23 幼女魔王、戦い後の休息をとる
サキがレイラを抱えて広場からギルド内に入ってしばらく経った頃。
広場では静寂から復帰した模擬戦の観客達が先程まで行われていた模擬戦について何やら話していた。
「さっきの魔法はどうなってるんだ?」
「さぁ俺も見たことはないがきっと大魔法に違いないぜ」
サキの使った水魔法「アクア・ウェーブ」を大魔法と勘違いする観客達、それほどサキの使った魔法は規格外のものだった。
観客達がそんな話をしている一方、模擬戦の審判をしていたラフィエールは模擬戦でギルドの敷地を覆う外壁まで流されたチェルシーを看病していた。
「大丈夫ですか? チェルシーさん」
ラフィエールは仰向けに倒れているチェルシーへ声をかける。
彼女の声に反応してかチェルシーは目元をピクピクさせるとゆっくりだが確かに目を開いた。
「ここは……」
「チェルシーさん、ここはギルドの外壁近くです」
チェルシーからの質問に答えるラフィエール、彼女はチェルシーの体を心配していた。
チェルシーは今や未来有望な冒険者の一人、その強さからギルドに必要とされる存在だ。
そんな彼女のパーティーには日々彼女のパーティーを指名する依頼が届いており、彼女達に依頼をこなしてもらわないとギルドの信用がなくなってしまう危険性がある。
つまるところラフィエールは彼女の体ももちろん心配しているのだが、どちらかというとギルドの心配をしているといった方が正しかった。
「ギルドの外壁……そうか、私は負けたのだな」
チェルシーはラフィエールの言葉で自分の今置かれている状況を瞬時に把握する。
さすがはBランク冒険者、戦闘において瞬時に判断することが多いからか頭の回転は人並み以上にあった。
「そうですね、他の仲間は比較的軽傷で済んでますよ。一番酷いのはあなたです、チェルシーさん」
「そうか、レアとマリアもやられていたか。でも怪我がなくて良かった」
チェルシーはホッと息を吐き仲間の無事に安堵する。
それと同時にとある疑問が彼女の頭に浮かんだ。
「そういえば、あの二人はどうしたんだい?」
チェルシーの言葉に含まれていたあの二人というのがサキとレイラのことだとすぐに察したラフィエールは二人が模擬戦の後すぐにギルド内に入っていったことを告げる。
「あの二人はすぐにギルド内に入っていきましたよ。たぶん模擬戦の途中で倒れた娘を休ませるためですかね?」
「そうだったか、あの二人には謝らないといけないのにな……」
「その前にゆっくりと休んでください。あなたには他にもやるべきことがあるんですから」
「確かにそうだな、二人には近いうちにすぐ会えるか」
チェルシーはそれだけ言い残すと再び意識を手放した。
まだ模擬戦の疲れが残っていたということだろう。
「それにしてもあの二人は、いえあの小さい……サキと呼ばれてましたっけ? あの子は一体何者なんでしょうか……」
チェルシーが再び眠りについた後、ラフィエールは一人そう呟いた。
◆◆◆
ギルド内で少しの間レイラを休ませたサキはその後、コーレンの宿二階にあるレイラの借りている部屋まで戻ってきていた。
サキは背中に背負ったレイラをゆっくりベッドに下ろし、寝かせると彼女自身もベッドへと腰かける。
「まったくお前は随分と無茶をしやがって、『リミット・リリース』は教えるべきではなかったか」
サキはベッドでスヤスヤと寝息を立てている少女のおでこをツンツンと指で軽く押す。
そのせいか分からないが少女はウゥと唸り声をあげた後目をゆっくりと開けた。
「サキちゃん……どこ? どこにいるの?」
レイラは寝ぼけているようで顔を左右に動かしサキの姿を探す。
サキは彼女がまだ自由に体を動かせないことに気づき自ら顔をレイラの見える位置に持っていくと彼女に呼び掛けた。
「レイラ、俺はここだ。体は大丈夫か?」
「あ、サキちゃん。おはよー」
「おはよー、じゃないだろ。今はもう昼過ぎだぞ?」
「もうそんな時間なんだね。そういえば今日は依頼受けに行かないんだね」
レイラの発言にサキは本気で彼女の頭を心配する。
今日は模擬戦を行ったため依頼など受けられるはずがないのだ。
サキは念のためレイラに今日の出来事を尋ねてみることにした。
「今日何があったのか覚えてないのか?」
「今日? 今日は……今起きたばか……いや、そういえばなんか戦った気がするよ。そこで魔法使って……あぁあ!?」
レイラは突然何かを思い出したときのような大きな声をあげる。
「私はあの魔法使って体が動かなくなってそして……」
どうやらレイラは今日のことを思い出したようで表情を強張らせた。
「サキちゃん、模擬戦の結果はどうなったの!?」
「模擬戦の結果か? とりあえず相手は全員広場の外に出したぞ」
「ということは勝ったってこと?」
「うむ、多分な。あの後はすぐにお前を連れてギルドの中に入ったから詳しくは分からないが」
「へぇ私を優先してくれたのか」
サキの言葉にレイラは笑みを溢す。
「なにか可笑しいことでも言ったか?」
一方サキは一体何故笑われているのか検討もつかないようで疑問を顔に浮かべていた。
彼女のそんな様子にレイラは先程自分が笑った理由を説明する。
「違うよ、サキちゃんが模擬戦のことより私のことを優先してくれて嬉しいなって思っただけ」
「ふん、俺達は仲間なんだから当たり前だろっ!」
サキはレイラの話を聞くや否や顔を真っ赤にして必死に言い訳をする。
仲間よりも自らの力と成果を大事にすることを求められ続ける魔王だった彼女からしてみれば勝負よりも仲間を優先したことはこの上なく恥ずかしいことだった。
「サキちゃん、そんなに照れなくても良いんだよ。さぁ自分の本当の気持ちに身を任せて言ってごらん? お姉ちゃんって」
「何でそうなるんだ。話とまったく関係ないだろ」
「ちっ……私のサキちゃんをデレさせてお姉ちゃんと呼ばせる計画はまだ早かったか」
レイラは本気で悔しそうな顔をする。
彼女の悔しそうな顔を見てサキはため息を吐くとベッドから立ち上がった。
「まぁ元気そうで良かった。じゃあ俺は食事に行ってくるからな」
「サキちゃん、私も連れていってよ!」
「お前は今日一日体を動かせないだろ」
「それって冗談だよね?」
「冗談ではない、あの魔法を教えるときにも言ったはずだぞ?」
「そんなぁ!? じゃあ冗談じゃなくて嘘だとか?」
「いや本当だ、そんなに疑うなら動かしてみるといい」
レイラはサキの言葉通り体を動かそうとするが当然動かせるはずもない。
「本当に動かせない!?」
「言った通りだろ? 安心しろ、ちゃんと食べ物は買ってくる」
サキはそれだけ言い残すと足早に扉まで向かい部屋をあとにする。
「待ってよ、サキちゃーん!」
彼女が部屋を出ていった後しばらくの間その部屋──コーレンの宿二階二○三号室からは少女の悲痛な叫び声が漏れ聞こえていた。
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