15 幼女魔王、仲間を鍛える
冒険者ギルド一階、受付前。
二階の窓から射し込む日の光が空気中の埃を照らし、朝の雰囲気を醸し出している。
そんなギルド内である少女の声がこだました。
「やった! やったよ! サキちゃん!」
レイラは天井を突き破ろうとする勢いで腕を上に突き出す。
現在、その場にはレイラ、サキ、そしてエリーの三人が揃っていた。
「ついにって感じだね、レイラ」
エリーがレイラを褒め称えるように彼女に声をかける。
「それもこれもサキちゃんのおかげだよ! ありがとう、サキちゃん! 愛してるっ!」
レイラは両手を広げてサキへと迫るが……。
「寄るな! 変態っ!」
次の瞬間にはペシッという良い音が聞こえ、気づくとレイラはその場で
「酷いよ、サキちゃん。こういうときくらい良いじゃない」
「良いわけあるかっ!」
レイラはサキに涙目で訴えるが当のサキは
そんな二人のやり取りを横で見ていたエリーは微笑ましそうな顔をしながら、まぁまぁと二人を
「まぁ二人とも喧嘩はそれくらいにして、今日もいつもの討伐依頼受けるんでしょ?」
エリーが言ったいつもの討伐依頼とはコロッコの森の魔物討伐依頼である。
その依頼を初めて受けてから今日で二週間が経とうとしていた。
「そう受けるよ! 私の成長した力を見せてやるんだからっ!」
レイラがいつになくやる気に満ちているのは自らのステータスが上がったためである。
二週間前の討伐依頼で初めて魔物──スライムを倒してから毎日欠かさず、討伐依頼を受けてはサキと一緒に魔物を狩って報告するというのを繰り返してきた。
そのおかげかレイラもゴブリンくらいの魔物なら一人で狩ることが出来るようになっていた。
それくらい彼女は成長していたのだ。
そして成長はステータスにも現れた。
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〈名前〉 レイラ
〈年齢〉 十四歳
〈得意武器〉杖
〈能力値〉
〈力〉 F → E
〈魔力〉 F
〈物理耐久力〉F → E
〈魔法耐久力〉F
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具体的には二週間前と比べて力と物理耐久力の能力値ランクがそれぞれ一つずつ上がっていた。
二週間という短期間で力と物理耐久力の能力値ランクが一つ上がったのは今までレイラがまったく戦闘をしておらず能力値のランクが最低だったためというのもあるが一番は彼女の努力によるところが大きい。
通常努力してもそう簡単に能力値ランクは上がらないのだ。
ステータスという点で見ればレイラはかなり成長したと言えるだろう。
「レイラ、強くなったと思ったときこそ油断は禁物だ。いつどこで何が起こるか分からないからな」
自らが成長したことに浮かれているレイラにサキは一言注意を出す。
彼女は何かに浮かれているときが一番危ないということを今まで自分が経験してきたことから知っていた。
「うん、ちょっと浮かれてたかも。ちゃんと気をつけるよ」
「それならいいんだが」
レイラの言葉にサキが安心したところでエリーが例の話題を出す。
「それにしても本当に『レッド・ドラゴン』と模擬戦をするつもりなの? 彼女達今ギルドで一番乗りに乗ってるパーティーだよ?」
例の話題とはサキが二週間前に宣言した冒険者パーティー『サキリア』と『レッド・ドラゴン』が模擬戦をするということ。
傍から見れば結果は既に決まっているような模擬戦。
それはエリーから見ても同じことで彼女としてはそんな無茶なことを二人にさせたくはなかった。
「今俺達はそのために鍛えてるんだぞ? 今さら引けるわけがない」
「でも……」
「とにかくだ、俺は引くつもりはない。これは決定事項だ」
サキは語気を強めて、再度『レッド・ドラゴン』との模擬戦を宣言する。
彼女の宣言に一ギルド職員であるエリーはただ受け入れるしかなかった。
その後もエリーと少し会話を交わしたサキとレイラは今日もコロッコの森の魔物討伐依頼へと向かった。
◆◆◆
コロッコの森の中にあるコロッコ湖、太陽の光を反射してキラキラと
「これで止めっ!」
少女──レイラは杖を上段から振り下ろし、スライムを殴りつける。
それを受けたスライムはまるで水のようにその場で広がり、核を残して地面に吸収された。
「ふう、これで十匹目だね」
レイラはふうと息を吐きながら、彼女の戦闘を後ろで見守っていたサキのもとへと向かう。
「サキちゃん、今の戦闘どうだった?」
「うむ、動きにキレがあって良かったと思うぞ。ただもう少し動きを小さくした方が良いかもな。今のままだと隙が大きすぎる」
サキは自らが持つ杖を構えると隙の少ない鋭い突きを
「こうすれば隙が少なくて済む。実際にやってみるといい」
「サキちゃん、分かったよ。今度戦うときはやってみる」
レイラは早速次の魔物を探しに行こうと歩き出すが、サキが待ったの声をかける。
「ちょっと待ってくれ。今日は他にやることがあるんだ」
サキの声に反応して歩みを止めたレイラは不思議そうな顔でサキに顔を向ける。
「やることって? 今日は魔物討伐だけじゃないの?」
「それはそうなんだが、まぁ今から説明するから聞け」
そう言ってサキは自らの杖を前に突き出す。
「レイラ、お前が今からやるのは魔法の練習だ」
「魔法!? 無理だよ、私魔法なんて使えないもん」
サキの唐突な発言にレイラは驚きを隠せない。
彼女は昔から魔法は選ばれた者にしか使えないと教えられてきた。
初めから使えない者は今後使えるようになることはないと。
「そんなことはない。魔法は感覚が分かれば誰でも使えるものだ」
しかし、サキの言葉が真実なら決してそんなことはないという。
「そうなの!? じゃあ私でも使えるってこと?」
「ああ、さっきからそう言っているだろ」
サキの言葉を聞いたレイラの体はプルプルと震えていた。
今まで使いたくても使えないと言われていた魔法が実は使えるかもしれないという事実に胸が高鳴っていたのだ。
「ただ感覚を掴むのにはかなり時間がかかるかもしれないぞ?」
「うん、それでも使えるようになりたい!」
「それならついてこい」
サキはやる気に満ち溢れたレイラを見た後、魔物を探すためコロッコ湖のほとりを歩き出した。
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