幕間1 賢者、森の異変を調べる
綺麗な円を描くように建物が密集して出来ているラフィリアの町、その町の中央で交わるように敷かれた大通りを隔てて大きく四つの区画に分かれている。
まずは様々な店が並ぶ商業区画。
この区画は武器屋や防具屋、生活雑貨を売る店など様々な商業施設が立ち並んでいる、冒険者ギルドも実はこの区画に属している。
次に宿が並ぶ宿場区画。
この区画は定住していない者、例えば町を通りがかった商人、冒険者などが多く利用している。
そして宗教関連の建物が並ぶ宗教区画。
この区画は大陸で二大宗教と言われているカトリス神を崇めるカトリス教とサラス神を崇めるサラス教の協会がある他、あまり知られていない小さな宗教の会合施設も建てられている。
最後に住人のための住民区画。
この区画はさらに一般住民区画と上級住民区画に分かれており、基本的に貴族、貴族ではないものの国に多大な貢献をした商人、またAランク以上の冒険者が上級住民区画、それ以外の住民が一般住民区画に住んでいる。
一見、身分が高ければ誰でも上級住民区画に住めるように見えてしまうが、この上級住民区画には住める人の明確な判断基準がある。
それは単純に国が発効した優遇券を持っているかどうか。
優遇券は国へ貢献した者のみに発効され、例え貴族であろうと誰でも持っているものではない。
なので上級住民区画に住んでいる者は
そんな選ばれた者だけが住める上級住民区画、中でも一番目立つ三階建ての建物の一階端の部屋。
そこでは綺麗な青色の髪を頭頂部よりやや下の位置で一本に結んだ女性がローブを見に纏い、今まさに出掛けようとしていた。
「ラフィラの森にある結晶石の封印が解かれたという話は果たして本当ですかね」
『ん? もしかして私のこと呼んだ?』
「いいえ、あなたのことは呼んでいませんよ、
『ふーん、まぁいいわ。それよりも早くラフィラの森に急ぐわよ。うーん、森の名称が私の名前だとなんか変な感じがするわね』
「分かっています。もうすぐ準備が終わると思いますのでしばらく静かにしていてください」
ラフィエールは
それからラフィラの森でとある調査をするためラフィリアの町北門へと向かった。
◆◆◆
ラフィラの森についたラフィエールは現在森の入り口から少し離れたところにある封印の石の前にいた。
「まさか、本当に割れているなんて……」
現在彼女が目にしているのは真っ二つに割れた結晶石。
それはラフィエールの祖先のパーティーが倒したと言われている魔王が封印された結晶石だと彼女の家に代々伝えられていた。
そう、彼女の家とは魔王が封印されたこの結晶石を封印当初からずっと監視してきた勇者パーティーの仲間ラフィラの一族だった。
『うん、ちょっと見せてもらってもいいかな?』
もう一人のラフィエール──ラフィラは割れた結晶石が気になるようで
彼女のそんな声を聞いたラフィエールは魔王を封印した本人なら何か分かるかもしれないと
「分かりました。ではしばらく私は休みますね」
『うん、おやすみ』
ラフィエールは一瞬ふらっと体を揺らし目を閉じる。
その後何事もなかったかのように彼女──ラフィラは体勢を立て直した。
「はぁ、外の空気を吸うのは一週間ぶりくらいだわ」
今の一瞬でラフィエールと入れ替わったラフィラは大きく伸びをして肩をぐるりと一周回す。
それからスーハーと大きく深呼吸していた。
「さて、本格的に調べますか。まずは結晶石が割れた原因からかな?」
ラフィラはその後結晶石を触ったり、特殊な魔法をかけたりして色々調べた。
そして分かったことが二つ。
一つ目が何者かによって石が割られたということ。
そして二つ目が……。
「もしかしたら最悪の事態かもしれないわね」
結晶石に封印されていた者──魔王が生きているということ。
彼女は突然突きつけられた最悪の事態に頭を抱える。
「あれは私が苦労して封印したっていうのに一体どうしてこうなったのよ……」
彼女が結晶石に封じ込められていた者を封印したのは今から約三百年前、あのときは勇者がいたから良かったものの勇者がいない今ではどうすることもできない。
ラフィラはしばらく悩むも結局具体的な解決策は浮かばなかったようで、一旦この事実を彼女の家に報告するため町に戻ることにした。
彼女が町に戻ろうと森の入口に向かっている最中である。
森の入口に程近い、けれども強い魔物が出ることから普通は足を踏み入れることがないラフィラの森の洞窟のすぐ横でラフィラは森の中で話している二人の少女を発見した。
「あんなところで何をやっているのかしら?」
ラフィラの疑問は最もで誰もが思うこと。
強い魔物が出るこの辺りに少女──見たところ冒険者のようだが二人の幼さから大して強そうには見えない──というのは不自然極まりないことなのだ。
気になったラフィラは彼女達に声をかけてみることにした。
「ちょっとそこの君達、ここで一体何をしているのかな?」
ラフィラが声をかけると二人の少女は同時に彼女へと顔を向ける。
「あなたは!? ラフィエールさん!?」
彼女を見て驚きの声をあげたのは二人の少女のうち、長いブロンドの髪を後ろで一つに結んだ少女だ。
その少女はどうやら今現在ラフィラが動かしている体の持ち主──ラフィエールを知っているようでキラキラと目を輝かせている。
しかし現在ラフィエールは体の奥で眠っており、あと数時間は目を覚まさないだろうとラフィラは踏んでいた。
そうなればやることは一つ、ラフィラはラフィエールのイメージを壊さないように真面目そうな感じで少女に対応する他ない──。
「そうだったのね。分かったわ、私について来て」
ラフィラが少女に話を聞いたところ、ただ単に道に迷っただけのようで意図してここにいるというわけではないということが分かった。
彼女も道に迷っている比較的幼い少女達を置いて先に行くほど酷い人間ではない。
そのため彼女は報告で町へと戻るついでに二人の少女の案内もすることにした。
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