二章 魔王団結
24 幼女魔王、相談を受ける
普段は人々の賑やかな声に支配されているラフィリアの町。
しかし、その日は生憎の雨で人々の声の代わりに雨水が地面を叩きつける音だけが響いていた。
ラフィリアの町の大通りを通る者の表情も灰色の雲が覆っている空のように心なしか雲って見える。
ラフィリアの町の商業区画に位置する貴族の屋敷のような外観をした冒険者ギルド。
その冒険者ギルドの中にいる冒険者も町の沈んだ空気に呑まれてか、いつもより表情が固くなっていた。
もちろんそれはギルド二階に設置されている依頼作戦を行うためのテーブルに手を投げ出して座っているサキとレイラも例外ではなかった。
「サキちゃん、今日は暇だよ。なんでかって? 雨が降っているからだよ」
「それは外の様子を見れば分かる。こういうときこそ自分の戦闘スタイルを見つめ直す良い機会なんじゃないのか?」
「サキちゃんは自分の戦闘スタイルを見つめ直さないの?」
レイラはテーブルに手を投げ出したまま、同じくテーブルに手を投げ出して突っ伏しているサキへと気だるげに尋ねる。
その二人の様子はいつぞやのギルド受付職員のやる気のない対応に似ていた。
「いやこう見えても俺は今自分を見つめ直している。見て分からないのか? この体から溢れる考えていますオーラを」
「いや私にはただサキちゃんがだらけているだけのように見えるよ」
「それはレイラがまだ未熟だからだ」
サキがレイラの質問をいい加減に流す中。
レイラはふとあることを口にする。
「そういえばサキちゃん、最近……というかあの模擬戦のあとくらいからかな? 私達つけられている気がするんだよね」
「うむ、気のせいではないか?」
「いやでも町を歩いていると常に視線を感じるし、依頼中だってその視線感じるんだよ? なんだか怖くて」
レイラの怯える声を聞いてサキは今まで突っ伏していた顔をあげる。
依頼をするうえで不安要素は取り除いた方がいい、至って単純な考えだ。
「分かった。少し調べてみよう」
「本当に?」
「嘘を言ってどうする。ほら一緒に一階に行くぞ」
サキはさっきまでの気だるげな様子は全く感じさせない軽快な動きで椅子から立ち上がると未だにテーブルに手を投げ出しているレイラの肩を叩いて起立を促す。
「サキちゃん何か考えがあるの?」
「まぁそんなところだ。早く行くぞ」
それからサキ達は一階へと行く階段を下りた。
◆◆◆
「これがちょうどいいのではないか?」
サキはギルド一階にある依頼を貼り出している掲示板の前で依頼を探していた。
彼女の目に映っているのはある町まで商人を護衛する依頼。
ふむ、といつもの口癖を口にしながら掲示板に貼り出されているその依頼を剥がす。
「ちょうどいいって、依頼で私達つけてる人を探すつもりなの?」
「そうなる、この依頼は他の冒険者と合同で受ける依頼だ。もし俺達をつけているのならそいつもこの依頼を受けるだろう」
サキのきっぱりとした発言にレイラは疑問を感じる。
彼女はただつけている人がいると言っただけでそれが冒険者だとは言っていないのだ。
もちろん彼女も相手が冒険者かどうか知っているわけではない。
気になったレイラはサキに尋ねてみることにした。
「サキちゃん、どうして相手が冒険者だって思ったの?」
レイラの質問にサキは何を言っているんだという顔で相手の顔を見る。
「それはお前がさっき自分の口で言っていたじゃないか。依頼中でも見られている気がすると、冒険者でないのなら普段俺達が入る森の中には入らないだろう」
「確かにそうかも……さすがサキちゃん、そこに気づくとは鋭いね!」
自分で話していて気づかないのかとサキは心の中で思いながらも口には出さない。
もしかしたらそれほどまでに追い詰められていたのかもしれないと思っていたからだ。
「とにかく依頼はこれで決定、あとは準備だな」
「準備って? なにか準備が必要なの?」
「依頼は明後日、それにこの依頼はこの町からエリュード草原、その先のカルスタート草原を越えたサウストリスタの町まで護衛する依頼だ。依頼に向かう前に宿を引き払う必要がある」
「え!? 本当に言ってるのサキちゃん!」
突然告げられた宿の部屋を引き払うという話にレイラは驚くと同時に寂しさも感じていた。
サキと一緒に暮らし始めたのは約二ヶ月くらい前だが彼女はその前から部屋を借りている。
彼女からしてみればその部屋は今まで慣れ親しんだ部屋、いわば自分だけの特別な空間なのだ。
それを引き払うのだから寂しさを感じて当然だろう。
「どうした? 何か問題でもあるのか?」
「いや……ただ今まで住んでた部屋を引き払うのは寂しいなって思っただけ、特に問題はないよ」
「そうか、悪いな。俺の勝手な判断で」
「ううん、大丈夫。だって私にはサキちゃんがいるから」
レイラは優しくサキの頭を撫でる。
彼女も最近になってようやく成長したのかサキを荒れ狂うように撫で回したり、抱き締めたりすることは少なくなった。
まぁその代わりに撫で回したり、抱きついたりする回数は多くなったのだが。
質よりも量で勝負といったところだろう。
「とにかく依頼をエリーのところに持っていこう」
そしてサキもレイラの行動に動じることは少なくなった。
物事に動じなくなるときは大抵慣れてしまったと言えば簡単に説明はつくものだが、サキの場合それだけではなく自分の中にある何か大事な物を失っていた。
具体的に何がなくなったのかは説明出来ないが彼女の今浮かべている無表情から確実に何か失っていることは間違いない。
「そうだね! 早くこの
レイラは今現在自分達をつけている人物が近くにいることも考えて大声で依頼名を読み上げる。
こうすることでつけている人物を
それからサキとレイラの二人は護衛依頼を受けるためエリーのもとへと向かい、依頼受注処理を済ませると依頼の準備──主に部屋の整理──を行うため二人が今住んでいるコーレンの宿二階にある二○三号室へと雨が降るなか急いで帰っていった。
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