9 幼女魔王、パーティーを結成する
サキが受付前に戻るとそこではレイラが周りをキョロキョロと見渡してサキを探していた。
涙目になりながらサキを呼ぶ様は母が子を探しているときのようにも見える。
「サキちゃん! 出てきて!」
レイラがサキを探すと同時に大声をあげていたため自然とギルド内の人達はレイラの方を見ていた。
「サキちゃん、私が悪かったよ! サキちゃんの初めてを邪魔したのは謝るから!」
まるで何か違う誤解を受けそうなレイラの言葉にサキはなんてことを言いふらしているんだと彼女のもとへと全速力で走り寄る。
「サキちゃん!」
突然トカトカと鳴る軽い足音に本能的にサキだということを認識したレイラは彼女を受け止めようと足音が聞こえる方を向き、しゃがみこんで手を広げる。
だがサキはスピードを緩めることなく、寧ろさらに勢いをつけレイラにドロップキックをかました。
「誤解されるようなこと言いふらすな!」
サキにドロップキックをかまされたレイラは驚きの表情を浮かべていた。
「一体どうして……」
レイラはサキを探そうと必死だっただけ。
大声で呼ぶという方法も別に問題はない。
だが彼女は言葉の選択を間違ってしまった。
サキに対しての誤解を招くような発言がサキの怒りを買ったのだ。
しかしレイラがそのことに気づくことはない。
彼女が気づいたのはサキが怒っているということと、サキがドロップキックをする姿も可愛いということくらいである。
そんな彼女はサキにドロップキックをされた理由が分からないまま床に倒れた。
「まったく少し目を離したらこんなことになっているとは」
「まぁレイラだからね。彼女に悪気はないんだよ、許してあげて」
サキとエリーはため息を吐きながら床に倒れているレイラを受付カウンターの奥にある従業員用の仮眠スペースへと運んだ。
◆◆◆
「ここはどこ? 私は誰? あなたはサキちゃん!」
「なんで俺の名前は覚えてるんだ」
レイラは現在従業員用の仮眠スペースにあるベッドに寝かされており、その両脇にはサキとエリーがついている。
「冗談だよ、自分のことはちゃんと覚えてる。ところでサキちゃんはさっきどこに行ってたの?」
レイラは体を起き上がらせ、大きく伸びをした後サキに顔を向けた。
「ああ、それは自分のステータスとやらを確認してたんだ」
「へぇなるほどね……で、どうだったの?」
レイラどうやらサキのステータスが気になるようでサキの脇腹を肘で何度も小突く。
そんなレイラを
「ふむ、どれどれ……」
レイラ見ている紙には次のようなことが書かれていた。
--------------------
〈名前〉 サキ
〈年齢〉 九歳
〈得意武器〉杖
〈能力値〉
〈力〉 C
〈魔力〉 B⁴
〈物理耐久力〉F
〈魔法耐久力〉B²
--------------------
「すごいよ! サキちゃん! 『魔力』と『魔法耐久力』が初めからBランクもあるなんて!」
「そうなのか?」
サキはステータスについてはまったく知らなかった。
彼女が魔王として君臨していた時代にはステータスなんてものはなかったのだ。
ステータスとはサキが封印されてから出来た個人の強さを測る指標で、能力の基準は大きく『力』、『魔力』、『物理耐久力』、『魔法耐久力』の四つに分かれている。
まずは『力』、これは自身の物理的な力を表す能力の指標だ。
続いて『魔力』、これは自身の魔法に関する力を表す能力の指標である。
それから『物理耐久力』、これは自身の物理的な耐久力を表す能力の指標だ。
そして最後に『魔法耐久力』、これは自身の魔法的な耐久力を表す能力の指標で、一般的に『魔力』の能力が高いとそれに比例して『魔法耐久力』の能力が高くなると言われている。
そして四つの能力値にはそれぞれランクが存在しておりF、E、D、C、B、A、Sとなっていく毎に能力が高くなっていく。
そのため、サキの『魔力』、『魔法耐久力』がBランクというのはかなり高い部類に入るのだ。
だがこのとき三人はサキの本当のステータスには気づいてはいなかった。
サキの『魔力』と『魔法耐久力』のランクはBではなく、B⁴とB²ランクである。
実はランクの横に表示される数字は何回Sランクを振り切ったかを表している数字で、サキの『魔力』、『魔法耐久力』は正確にはSランクを四回振り切ったBランクとSランクを二回振り切ったBランクだった。
しかし、それは今まで前例がないことでギルド職員であるエリーでさえ気づくことは出来なかった。
「そうだよ! ギルド期待のルーキーだよ!」
このときレイラはサキが自分のように落ちこぼれでないことをうれしく思っていた。
彼女から見ればサキが落ちこぼれでないということは自分と同じ思いをしなくていいということになるのだ。
「まぁとにかく意識が戻ったのは良かった。冒険者登録も終わったことだしそろそろ依頼を受けに行こうじゃないか」
サキは部屋から出ようとする……が出来なかった、正確にはレイラにローブを捕まれてしまったと言った方が正しい。
「ちょっと待って、サキちゃん。まだパーティーを組んでないよ」
「冒険者登録をしたときに勝手に組まれているんじゃないのか?」
サキは真実を確かめようと近くにいた冒険者ギルド従業員のエリーへと顔を向ける。
「冒険者登録とパーティー登録は別だよ。今パーティー申請書を持ってくるからここで待ってて」
エリーはそれだけ言い残すと部屋を後にした。
エリーがいなくなった途端に部屋に静寂が生まれる。
こうなると人間は場の空気というものには逆らえなくなる。
「サキちゃん、サキちゃん」
だがそれは一般的な人間の場合であって一般的な人間ではない者、そもそも人間でない者には当てはまらない。
その証拠にレイラは場の空気を気にすることなく唐突にサキに話しかけた。
サキもそれに答えるようにレイラへと近づく。
「なんだ?」
サキは何故呼ばれたのか分かっていない様子でレイラを警戒している。
というのもサキはこれまで何度もレイラの過度なスキンシップを許してしまっており、次こそは防ごうとサキは考えていた。
だがレイラがサキを呼んだのはスキンシップのためではなかった。
「サキちゃん、パーティー名どうしようか……」
彼女が悩んでいたのはこれから結成されるであろうパーティーの名称。
いつものレイラからは考えられない真剣な表情にサキは思わず息を呑んだ。
ともかくパーティー名について何も考えていなかったサキは困ってしまった。
「パーティー名と言われてもな……」
サキが言葉を発したところでちょうど良くエリーが部屋に戻ってくる。
「お待たせ、この紙にパーティー名とパーティーメンバーを書いてね」
エリーはベッドの横にあるちょっとした丸テーブルに紙をそっと置く。
だが紙を取りに行く者は誰もいなかった。
「ん? どうしたの? 誰も取りに来ないようだけど……もしかしてパーティー名がまだ決まってなかったり?」
エリーは二人の現状をズバリと言い当てる。
彼女からすればレイラが静かなのは異常事態、今この部屋でそんな異常事態が起こるとすればそれは彼女が死にかけのときか、何か物事を考えているときだ。
見たところレイラは元気なようなので残る可能性は一つ、何か物事を考えているとき。
そして先程までパーティーに関することについて話していた。
パーティーに関することで悩むとすればパーティー名くらいしかない。
そう、彼女にとっては現状を察することはそう難しくはないことだった。
「そうなのよ、エリーも何か良いパーティー名、思いつかない?」
「うーん、『落ちこぼれガールズ』っていうのはどう?」
「エリー、さすがの私でも怒るよ?」
「ごめん、冗談」
それからしばらく三人は案を出し続けるがなかなか良い案は出てこない。
「ああ、もうまったくダメだよ。ダメダメだよ」
レイラがギブアップと体をベッドに投げ出したとき、サキがポツリと何かを呟いた。
「じゃあ『サキリア』とかはどうだ?」
サキが呟いたのは彼女が魔王時代のときに住んでいた城の名前。
特に理由があったわけではないが自然と彼女の口から漏れでていた。
「サキちゃん、今何て言ったの?」
サキの発言が気になったレイラは彼女に問いかける。
「『サキリア』だが……」
「それよ! なんだか響きが良いわね」
レイラはついさっき体を預けたベッドからものすごい勢いで起き上がると近くにいたサキの手を掴む。
「決めたよ! 私達のパーティー名は『サキリア』、サキちゃんもそれで良いでしょ?」
レイラが唐突に決めたことだったがサキもこの決定に異論はなかった。
寧ろ馴染みがある分嬉しく思っていたほどだ。
「ああ、問題ない」
こうしてサキ、レイラのパーティー名は『サキリア』に決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます