19 幼女魔王、模擬戦の準備をする
サキが冒険者登録をしてからあと二日でちょうど一ヶ月が経とうとしていた。
冒険者登録をしてから一ヶ月ということはそろそろ例のパーティーとの模擬戦が控えている。
そんな状況の中、サキとレイラは冒険者ギルドでエリーにいつもの依頼の報告をしていた。
まだ昼であるにも関わらずだ。
「サキちゃん、今日は早く切り上げるって言ってたけど何かするつもりなの?」
「それはだな……っとその前に二日後に何があるか分かるか?」
「そりゃ分かるよ。あんなにでかでかと告知されたらね」
レイラが指差した先では一枚の張り紙が壁に貼られていた。
あの『レッド・ドラゴン』に挑戦するパーティーあらわる!
挑戦者はなんと登録したての冒険者と『負け犬』レイラ合計二人のパーティー!
果たしてどちらが勝利を手にするのか!?
模擬戦は二日後の朝九時からギルド前広場にて開始!
このような内容の張り紙が今日の朝からギルド内の数か所に貼られているのだ。
まるでサキとレイラを絶対に逃がさないとでもいうような、そんな悪意を感じる。
「そう、あの張り紙にもあるように二日後に『レッド・ドラゴン』との摸擬戦がある。今日はその準備のために依頼を早く切り上げたんだ」
「へぇそうだったんだね。でも私達、準備にかけられるほどお金持ってないよ?」
レイラは今の
彼女達の生活は現在例の討伐依頼のみで
そんな状態の二人に余分なお金などあるわけがない。
ギリギリに切り詰めている今でこの状態、寧ろ足りないくらいなのだ。
しかしサキは大丈夫だと頷く。
「大丈夫だ、お金は使わない。準備というのは装備などお金のかかるものではない、魔法だ」
「魔法? それだったら依頼途中でも良かったんじゃないの?」
レイラの言葉にサキは首を横に振る。
「この魔法は出来れば他人に見せたくないんだ。あそこだと誰が見ているか分からないだろ?」
「うん事情はよく分かったけど……それだと私には見せていいってことになるよ?」
「まぁ……一応パーティーメンバーだからな」
サキは照れているのかレイラから目を逸らし頬をカリカリと掻く。
そんな彼女の姿にレイラはなにを思ったのかいきなり彼女に抱きついた。
「うへへ、サキちゃん照れてるの?」
「違う! 断じて違う! 俺はただ仲間だから教えようと思ったまでだ!」
「怒ってるサキちゃんも可愛いなぁ……」
「おい、話を聞いているのか! 毎回言っているが早く離れろ!」
サキはレイラの腕の中でバタバタと暴れるがサキの力では彼女を振りほどけない。
「ちょ、暴れないでよ。杖が顔に当たって痛いよ!」
それでもサキは暴れるのを止めない。
「分かった、離れるからちょっと大人しくしてて」
そんなサキに観念したのかレイラは慌ててサキから離れると自分の頬を優しく
どうやら杖が当たった部分が頬の部分らしい。
「ふう、やっと解放されたか」
「もう、私も毎回言ってることだけど別にちょっとしたスキンシップくらい良いじゃない」
「どこがちょっとしたスキンシップだ。毎回窒息しそうになる俺の気持ちにもなってみろ!」
「それはごめんね。今度から気をつけて抱き締めるから」
「だからもう抱きつくなと言っている!」
「まぁまぁそれは一旦置いておいて、私はサキちゃんが教えてくれる魔法っていうの知りたいかな?」
「話を逸らすな! と言いたいところだがそうだな……早く魔法を教えるとしよう」
サキはため息を吐きながらも先程抱きつかれた際に乱れた髪を
◆◆◆
コーレンの宿の二○三号室にやって来た二人はベッドの上に荷物を置くと部屋の中央に立つ。
「サキちゃん、本当にここで良いの? ここだとなんだか部屋を壊しそうで怖いよ」
「安心しろ、魔法といっても攻撃魔法ではない。俺が教えるのは『リミット・リリース』だ」
「『リミット・リリース』? そんな魔法聞いたことないけど」
レイラは心当たりがないか考えているのだろうが見つかるはずもない。
何故ならこの魔法は……。
「当たり前だ、俺だけが知る魔法だからな。というか俺が作った魔法だ」
「作った魔法って……魔法って作れるものなの?」
「まぁ誰でもとはいかないが作れるには作れるぞ」
「へぇサキちゃんってすごいんだね」
レイラは感心したように声を出すが、彼女はまだ魔法を作るということの大変さを全く理解していなかった。
魔法はいくつか種類があるがその中でも状態操作魔法は他の魔法と違い体の外に魔力を放出する必要がなく応用性が高いことから新たに魔法を作ることが出来ると言われている。
属性魔法のようなしっかりとした理論、物理法則によって定義された魔法とは違い対象物質内の魔力操作と頭の中のイメージだけで物質の状態を操作するこの魔法はイメージさえ持てば新しく魔法を作り出すことが出来る。
だが新しく魔法を作り出す場合、イメージは既に存在する魔法を覚えるときとは違いどのような効果でどのくらいの魔力を使うのか、持続時間などを全て一からイメージする必要があるのだ。
例えイメージが浮かんだとしてもそれが魔法を発動出来るほどの詳細なイメージでなければ意味がないということである。
一般的に魔法を作るのが難しいと言われているのも詳細なイメージを思い浮かべる必要があるためなのだ。
「とにかく魔法を教えるから見ておけ」
「その魔法の効果はなんなの?」
「それを説明するのは魔法を使った後だ。では行くぞ!」
サキは腕に魔力を一旦集めると一気に体全体に広がった。
その魔力の流れはまるで今まで塞き止めていた水を解放するが如き豪快さだ。
レイラもそれを感じ取ったようでおぉと感嘆の声をあげる。
「その魔法すごいね。でもなんだか『フィジカル・アップ』に似てるような……」
レイラの指摘にサキは満足そうに頷いた。
「その通り、『フィジカル・アップ』と『リミット・リリース』の両方とも身体能力を上昇させる点で効果は似ている、ただ一つを除いてな」
「ただ一つ?」
「『リミット・リリース』は体の限界を越えて強化するんだ」
「そんなことして大丈夫なの? 体が駄目になりそうだけど」
「うむ、大丈夫ではない。使ったらその後一日は体を動かせなくなるだろうな」
サキがキッパリと断言したことに少々驚くレイラ。
それと同時に何故そんな魔法を教えるのだろうと疑問に思っていた。
「もしものときの保険だ。この魔法は一時的に自分の能力を大幅強化するからな。相手は強いのだろう?」
「うん、今の私じゃ足元にも及んでないと思う」
「そういうことだ」
レイラはサキの一言で彼女の言いたいことを察する。
つまりはこれくらいしないと遊びにすらならないということなのだ。
「サキちゃんの言いたいことは分かったよ」
「それなら良かった、では俺は少し休ませてもらう。いくら短時間でも体に来てるみたいだ」
そう言ってサキは部屋に一つだけあるベッドに倒れこむ。
「サキちゃん、大丈夫なの!?」
「一、二時間休んでれば治る。レイラも今のうちに一度魔法を使ってみたらどうだ? 今のお前なら見ただけで使えるだろ?」
「うん、使えるよ」
サキは言葉を発した直後すぐに意識を失う。
それを見届けたレイラは先程サキが使った『リミット・リリース』を試しに自分でも発動させた。
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