく曲がり角の手前まで来たサキは他の三人を手で制止した。


「少しここで待っててくれ」


 それからサキは一人曲がり角の先を見る。


「こ、これは……一体どういうことなんだ!?」


 曲がり角の先を見た瞬間まるで予想していなかったという様子で驚くサキ。

 そんな彼女の反応にサキ以外の三人は彼女に何を見たのかを尋ねる。


「サキちゃん、何があったの?」

「そうですの! 何を見たのですか?」

「サキさん、教えて下さい」


 三人がサキに尋ねるも何も言葉は返って来ない。

 ならば仕方ないと三人もサキが見ていた曲がり角の先を見る。


「なんですの!?」


 彼女達の視線の先には小さなドーム状の空間が広がっており、その中に頭から角を生やした男が一人と先程この洞窟内に入って行ったサルトラウルフの姿があった。

 そして男は何か一人で話しているようだった──。



「これなら十分すぎる成果です。しっかりコントロールも出来ているみたいのようですし、の時代が来る日も近いようですね……」


 一行の視線の先にいる男はククッと気味の悪い笑い声をあげると目の前にいる魔物──サルトラウルフを見る。

 彼は身長二メートル程ある大男で肌が薄紫色、頭に角が生えていることから人というよりは魔物に近い見た目をしていた。


「しかし、まだ精密に魔物を制御は出来ない。もう少し改良する必要がありそうですね」


 それから男はサキ達がいる方向へと顔を動かすと一言呟く。


「ところで先程から何の用ですか? 見せ物ではないのですが」


 男のその言葉に今まで沈黙を貫いていたサキはすぐさまこの場から離れるように他の三人に告げる。


「まずい! すぐこの洞窟から出るぞ!」

「この状況を見せて私が逃がすと思いますか?」


 サキが他の三人を連れて洞窟の出口へと向かおうとするが彼女達が通ってきた道は既に土で出来た壁に塞がれていた。

 それを見て既に逃げ道はないと悟ったサキは一行の先頭に出て男がいるドーム状の空間へと向かう。


「いやはや人間が四人も紛れ込んでいたとは……おや?」


 サキが他の三人を連れて男のもとに向かうと男は一度四人全員を見渡してから再びサキを見る。


「あなたは……もしかしてサキル様ですか?」


 男の言葉にサキは諦めたような、サキ以外の三人は驚いた顔をする。


「間違いありません、その強大でなおかつ滑らかな魔力の流れはサキル様です。お久しぶりですね」


 男が挨拶をするもサキは返事を返すことはしない。

 彼女は今それどころではなかった。


「サキちゃんが魔王……」


 サキは今まで仲間に自分が魔王だということを隠してきた。

 それも正体を明かしてしまえば仲間との関係が崩れてしまい、下手したら今度こそ討伐されかねないため。

 だからこそ正体を隠していたのだが、この状況既にゲームオーバーである。

 彼女にとって今まで築き上げていたものが一気に崩れ落ちた瞬間であった。

 事実、レイラは信じられないといったような顔をしている。

 きっと自分に失望しているのだろうとサキは思っていた。


「私がサキル様の封印を解くのにどれだけ苦労したか。とはいっても私は魔法を一つ設置しただけなのですがね。こう見えて忙しいもので」


 男は勝手にペラペラと要らぬことまで話し続ける。


「……ところでそちらの人間共はどちら様ですかね?」


 そして突然サキの後方にいる三人へと話題が移った。

 あまりにも突然だったのでサキは反射的に男の質問に答えてしまう。


「三人は俺の仲間だ」

「ほう、仲間ですか。どうやらまだどうかしておられるようですね」


 男はサキの後方──サキ以外の三人を視線の先に捉えると目を細め、睨み付ける。

 彼の顔は人間という生き物を見下しているような表情を浮かべていた。

 しかし、その表情を浮かべたのも一瞬ですぐにサキへと顔を動かし笑みを作る。

 サキは男の一連の様子に苛立ちを覚え始めていた。

 人間というだけで目の敵にする男がたまらなく許せなかったのだ。


「どうかしてなどいない! 俺の杖を盗んで姿を消して、お前こそどうかしているだろう!」

「まだそのことを怒っていらっしゃるのですか? あれは魔族全体のためを思ってのことですよ。今も同じですがあのときのサキル様はどうかしておられた。まさか人間と共存するなどとおっしゃられるとは」


 男はお痛わしいというように頭を抱えて見せる。

 その男の行動に馬鹿にされているとでも思ったのかサキは顔の表情と言葉で怒りをあらわにした。


「サタルニクス!!」


 サキが口にしたのは男の名前。

 サキの元部下であり過去に彼女が魔王時代に愛用していた武器を持って姿を消した魔人だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る