11 幼女魔王、魔物討伐を支援する
コロッコの森入口付近、そこでは多くの駆け出し冒険者が魔物を求めて森の中を散策する。
この森に来る冒険者達の目的の多くはスライムかゴブリンの討伐、森の奥に行くという危険を犯さなくても森の入口付近で事足りる。
そのため森の入口は案外、活気に満ちていた。
しかしそこにサキとレイラの姿はない。
彼女達がいるのはそこからさらに奥へと進んだコロッコ湖という駆け出し冒険者がまず寄り付かない森の中にある湖のほとり。
そこで一匹のスライムと対峙していた。
「サキちゃん、危なくなったら助けてね!」
「安心しろ、そうならないように俺が魔法をかけてやる」
サキはレイラに対リッチ戦でも使用した増強魔法『フィジカル・アップ』を発動させる。
この魔法は自身の身体能力を一時的に上昇させるという魔法を扱うならば覚えていて当たり前と言われているほど基本中の基本の魔法だ。
「わぁ! なんだか体が軽くなった気がするよ! サキちゃん、今魔法かけたの?」
「ああ、一時的にレイラの身体能力を高めた」
「へぇだからこんなに動きやすくなってるんだね」
「それはそうと敵が来ているぞ」
サキはこちらに顔を向けているレイラの後ろ、正確にはプルンプルンしながらレイラへと迫って来ているスライムを指差す。
「え!? うそ!?」
レイラはサキの言葉を聞き、後ろを振り向く。
いくらサキに支援魔法をかけてもらったからといってもレイラは未だ一匹も魔物を倒したことがない魔物討伐に関しては素人中の素人。
急に魔物が来ていると言われても混乱してしまうだろう。
実際、レイラは迫ってくるスライムを前にして動きが止まっていた。
「いきなり倒せと言われても無理か」
サキはそう一言呟くと、自らの杖をスライムに向け闇魔法『ダークエッジ』を発動させた。
ちなみにリッチから拾った杖を装備してからというもの暗黒魔法、上級属性魔法を使えるようになっていた。
前回魔法を試した際に発動出来なかったのは、やはり魔法発動に体が耐えられなかっただけのようだ。
「キュル……」
スライムはサキの闇魔法『ダーク・エッジ』を受けた後すぐに液状化して地面に吸収される。
そして元々スライムがいた場所には一つのスライム核が残されていた。
「これで核を回収してと……レイラ大丈夫か?」
スライムの核を回収したサキはレイラに声をかけるが、未だに彼女は驚いた顔をしたまま固まっている。
まるでレイラの周りだけ時の流れが止まっているような、そんな印象をサキに感じさせた。
「うむ、これは時間がかかりそうだな」
サキがレイラに声をかけてから数分が経った頃だろうか、ようやくレイラの時が動き出した。
「はっ!? 私はいったい……」
「やっと気がついたか」
「あ、サキちゃん! 私サキちゃんにかけてもらった魔法でなんとかスライムを倒して見せるよ!」
レイラはどうやら固まっている間のことは何も覚えていないようで突然、
「レイラ、スライムはもう俺が倒した」
そんな彼女の発言にサキはやれやれと首を横に振りながら現在の状況を説明した。
「うそ!? さっきまでここにいた……あれ?」
レイラは自信満々にある方向を指差すがそこは何もいないただの地面だ。
それを見た彼女は混乱した。
「だから言っただろ? スライムはもう倒したって、スライムの核だってここにある」
「本当だ!? じゃあ私その間は何をしてたの?」
「何してたって何もしてなかったぞ。そこで固まっていたからな」
サキの言葉を聞いたレイラはゆっくりと顔を俯ける。
彼女は自分自身の情けなさからいたたまれない気持ちになっていた。
「そっかやっぱり私って冒険者向いてないのかな」
「そう決めつけるのはまだ早い、次に行くぞ!」
サキはレイラの落ち込む姿を見てか、元気づけるように彼女の肩を叩く。
サキもレイラがいきなり魔物を倒せるようになっているとは思っていない。
サキだって初めは魔法が使えなかった、だが何回も失敗して、努力して特殊属性魔法の光、天上魔法以外は使えるようになったのだ。
だからサキは彼女に初めの一回や二回の失敗で全てを諦めてほしくなかった。
「うんそうだね。サキちゃん、ありがとうね」
「礼などいらない」
サキはそれだけで言い残すと新たな魔物を探すため湖のほとりを歩き始めた。
◆◆◆
もうじき日が暮れるだろう夕暮れの時間帯。
茜色に色づいた空の下、コロッコの森の中にあるコロッコ湖ではポヨンとした弾力のある音と共に気合いの入った少女の掛け声が響いている。
その湖のほとりには杖を持った一人の少女と少女に杖で殴られる一匹のスライム、それから少女を見守る一人の幼女がいた。
「よし! レイラ、後少しだ!」
「はぁああ!」
レイラはサキの声でさらに杖を力強く握りしめ、杖でスライムを必死に殴り付ける。
その姿はまるで餅つきをしているような、そんな光景だ。
「キュルル……」
そしてレイラの掛け声からまもなく、スライムは息の根を止め地面に吸収されて消えた。
「やった……やったよ! サキちゃん!」
レイラは嬉しさのあまりサキに抱きつく。
通常なら避けようとするサキであるが、このときばかりは避けようとしなかった。
彼女もまたレイラがスライムを倒したことに喜びを感じていたのだ。
「よくやった、レイラ」
「うん、ありがとう。サキちゃん」
今日でスライムには何十回と遭遇したがレイラだけで倒したのはこれが初めてだった。
他の冒険者からすればなんてことないことかもしれないが、今の二人にはそれが冒険者史上最も偉大な快挙を成し遂げることと同じように感じられた。
たかがスライム、されどスライムである。
「よし、今日はこれくらいにして町に戻ろうか」
「うん、そうだね!」
それから二人はレイラの倒したスライムの核を回収した後、森の入口へと歩き出した。
帰り道、レイラが嬉しそうにしていたのは言うまでもない。
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