14 幼女魔王、宿にお邪魔する
日が沈んでからすっかり時間が経ったラフィリアの町。
日が沈んだ直後に見せていた賑わいも一通り収まり、町は静寂に支配されている。
時折人の声が聞こえるものの、それは酔っぱらう冒険者の
静まり返ったラフィリアの町の大通りから少し外れたところにある宿屋、コーレンの宿。
壁にいくつも貼り付けられた木の板──修繕された跡を見る限りとても繁盛しているようには見えないが、まだ持金の少ない駆け出し冒険者に絶大な人気を誇っているラフィリアの町でも一、二を争うほど有名な宿だ。
通常の宿屋と違うところは一泊あたりの値段で通常が五千ルークなのに対してこの宿は一泊あたり五百ルークと通常の宿屋の十分の一の値段で泊まることが出来る。
また建物が四階建てと大きいため、他の宿屋に比べて部屋が取りやすいという特徴もある。
そんなコーレンの宿の二階にある二○三号室、部屋の内装はお世辞にも綺麗とは言えないが、生活していくだけならばさして問題がない一人部屋に一人の幼女と一人の少女の合計二人がいた。
「サキちゃん、ちょっと狭いけど我慢してね」
レイラは自らが着ている皮鎧を脱ぎながら、指でサキに部屋の奥へと行くように指示をだす。
「うむ、泊まらせてもらえるだけでありがたい」
この状況になった理由は言うまでもないが、あえて言うならばお金を持っていない、使い方が分からないサキには現在泊まれる場所がレイラの借りている部屋か人がいない町の外しかないためである。
もちろんサキは町の外で野宿でも良かったのだが、レイラがそれを許すはずもなく結局彼女の部屋に泊まることとなった。
「サキちゃん、先に体拭いてていいよ」
「レイラ、俺は別に体を拭かなくても構わないが」
サキの体を拭かない発言に脱いだ皮鎧を壁にかけていたレイラは驚きの声をあげる。
「サキちゃん、女の子としてそれはどうかと思うよ!」
「いやそれはお前が気にすることじゃ……な、なんだ!? 来るなっ!」
レイラは皮鎧を壁にかけた後、ものすごい勢いでサキに迫る。
「ダメだよ。私の知ってる限りだとサキちゃん最低でも二日間は体拭いてないよね? だから私が拭いてあげる。さぁそのローブを脱ぎなさい!」
レイラは部屋の中央で立っていたサキを部屋にあるベッドへと押し倒し、彼女が身に纏っているローブを無理やり引き剥がそうとする。
もちろんサキは抵抗した。
彼女は今ローブの下に何も着ていない、簡単に言ってしまえば裸なのだ。
そんな状態を行動予測不能のレイラに見られてただで済むはずがない、サキは抵抗し続けている間そのことをずっと恐怖に感じていた。
「や、やめろ! 分かった、拭く、自分で拭くから!」
「そうなの? だったらいいけど……」
レイラが残念そうな顔でローブから手を放したのを見て安心し体の力を抜いたサキであったが次の瞬間、サキにとっての悲劇が起こる。
「……ってそんなわけないでしょ! そんなに抵抗されたら寧ろ気になるよ。さぁそのローブの下をお姉ちゃんに見せてね」
サキにとっての悲劇、それはレイラの裏切り。
先程の彼女の行動は全て演技でサキが騙されたところでローブを引き剥がす作戦だったのだ。
そうとも知らず作戦にまんまと引っ掛かったサキは当然抵抗することも出来ず、レイラの手によってローブを引き剥がされてしまった。
「や、やめろ!!」
サキは声をあげて反撃するも、時は既に遅い。
声をあげたときにはレイラによってローブを剥ぎ取られ自身のあられもない姿が晒された後だった。
「ええと……なんかごめんね」
レイラはサキがまさかローブの下に何も着ていなかったとは思っていなかったのか顔を赤面させ、引き剥がしたローブをそっと彼女にかける。
一方、サキはこの状況に肩透かしを食らっていた。
彼女にとってレイラはいわば変質者、捕まったら最後何をされるか分からないと思っていた。
しかしこの状況、何かをされたというより何かしてしまったような後ろめたさがある。
「もしかして怒ってる?」
レイラはサキから慌てて離れた後、ずっとサキの顔色を伺っていた。
彼女は今の自分の行動でサキに嫌われてしまったのではないかと内心怯えていたのだ。
しかしサキは彼女の質問に対して首を横に振る。
サキは別に裸を見られたことを気にしてはいなかった、彼女が気にしていたのはレイラに何かされるのではないかということだけ、何もされないのだったら気にする必要もない。
「さっきは本当にごめんね、サキちゃん」
サキの反応にレイラはホッと息を吐き、それと同時にサキへと質問する。
「もし良かったらなんだけど私の服使う? 昔使ってたのが確かどこかにあったはずだから」
「ああ、貸してもらえるなら使わせてもらおう。だがその前に体を拭いた方がいいのだろう?」
「うん、そうだね……」
レイラはまだ先程のことを気にしているのかいつものような勢いがない。
そんなレイラにやりにくさを感じたサキは珍しく自ら彼女へ歩み寄ることにした。
「だったら拭くのを手伝ってくれないか? 背中が届かなくてな」
「私でいいの?」
「お前以外誰もいないだろう」
「そうだよね、うん手伝わせて」
サキの気遣いでようやくいつもの調子を取り戻したレイラはよーしと両手を胸の前で握りしめると体を拭くタオルとサキの着替えを取りに行った。
◆◆◆
サキとレイラは体を拭いた後、今日の討伐依頼の疲れからかすぐにベッドへと入った。
元々一人部屋なのでベッドが二つあるはずもなくサキとレイラは現在同じベッドに入っている。
「サキちゃん、もう寝ちゃった?」
サキとレイラは背中合わせで横になっており、お互い姿が見えない状態だ。
「そっか、もう寝ちゃったんだね……」
レイラはそう一言漏らすと、一人ポツリと語りだす。
「今日はありがとうね。サキちゃんがいなかったら私何も出来てなかったよ」
彼女はそれから仰向けになり、部屋の天井を眺める。
「今はこんなんだけど私一流の冒険者になりたくて冒険者登録したんだよ……私がサキちゃんくらいのときかな? 私の住んでた村が魔物に襲われちゃってね、そこで助けてくれたのが冒険者の人でね。私それを見て冒険者になりたくて……だから私も……あの冒険者みたいに……みんなを守れるくらい強く……」
レイラは今まで重い
そんな彼女の独り言をずっと聞いていたサキはレイラと同じように仰向けになり、一言呟く。
「それだけ目的がはっきりしているのならば後はお前の努力次第だ……」
サキはそれだけ言うと自らの目を閉じ、意識を手放した。
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