30 幼女魔王、商業都市に辿り着く
サウストリスタ、人口およそ五十万人で町全体が石造りの商業都市。
人口はラフィリアよりも劣るものの、活気はラフィリア以上にある国の中でも比較的大きな商人のための町だ。
商業都市というだけあって町で見かける者は商人が多くラフィリアとは桁違いの露店が町中に並ぶ。
その町の東西南北にそれぞれ一つずつある門のうち北門からサキ達を乗せた五台の馬車が次々と町の中へと入っていく。
ガタゴトと振動を伴い石畳の上を走る馬車の上ではサキとレイラが町の中を見渡していた。
「この町もなかなか大きいな、それに建物が全体的に固そうだ」
「そうだね、ラフィリアの町では大体木で出来てたからね」
二人が興味津々に周りの建物を見ていると二人の乗る馬車を操作する商人の男から注意が入る。
「お嬢ちゃん達、町を見るのは良いがあまり車の上で
二人は気づかないうちに馬車を揺らしてしまっていた。
馬車の荷台に積みあげられている商品を固定する紐が先程の揺れのせいで外れて今にも落ちそうになっている。
「すまない珍しかったものでな。紐は俺達が直しておく。ほら、レイラも手伝ってくれ」
「はーい、サキちゃん」
「お嬢ちゃん達、直さなくて大丈夫だよ。ここはもう町の中だからね。それよりは落ちそうな商品を少し直してくれるかい?」
馬車を操作する商人の男は前を見ながら彼から見て後方の荷台にある商品を指差す。
「分かった、任せておけ」
サキとレイラが荷台の商品の位置を直してから数分、町の通りを道なりに進んだ馬車は冒険者ギルドの入口前で止まった。
「ギルドから何か紙は貰っているかい?」
「ああ、それならここに俺とレイラの分がある」
サキが自らの着ているローブの中から紙を二枚取り出すと商人の男に渡す。
男は紙を受けとると紙に自分のサインを書き、それからサキに手渡した。
「これで依頼は終了だよ。いや助かったよ、機会があればまたお願いするよ」
サキ達と共にいた商人の男を含む五人の商人達は護衛の冒険者達を下ろすと馬車を走らせ次々と冒険者ギルドを離れていく。
サキとレイラは商人達が走らせる馬車を見送った後、依頼を完了させるため冒険者ギルドの中へと入っていった。
◆◆◆
サウストリスタの冒険者ギルドはラフィリアの町と同じようにコの字をしており、周りの建物と比べてもかなり大きく目立っている。
それに建物が全て石で出来ているため木で出来たラフィリアの町の冒険者ギルドよりも頑丈な印象をサキ達に与えていた。
そんなサウストリスタの冒険者ギルド二階テーブル席。
依頼の完了報告をしたサキとレイラの二人はそこで向かい合って今後の行動について考えていた。
「これからどうするか」
「うん、しばらくというか当分の間ラフィリアの町には戻れそうにないよね」
「うむ、結構遠いからな。同じような依頼がないと無理だろうな」
ラフィリアの町に戻れないのなら、サウストリスタで生活するしかない。
ラフィリアを出る前から分かっていたことだが、いざ戻れないとなるとやはり困ってしまうものである。
「やはりまずは宿の確保が先だろうな。果たしてこの町に安い宿があるかどうか」
「そうだね、あんまりお金持ってないから高くても千五百ルークまでかな」
「うむ、やはりそれが限界か」
冒険者をしていく上、そもそも生活する上で最も重要な寝床の確保でうんうんと唸るサキとレイラ。
そこへコツコツと足音を鳴らし近づく影が二つ。
「ちょっと良いですか?」
二つの影の正体、それは今回の商人護衛依頼で飛び入り参戦してきたラフィエールとセレナだった。
その二人はサキとレイラが座っているテーブルの前で止まると彼女達に自分達も席に座っても良いかという確認をとる。
「お前達は確かセレナとラフィエールだったか。とりあえず座ってくれ」
レイラとの話に熱中していたサキも話しかければさすがに気づくようで今までレイラに向けていた顔をセレナとラフィエールへと向け、席に座るよう促した。
「では失礼して」
「失礼しますの」
サキの言葉を受け、まずはレイラがサキの隣へと移動。
それから元々レイラが座っていた方にセレナとラフィエールが並んで席につく。
話す準備が一通り整ったところでラフィエールが話を切り出した。
「まずは話し合い中に強引にお邪魔してしまって申し訳ありません」
「ああ、それは大丈夫だ」
「はい、私も大丈夫です!」
「それなら良かったです。私達がこうしてお邪魔したのもサキさんに少々お聞きしたいことがありまして」
「聞きたいこと?」
ラフィエールはもう聞かずにはいられないというような表情を浮かべている。
これまで彼女はあらゆる魔法を使いこなすサキのことについて秘密裏に調査してきた。
しかし、調査をしてもサキのことについてはほとんど分からなかった。
分かったことといえばサキが未だ本当の力を見せていないということとラフィラの森からやって来たということくらい。
馬車や人の出入りを管理している門番によると彼女が初めてラフィリアの町に入ったのはラフィエールがラフィラの森の調査をした日。
そのとき森に迷っていたところをもう一人のラフィエール──ラフィラに連れられ町まで来たようだった。
しかし、その日初めてラフィリアの町に入ったとすればそれまでどこにいたのかが問題となる。
ラフィラの森の近くには町がラフィリアしかなくラフィリア以外の他の町からこの森にやってきたとはとても思えない。
捨てられたと考えても何故わざわざ町から距離のあるラフィラの森を選んだのかという疑問が残る。
非現実的だがずっと森に住んでいたというのが一番可能性としてあり得ることだった。
それならサキはいつどうやって強力な魔法を覚えたのか?
ラフィエールが今回サキに気づかれないように調査するという自分で定めたルールを破って接触に踏み切ったのは彼女の魔法を覚えた経緯がどうしても気になったためであった。
「はい、それはサキさんがいつどうやって魔法を覚えたのかということです」
ラフィエールの質問にサキは自分が魔法を使えるようになったきっかけを思い出そうとする。
しかし、いくら考えても彼女には明確なきっかけというものが存在しなかった。
というのも彼女は魔法を誰からも教えてもらうことなく気づいたら出来るようになっていたのだ。
「魔法は気づいたら使えていた。そう答えるしかない」
「気づいたらですか?」
「ああ、そうだ」
「そうですか……一先ずは分かりました。お答えいただきありがとうございます」
ラフィエールはこれ以上聞いても無駄だろうと自身の質問を終了させた。
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