27 幼女魔王、護衛依頼を受ける②

 ラフィリアの町、冒険者ギルド二階。

 ギルドの入口から見て左手奥の階段を上った先にある長方形の形をした空間には合計八つのテーブルと各テーブルに四つずつの椅子が中央に一本の大きな通り道を作るため片方は窓側の壁、片方は吹き抜けの手すり部分にくっつくようにして配置されている。

 その空間の階段から最も離れた窓際のテーブルではサキ達と同じ依頼を受けている一組の冒険者パーティーが雑談をして時間を潰していた。


 『アイロン・ウォール』


 それが彼らのパーティー名であり近々Dランクに昇格と冒険者内で噂されている男性四人のEランクパーティーだ。

 彼らの特徴はなんといっても想定外の事態に対する対処能力の高さと回復術士一人、前衛戦士三人による鉄壁の守り。

 突然の魔物にも冷静に、無傷で対処する彼らはEランクパーティー内では『無限の壁』と言われ一目置かれていた。

 しかし、彼らにも欠点はある。

 それは守りに重点をおきすぎた故の攻撃力の弱さ。

 魔物数体までなら上手く立ち回れる彼らだが、十体を越えた辺りから攻撃をすることが出来ず守り中心になってしまうのだ。

 なので彼らは守ることを目的とする護衛依頼を主に受けて生計を立てていた。


 そんな彼らのもとへと近づくサキとレイラ。

 彼らが今回共に依頼をこなす冒険者だと知らなかったサキとレイラだが男性四人が不自然に集まっているという光景から勝手に彼らが自分達と依頼をこなす仲間だと思い込んでいた。

 結果的にその思い込みは正しいので良かったのだろう──。


 ともかく他に目立つものを発見出来なかった二人はその四人組のもとに向かっていた。


「すまない、ここが今日の商人護衛依頼の集合場所か?」

「はい、そうですよ。もしかしてあなた方もこの依頼を?」


 サキの声に反応したのは座っていても分かる程身長が高く少し薄い茶色の髪を持つ爽やかな笑みを浮かべた男──マルコフ。

 『アイロン・ウォール』のリーダーでありパーティー唯一の回復術士でもある彼はサキに向き直ると慌てて立ち上がった。


「ああ、そうだ。依頼中は宜しく頼む」

「こちらこそ宜しくお願いします。まさかあの『レッド・ドラゴン』を倒した方々と護衛依頼が一緒とはとても心強いですよ」


 マルコフが笑みを浮かべながら差し出した手に答えるようにサキも手を差し出す。

 続けてサキはいつの間にか立っていた他のメンバーとも握手を交わした。

 レイラもサキにならって『アイロン・ウォール』のメンバー達と握手を交わしていると階段の方から二人分の階段を上る足音が鳴る。


「皆さん、申し訳ありませんの」

「すみません。遅れてしまいました」


 二人分の足音の正体、それはつい今しがた一階受付カウンターで受付職員と揉めていたセレナとサキ達の模擬戦で審判を務めたラフィエールだった。

 二人は階段を上りきると一直線にサキとレイラ、『アイロン・ウォール』のメンバーのもとまで歩み寄る。

 その光景にこの二人も今回共に依頼を受ける仲間だと察したサキはセレナへと声をかけた。


「そういえば護衛依頼を受けると言ってたがこの依頼だったのか」

「そうですの、私が何のためにこの依頼を受けたと思っているんですか? 私はサキさんの……いえ、何でもありませんの」


 サキは自分の名前が出てきたことを不思議に思いつつも深く考えることなく言葉を続ける。


「ところで隣のやつはセレナの連れなのか?」


 というのもサキはセレナの隣にいる人物が気になっていた。

 封印が解けてからというものやたら接点が多いラフィエールにもしかしたら既に自分の正体に気づいているのではないかとサキは疑っていたのだ。

 そんなこととはつゆ知らずセレナはどこか嬉しそうな様子でサキの質問に答える。


「この方ですか? この方は依頼を受ける条件としてお父様が依頼した護衛の方ですの」

「護衛?」

「はい、私はお仲間の方もいらっしゃるので大丈夫だと申し上げたのですがお父様がどうしても護衛をつけろと煩くて。まぁ戦力は多いに越したことはないですから結果的に良かったといえば良かったのですが。ラフィエールさんもこんな私にお付き合い下さってありがとうございますの」

「いいえ、日頃お世話になっているサルバトール男爵様の頼みです。こちらこそ感謝を伝える場をいただけたこと感謝しています。それに私も丁度用事がありましたし……」


 ラフィエールはセレナに向けていた視線を一瞬サキへと向ける。

 彼女のその行為が意味しているのは興味。

 彼女はサキが魔王であると気づいているわけではなかったが現在サキに対して興味を抱いていた。


「そうか、護衛か……」

「そうですの、きっと皆さんの力にもなりますわよ。ところで今回の依頼はこれで全員なのですか?」


 セレナの問いに『アイロン・ウォール』リーダーの男、マルコフが首を縦に振る。


「はい、元々私は私達のパーティー四人と他にお二人方と聞いていましたので」

「それなら急遽依頼を受けた私達を除いて他に誰もいないですのね。では依頼主のもとに向かいましょうか」


 その後護衛依頼を受けた八人は一階受付カウンター職員のもとで正式に依頼を開始させ、たどり着いた先に渡す依頼完了用紙を人数分受けとるとセレナ先導のもと依頼主が待っているラフィリアの町南門へと向かった。


◆◆◆


 ラフィリアの町南門付近。

 そこには現在多くの荷物を積んだ馬車五台が縦一列で並んでいる。

 そしてその列の中央ではサキとレイラが商人の男と話していた。


「あんた達本当に大丈夫かい?」

「ああ、全く問題ない」

「そうは言われてもね。見たところまだ子供のようだし……」


 商人が不安になるのも自然なこと。

 レイラはともかくサキの見た目はただの幼い子供、とても護衛が出来るようには見えない。


「サキちゃんはこう見えても凄いんだよ。色んな魔法でバッと魔物を倒しちゃうんだから!」

「そうなのかい?」

「まぁそれなりに魔法は使える」

「そこまで言うんだったら期待してるよ。さぁもう出発の時間だ」


 商人の男が馬車の御者台に乗り込むとサキとレイラも馬車の荷台に空いている僅かなスペースへと乗り込む。

 それから前方にある馬車の前進に合わせてラフィリアの町をたった。

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