6 幼女魔王、町に辿り着く

 サキとレイラの二人はリッチがいた例の武具庫で武器を選んだ後、洞窟の入り口まで戻ってきていた。


「いや、あそこでリッチが出るなんて思わなかったよね。サキちゃん」


 レイラの問いかけにサキは生返事をする。


「ああ、そうだな」


 サキが生返事をするのには理由がある。

 理由といっても大したことではない。

 生返事をするのはサキがリッチを倒してから今の今までずっとある言葉が定型文のようにレイラによって繰り返されているからだ。

 今の『まさかリッチが出るなんて』というのが合計十五回、『サキちゃんがいて助かった』というのが合計八回も繰り返されている。

 それだけ同じ言葉が繰り返されていれば誰でも生返事をしたくなるだろう。


「サキちゃん、聞いてる? だからね私は思うのよ、サキちゃんがいなかったら助からなかったって」

「ああ、聞いてる」


 ちなみにレイラがリッチがいた武具庫で選んだ武器はサキと同じような杖である。

 サキに憧れたのかは分からないがレイラは武器を見つけ出したときに、これだ! と言って杖に頬擦りをしていた。


「とりあえず俺の用事はこれで終わった。ここからはお前の好きにするがいい」


 サキはそれだけ言うとレイラを置いてこの場を去ろうとする。


「ちょっと待って、サキちゃん!」


 しかしレイラはまたもやサキの纏っているローブを掴んでサキを引き止めた。

 続けてサキに早口で捲し立てる。


「サキちゃん言ったよね、武器探しを手伝ったら命の保証はするって。それにいつまでっていう期限はなかったはずだよ」


 サキはレイラの言葉に足を止めた。

 レイラの言っていることは正しく、サキはぐうの音も出なかったのだ。


「分かった。どこまでついていけばいいんだ?」

「そうだね……とりあえず近くの町にある冒険者ギルドまでかな?」


 サキは聞きなれない『冒険者ギルド』という単語に疑問を感じていた。

 サキの時代には『冒険者ギルド』なる単語は存在しなかったのだ。


「ちょっと聞いていいか? 『冒険者ギルド』とはなんだ? 何かの施設なのか?」


 サキの質問にレイラは本気で言っているのか? というような驚きの顔をする。


「まさか知らないの?」

「ああ、生まれてこの方一度も耳にしたことがない」

「うーんまあ、行けば分かるよ。百聞は一見に如かずってね」


 レイラは結論を出すと、ある方向へと歩き出す。

 だが数歩あるいてすぐにサキのもとまで戻ってきた。


「そういえば私、町までの道分からないんだった」


 そんなレイラの残念さにサキが辟易へきえきしていると二人の後ろから、とある女性が二人に話しかけた。


「ちょっとそこの君達、ここで一体何をしているのかな?」


 サキとレイラが声に反応して後ろを向くとそこには太陽の下できらめく水のような明るい青色の長い髪を頭頂部よりもやや下の位置で一本に結んでいるローブを纏った女性がいた。


「あなたは!? ラフィエールさん!?」


 レイラはまるで憧れの人に会うかのような反応を見せる。


「あら、ありがとう。私を知っているのね」


 一方でサキはとある女性──ラフィエールを見て驚きの表情を浮かべていた。

 というのもラフィエールの姿は三百年前、サキを敗北させた賢者ラフィラの姿とあまりにも似ていた。

 そのことに気付いたサキはラフィエールがラフィラではないかと疑っていたのだ。

 彼女は勇者パーティーの仲間である賢者、長生き出来る術を知っていてもおかしくはない。

 だが次のレイラの一言でその仮説は崩れた。


「まさかあの魔王サキルを倒した賢者ラフィラの子孫に会えるなんて! 光栄です!」


 レイラは言った、ラフィラの子孫と。

 そう、彼女の正体はラフィラではなくラフィラの子孫だった。

 その事が分かったサキは一先ずは安心だとホッと息をつくと同時に先程から続いていたレイラの話に再び耳を傾けた。


「それでさっきのことなんですが、実は私達道に迷ってしまいまして……」

「そうだったのね。分かったわ、私について来て」


 ラフィエールは一度ローブを大きくはためかせ二人の前に出ると先頭を切って歩き始めた。


◆◆◆


 日がまだ東よりにある時間帯。

 ラフィエール率いる三人が森を抜け、平原へと出ると三人の数キロ先には巨大な城壁が広がっていた。

 遠くから見る限りでも巨大だと分かる城壁に囲まれた町の名前はラフィリア、この町は人間主義の国家タリシアートの領地で冒険者の町として知られており、東のクリナード、西のマキルリアと並ぶ大陸の中でもかなり巨大な町だ。

 この町に住む人口はおよそ百万人おり、多くの者が町の別称でも言われているように冒険者業を生業としている。

 また冒険者業に負けず劣らず、工業も盛んであるため国の武器や防具もラフィリア産であることが多い。


「さぁもう少しでラフィリアだからみんな頑張ってね」

「はい! ラフィエールさん!」


 それから三人はしばらく平原を歩き、ようやく町の城門前までたどり着いた。


「やっと戻ってきたよ! マイホームタウン! 一日ぶりだね」


 レイラは感動からか目に涙ながらを浮かべているがサキは気にすることなく城門へと向かう。


「じゃあ私は用事があるから失礼するわね」


 ラフィエールはどうやら用事があるらしく城門を潜るとどこかへと行ってしまった。

 続けてサキも城門を潜ろうとするが城門すぐ脇にいた槍を持った兵士に止められてしまう。


「お嬢ちゃん、すまないけど先に身分証明書の提示をお父さんか、お母さんにしてもらえるかな」


 どうやら町に入るには身分証明の提示が必要らしく、身分を提示する術がないサキは困ってしまった。


「サキちゃん! もう先に行かないでよ!」


 サキが困っていると後ろからレイラが大きく手を振ってサキのもとへと走り寄る。


「先に行っても入れないでしょ? 門番さーん、この子私の連れです」


 レイラは一度サキに顔を向けるとすぐに門番へと向き直り説明を始めた。


「おう、そうかい。もしかして妹さんかい?」

「やっぱりそう見えちゃう? そうなの! とっても可愛いでしょ?」


 レイラは息をするように嘘をつく。

 このときサキは自分が町に入りやすいようにレイラが嘘をついたということで一応納得していたが他にも何か違和感も感じ取っていた。

 実際レイラはサキを本当に妹にしようと画策していたのでサキの感じていた違和感も特におかしいということはない。

 それはともかくレイラが身分証明を門番に提示した後、サキとレイラの二人は町の中へと入っていった。

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