34 幼女魔王、異変を調査する②

 サキとレイラの突如始まった戦いが終わりを迎えてからしばらく経ちサキ一行はサルトラ大森林へ足を踏み入れている。


 サキ達がこの森に入ったのは森に生息する魔物を調査するため。

 というのも最近サルトラ大森林では普段森の奥地にいるはずの魔物が森の浅い場所に出てきてしまっているようなのだ。

 森の奥地から浅い場所に出てくることはたまにあるらしいが今回は少し出てくる魔物の様子がおかしいらしい。


 普通浅い場所に出てくる魔物の大半が魔力を持った動植物の補食のため、または強力な魔物から逃げるために浅い場所へと向かい用事が済めば元の場所へと戻るのだが、今回の魔物は何故か全て理性を失って浅い場所へとやって来ているようでいつまでも元の場所へと戻らずそのままとどまり暴れ続けるようなのだ。


 そのためサキ達は理性を失い暴れている魔物の出現が多い森の浅い場所と奥地の境目付近へ向かっていた。

 しかし、サルトラ大森林の道中で魔物と全く遭遇せずにすんなり進めることなどあり得ない。

 サキ達は現在魔物の群れと交戦していた。


「サキちゃん! そっちに行ったよ!」

「分かった、下がっていろ!」


 サキは前方にいる一見木にしか見えない魔物達──アルベロ三体に杖を向けて闇魔法『ダーク・アビス』を発動させる。

 サキが発動した魔法はアルベロ三体の足元で展開するとアルベロを闇の中へ引きずり込み始めた。

 しかし、それだけでは足止めのみで倒すまで至らない。

 下級の魔物相手なら抵抗すらさせず闇の中に呑み込んでいたが中級の魔物──アルベロ相手では少々荷が重かった。


「よし、動きは止めた! 後は任せたぞ!」


 サキが両隣にいるセレナとラフィエールにそう告げると彼女らはサキの前に一歩出て前方のアルベロへとそれぞれ魔法を放つ。


「『アイス・ジャベリン』!」

「『ウォータ・カッター』!」


 二人の放った魔法は氷魔法『アイス・ジャベリン』と水魔法『ウォータ・カッター』。

 氷の槍と水の刃がアルベロへと襲いかかる。


「ゴォオオ!」


 アルベロ三体はサキの魔法で足止めされているため当然動けるはずもなく、ラフィエールとセレナの魔法によってバラバラに切り刻まれた。

 後に残るのは元々アルベロだった木の残骸だけである。


「よくやった、二人とも」


 サキはアルベロがバラバラに刻まれるを確認した後二人にそう声をかける。


「サキさんのお役に立てたようで何よりですの」

「今の連携はなかなか良かったですよ」


 そんなサキの声にセレナはやってやったという誇らしげな顔を、ラフィエールは今の戦いに称賛する言葉を返した。


「そうだな、なかなかに見事だった」

「本当ですか!? そう言ってもらえて光栄ですの!」


 セレナは仲間の役に立てたことを喜ぶ他に少し安心もしていた。

 今のサキの言葉で自分がパーティーの役に立っていないのではないかという不安が完全に消えたのだ。


「よし、では先に進もう。いつまでも時間を魔物に取られるわけにはいかないからな。今日中にはある程度調査をしたい」


 その後サキは他の三人を引き連れ、森の奥へと再び歩を進めた。


◆◆◆


 サキ達一行が森を奥へ奥へと進み続けて数時間、出来るだけ魔物との戦闘を避けてきた彼女らはとある洞窟の前にいた。


「ここに入って行ったね」


 そう言葉を発するのはレイラ、彼女達は森の奥へと進み一体の様子がおかしい魔物を発見していた。


 その魔物の名はサルトラウルフ、素早さと凶暴さから中級の魔物の中で比較的上級に近い魔物だ。

 普段は森のやぶ、木の上などに隠れ潜み獲物が来たときにだけ姿を現す『森のハンター』と言われている魔物だがサキ達の発見したサルトラウルフは周りの木々を破壊し暴れまわっており姿を隠す気配が微塵も感じられなかった。

 現在そんな様子がおかしい魔物の後を追い、とある洞窟の前までやってきていた。


「そうだな、何か手がかりがあるかもしれない。入って見よう」


 サキの言葉に頷いた他の三人はサキを先頭にして続々と洞窟の中へ入っていく。

 それからサキは一行全員が洞窟内に入ったことを自分が振り返ることで確認すると一行全体に注意を促した。


「ここは少々暗い、気を抜かないようにな」


 洞窟内の暗さで一行それぞれがどんな表情をしているのかはよく分からないが、皆緊張しているのは一行の周りに漂っている空気から感じとれる。

 ここはサルトラ大森林の奥地手前の洞窟内、強力な魔物がいると噂される大森林の奥地だ。

 いつ何が起こるのか誰にも予想出来ない。

 ましてや現在様子のおかしい魔物を追っている最中、危険度はかなり高かった。


「私、頑張るよ」


 レイラは緊張で肩に力が入りすぎており体全体の動きがぎこちない。

 そんなレイラの様子を見たサキが彼女に一言いった。


「レイラ、肩に力が入り過ぎても危ないからな。もう少し力を抜いてもいいぞ」


 続けてラフィエールも一言。


「そうですよ。多少緊張感を持つのは良いですが緊張しすぎて戦闘時に体が動かなくなるのは困ります。例えば深呼吸やストレッチなど何か自分がリラックス出来ることはないのですか?」


 サキとラフィエールから注意を受けたレイラはリラックス出来ることを考える。

 そして真っ先に彼女の頭の中に出てきた答えは彼女にとってある意味当然の答えだった。


「リラックス出来ること……サキちゃん」


 レイラの頭は常にサキのことを考えている。

 からまで常にだ。

 その彼女が何か考え事を始めれば高確率でサキのことが頭に思い浮かぶ。

 それは彼女がリラックス出来ることを考えても同じことだった。

 彼女は咄嗟に思い付いた『サキ』という言葉を口に出すとサキがいる方向へと顔を動かす。


「な、なんだ?」

「そうですか、ならそのサキさんにどんなことをする、もしくはされればリラックス出来るのですか?」


 突如レイラから向けられた顔に戸惑うサキを気にせず話を続けるラフィエール。

 彼女の問いにレイラは再び考え始めた。


「サキちゃんと手を繋げばリラックス出来るかも……」

「それです。仲間の緊張をほぐすためならそのくらいサキさんは引き受けてくれます。ですよね?」


 ラフィエールは確認の意味を込めてサキに質問を投げかける。

 しかし、このときには既にサキの意思に関係なくレイラのお願いを承諾しなければいけないという空気が流れていた。

 危険な洞窟内で手を繋ぐというのは少々危ない気もするがレイラが緊張で戦えないという状況よりはマシだ。

 それにサキとレイラは基本的に魔法を主体として戦うスタイル、手を繋いでも戦闘時に出遅れるということはない。

 そうなればサキには一つしか選択肢がなかった。


「分かった……引き受けよう。だが流石に戦闘中は手を離してくれ」

「うん、分かってるよ!」


 こうして半ば強制的にレイラと手を繋ぐことになったサキは一つだけ条件をつけて洞窟内を進むことにした。

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