4 幼女魔王、武器を探す

 多くの木々が乱立する夜の森の中、そこに一つだけポツンと開けた場所がある。

 開けているのは半径十メートルの円形。

 そこに一人の少女と一人の幼女がいた。


「ここら辺でいいか」

「ここなら魔物が来てもすぐに気づきそうだね」

「そうだな、さぁ寝るぞ」


 サキの言葉にレイラは驚いた顔をする。


「え!? このまま寝るの? 結界的なものとかは張らないの?」

「そんなものは持っていない」


 サキは何てことないような顔できっぱりと言う。

 彼女にとってここにいる魔物は脅威とはならない。

 いざとなれば討伐すればいい、サキはそう考えていた。

 だがレイラにはサキのように考えることは出来なかったのだろう。

 彼女はそのまま地面で寝ようとするサキの体を激しく揺すり、しまいには横になっているサキにひしっと抱きついた。


「こんなところで寝るなんて無理だよ! 私が魔物に襲われたらどうするの?」


 レイラはサキの耳元で泣き叫ぶ。


「ああ、もう分かった、分かったから耳元で叫ぶのはやめてくれ」


 レイラの必死な抵抗に屈したサキはゆっくりと起き上がり、地魔法『ドーム・シールド』を発動させる。

 すると次の瞬間にはサキとレイラを覆うように土のドームが出来上がった。

 突然地面が盛り上がりドームが出来たため、レイラは腰を抜かしている。


「え!? え!? 今の何なの?」

「今のは地魔法の『ドーム・シールド』だ」

「魔法? そういえばさっきもいきなりゴブリンが飲み込まれたけどあれも魔法なの? でも詠唱してなかったし……」

「当然、無詠唱で発動させたのだが何かおかしいのか?」


 サキの言葉を聞いたレイラはあんぐりと口を開けて驚く。


「何かおかしいのか? じゃないよ! 普通、無詠唱は勇者のパーティーに入れるくらい強い魔導士じゃないと使えないんだよ」


 サキにとって魔法を使うときは無詠唱が当たり前、魔王として君臨していたときも周りには魔法を無詠唱で発動する者しかいなかった。

 勇者も当然無詠唱でサキに攻撃を仕掛けてきた。

 だからこそ魔法を使える者全員が無詠唱をしているとサキは思っていたのだが、レイラによると実際には無詠唱で魔法を使える方が少ないという。

 この事実にサキの方も驚かずにはいられなかった。


「それは本当なのか?」

「本当だよ。サキちゃんくらいの子でもみんな知ってるよ」


 レイラの言葉を聞き、サキは顔を俯けしばらく黙りこむ。

 それからサキはバッと勢いよく顔をあげるとレイラに一つ問いかけた。


「でも勇者パーティーに入れるくらいに魔法が使えれば無詠唱は使えるんだろ?」

「そうだけど……相当珍しいというか」

「それなら問題ない」


 流石にある一定の人にしか使えないのであれば自重するところだったがただ珍しいだけなのであれば自重する必要はない。

 サキは先程黙りこんだときにそう考えていた。


「まぁ悪いことじゃないし、無詠唱が使えるのは寧ろ良いことだよね。じゃあ安全になったことだしもう寝るね」


 レイラはドームの中ですぐに横になって寝息を立て始める。


「俺も寝るとするか」


 今日色々あって疲れたサキもドームに対して増強魔法『オブジェクト・コーティング』を発動してドームの強度をあげた後、レイラと同じように横になり、意識を手放した。


◆◆◆


 夜の間に冷やされた空気が森の木々の間を通り抜ける。

 日はまだ完全には昇りきっておらず東の方向からのみ光が射し込んでいる、そのせいか森の所々に通常よりも細長い木の影を作り出していた。

 そして今は夜行性の魔物も日中活動する魔物も活動していない時間帯、魔物の声が聞こえることはなくどこか寂しささえ感じさせる。

 そんなとある森の一つポツンと開けた場所にドーム状の物体が配置されていた。

 材料は土のようであるが時折、日の光が反射して光沢を放っている。

 明らかに人工物であるそのドーム状の物体は次の瞬間には花のつぼみが開くように地面へと呑み込まれた。

 そしてその中からは一人の少女と一人の幼女が姿を現す。


「さぁ武器を探しに行くぞ!」

「流石に朝早いよ、サキちゃん」


 レイラはまだ眠いようで一定の速度でゴシゴシと目を擦っている。


「もしまだ寝たいようだったら寝ているといい、俺は先に行くがな」


 サキがそう言葉を発した瞬間今まで眠そうにしていたレイラの目が見開いた。

 レイラからすればこの森でサキに置いていかれたら最後、それは死を意味する。

 それだけは避けなければならないとレイラは慌ててサキに返事をした。


「分かった、行くから! 私って実は朝早起きするのが趣味なんだよね!」

「分かればいいんだ」


 慌てた様子でレイラはサキへと駆け寄る。

 その姿を見たサキは森の中を歩き出した。


 それから一時間ほどだろうか、武器を探していたサキ達はとある洞窟を見つけた。


「ここに武器が隠されているかもしれん」


 洞窟は人が五人横に並んで歩いてもまだ余裕があるほど広く口が開いており、高さも三メートルほどとかなり高い。

 そんな洞窟の中からは数分に一回、魔物の鳴き声も聞こえてくる。


「本当にここに入るの? 考え直したりとかは……」

「もちろんない、さっさと入るぞ」

「そんなぁ」


 レイラは見るからに落ち込んだ様子を見せる。

 だがサキはそれを気にすることなく洞窟の中へと入っていった。


 洞窟の中は意外にも明るい、というのも洞窟内の所々にある半透明な鉱石──リフレクト鉱石が外からの光を吸収して放出しているのだ。

 その放出された光がさらに他のリフレクト鉱石に吸収され、放出、吸収され、放出、これらを繰り返して洞窟内全体が明るくなっている。


「こんなに洞窟の中が明るいと拍子抜けするね」

「明るいからって油断してたら危ないぞ。ほら、お前の後ろに」


 サキは咄嗟にレイラの後ろへと手を向け雷魔法『サンダー・ボルト』を発動させる。

 サキの手から放たれた魔法は一瞬のうちにレイラの後ろへと向かい、レイラを襲おうとしていた巨大コウモリ──ビッグ・バットにバチッと音を立てて当たった。


「もういきなり何を言うのよ。後ろには何も……ひぃい!?」


 レイラが振り返り、足元を見ると先程サキが倒したビック・バットの死骸があった。


「そのコウモリがさっきお前のことを襲おうとしていたんだ。どうだ? 明るくても危ないだろ?」


 サキの言葉にレイラはコクコクと首を縦に動かす。


「わ、分かった。危ないのはよく分かったから私をここで見捨てないでね?」

「それが嫌だったら黙ってついて来い」


 サキはそれだけ言うと一人先に進む。

 レイラも彼女のあとにピッタリとくっつくようにして歩き始めた。

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