18 幼女魔王、魔法を教える
コロッコの森、先程サキとレイラの二人がいた広場から歩いて数分の木々が生い茂る森の中。
そこでは二人と小さな角を持つ緑色の肌をした魔物──ゴブリン三体の群れが対峙していた。
二人は肩の力を抜きリラックスしつつも武器をしっかりと前方に構えており全く隙がない。
対してゴブリンの群れは数の優位から自分達の勝利を確信しているのか隙ばかりを晒していた。
そこにサキの魔法によって生成された火矢が荒々しく燃えながらゴブリン群れの一体へと飛んでいく。
隙を見せていたゴブリンがその火矢を避けられるはずもなく、そのままゴブリンの左胸に突き刺さった。
その光景に他のゴブリン達は驚き戸惑い、最終的に森の奥へと逃げていく。
こうして仲間に見捨てられたゴブリンはギョエギョエと鳴きながらしばらくその場をのたうち回った後、突然プツっと糸が切れたように動かなくなった。
「どうだ? 出来そうか?」
ゴブリンを仕留めたサキは後ろを振り向き、彼女の戦闘をじっと見ていたレイラに問いかける。
「うーん、出来るかどうか分からないけどやってみるよ」
レイラは両手を胸の前で握りしめ、よしとやる気を十分に見せていた。
彼女のやる気と自信に満ちた姿にサキは心配しなくてもしっかりと魔法を使えそうだと思ったのか先程ゴブリンが逃げた森の奥へと歩を進める。
「よし、それならさっき逃げたゴブリンを仕留めに行くか!」
「その前に仕留めたゴブリンの耳を剥ぎ取らないと」
「おっとそうだな」
レイラは先程仕留めたゴブリンの耳を手持ちの短いナイフで切り落としバッグにしまうとサキのあとをついていった。
◆◆◆
ゴブリンのあとを追った二人は前方十メートル先に先程のゴブリン二体の姿を確認していた。
ゴブリン達はまだサキ達は気づいていないようでグギャグギャと鳴いてなにやら楽しそうにしている。
「さっき俺がやったように魔力を腕に集めてみろ」
「うん」
「初めのうちは失敗してもいい。とにかく腕に魔力を集めて圧縮するんだ」
サキの言う通りにレイラは腕に魔力を集めようとするがなかなか上手くいかないようで苦戦している。
ちなみにレイラが杖を持っているにも関わらず使っていないのは単純に杖を使った魔法発動の方が難しいからだ。
魔法に触れたことがない者にとって杖に魔力を集めることはいわば自分の体に元々備わっていないもの──例えば尻尾を動かそうとするのと同じようなことなのだ。
当然自分の体に元々備わっていないものの感覚は分かるはずもない。
なので初めのうちは自らの体に魔力を集め、魔法を発動する感覚を覚えるのである。
「ううぅ……ぷはぁ、だめだぁ」
レイラは善戦するも十分な魔力が腕に集まらなかったようで魔法を発動出来ずに終わる。
しかし、サキはここで呆れたりはしない。
初めて魔法を発動するのが大変なことを彼女は知っているのだ。
「うむ大丈夫だ。初めはそうなってしまうことが多い。焦って変な癖がつかないことだけを気にしていればいい」
「焦らずにだね」
「そうだ」
サキはグッと親指を立てるとレイラに満面とまではいかないが軽く笑いかけた。
彼女の普段見せない意外な行動で気合いを再注入したレイラは再び手を前に突きだし魔力を腕に集中させようとする。
「焦らないで、ゆっくり」
レイラは目を瞑り集中する。
イメージするのは水、自らの魔力を水に見立てて腕へと集める。
少しずつではあるが魔力が腕に集まっていく感覚を彼女は感じ始めていた。
「あと少しで……」
彼女がその言葉を発した直後、集中が途切れたのか魔力が彼女の体中に
あわよくばこのまま魔法発動といきたかったところだが現実はそう甘くないようだ。
「惜しい、あと少しっ! うーん、一体何が足りないんだろう……分かる? サキちゃん?」
「そうだな、基本的に足りないものはない。あとは慣れの問題だ。実際今のはかなり惜しかった。この調子で続けていれば近いうちに魔法が使えるようになる」
「本当!? じゃあ今日は魔法発動の感覚を掴めるように頑張るよ」
「くれぐれも焦っては駄目だぞ?」
「分かってるって!」
レイラは魔法を発動しようと手を再び前に突き出す。
しかし手を突き出した先に先程のゴブリン達の姿はない。
気づかれて逃げたのか、はたまた
それから彼女は幾度も魔法を発動させようとしたがこの日それが叶うことはなかった。
◆◆◆
レイラがサキから本格的に魔法を教わり始めてから四日経ったある日。
二人はいつものようにコロッコの森を散策している。
そして現在、前方十メートル先にいるスライムを近くにある
もちろん魔法で仕留めようとしているのはレイラである。
「これならどうだ!」
レイラが前に突き出した手の前方にはわずかであるが魔法によって発生した火が現れていた。
彼女はその現象を確認するとさらに腕に魔力を集中させる。
「もう少しっ!」
徐々に腕に魔力が集まっていき、ついにレイラの前方に真っ赤に燃える火矢が生成された。
「やった! サキちゃん! やっと出来たよ!」
「喜ぶ前に魔法を放ってみろ」
「そうだね、魔法を放つには確か魔法と自分の魔力を切り離すのをイメージしてから飛ばしたい方向に念じるんだよね」
レイラは頭の中のイメージで発生した魔法と自身の魔力の繋がりを断つ、それから前方にいるスライムに自らの手を向け掛け声と共に思いっきり前に飛ぶように念じた。
「『ファイア・アロー』!」
レイラの掛け声で無事魔法の火矢は前方へと飛んでいく。
その後矢がスライムに突き刺さると矢が纏っていた炎でスライムを焼き付くした。
「やった……やったよ、サキちゃん! ついに私も魔法を……」
レイラは喜びを噛み締めているからか体が小刻みに震えている。
対してサキはようやくレイラの期待に答えられたことに安心していた。
「よし、これから他の魔法も教えていくぞ! ついて来れるか?」
「もちろん、私はサキちゃんにどこまでもついて行くよ! 一緒に行動するのはもちろん寝るときもねっ!」
「それだと今とあまり変わらなくないか?」
「確かにそうかも……」
サキとレイラはそんなくだらない会話をしながら、今レイラが仕留めたスライムの核を回収するのだった。
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