2 幼女魔王、真実を知る
彼女──サキルの目の前には一匹のスライムがいた。
スライムとは不定形のジェル状の魔物でこの世界で最も弱いと言われる魔物。
サキルは現在そのスライムに魔法を叩き込もうとしていた。
「試し撃ちならコイツでいいか」
サキルは自らが使える魔法の内、暗黒魔法『カオス・エクスプロージョン』を選択する。
暗黒魔法『カオス・エクスプロージョン』はサキルが魔王時代のときによく使っていた自身が選択した座標を中心に小さなブラックホールを生み出し引き寄せた後、爆発を引き起こす魔法だ。
ちなみに魔法は大きく分けて四つ分類が存在する。
まず一つ目が基本的に攻撃手段として使うことが多い属性魔法。
属性魔法にはさらに分類があり、無、火、水、雷、地と言った基本属性に加えて無以外の属性にはそれぞれ派生属性が存在する。
派生属性は火を派生させた炎、水を派生させた氷、雷を派生させた爆発、地を派生させた衝撃の四つがある。
またこれらの派生した属性魔法は派生前の属性魔法よりも威力が高くなっているため上級属性魔法とも言われている。
次に二つ目が基本的に属性魔法と用途が変わらない特殊属性魔法。
特殊属性魔法にも光と闇と言った分類が存在している。
それに加えて属性魔法と同様に派生属性も存在しており、光を派生させた
通常の属性魔法と異なる部分だがそれは通常の属性魔法が努力をすれば習得出来るのに対して特殊属性魔法は習得に適正が必要だということである。
なのでどんなに努力したとしても特殊属性魔法は適正がなければ習得することが出来ない。
そして三つ目が対象の状態を操作する状態操作魔法。
状態操作魔法はその名の通り状態を操作する魔法で例えば精神に作用する精神魔法、対象にあらゆる強化を施す増強魔法、対象を弱体化させる弱体魔法、物の形を変えたり、物を作り出したりする造形魔法などがある。
この状態操作魔法については物質の外に放出する必要がなく物質内のみで完結することから他の魔法では必要不可欠かつ魔法の応用性を奪っている物質の中から外に魔力を放出するという操作がなく新たに魔法が生まれる可能性があるため合計でいくつあるか一概には言えない。
最後に四つ目、威力は強大だが発動に大量の魔力と時間が必要のため廃れてしまった古代魔法。
古代魔法は全ての魔法の基盤と言われており、属性魔法は古代魔法を改良したものだと言われている。
以上四つの魔法の内、サキルは特殊属性魔法の暗黒魔法を発動させようとしていた。
サキルは手を自分の胸の位置まで上げ魔力を手に集中させる。
だがある程度まで手に魔力を集めたところで彼女は急に胸の痛みを感じ地面に膝と両手をついてしまった。
「くっ……まさか魔法の適正がなくなっているというのか」
スライムはサキルが膝と両手をついて痛みに耐えている隙をついて彼女に体当たりをする。
その瞬間、スライムのぷるんっとした体からは想像も出来ない衝撃がサキルの体を駆け抜けた。
「ぐはっ!」
サキルはこのとき痛み以外にも以前と比べて自分がかなり弱体化していることに対して情けなさを感じていた。
だがスライム如きにやられるわけにはいかない、その一心で咄嗟に彼女はスライムに手を向けて闇魔法『ダーク・エッジ』を発動しようとする。
闇魔法『ダーク・エッジ』の発動は見事に成功、スライムの体を地面から生えた闇の刃が貫き、スライムの息の根を止めた。
それを見届けた直後、サキルは再び両手を地面についた。
「まさかここまで弱体化しているとは……以前までならスライムの攻撃など痒くもなんともなかったのだがな」
サキルは自分の弱体化した体に嘆きながらも今の戦闘に引っ掛かりを覚えていた。
それは闇魔法が使えたという点、今思えば暗黒魔法を使ったときのように体に痛みは感じなかった。
闇魔法と暗黒魔法は威力に違いこそあるが同じ種類の魔法、闇魔法が使えたなら暗黒魔法にも適正があるということになる。
それなら暗黒魔法が使えなかったのは適正がなくなっているからではなく、ただ単純に暗黒魔法を発動させようと魔力を集中させるときに体が耐えられなかっただけかもしれないと彼女は思っていたのだ。
サキルは試しにと属性魔法、上級属性魔法、それに状態操作魔法のいくつかの魔法を地面、それと自分自身に向けて使った。
そして結果的に分かったのが暗黒魔法と習得するすれば誰でも使えるはずの上級属性魔法が使えないということである。
古代魔法は威力が高く地形を破壊してしまうためサキルは使っていないが基本的に上級属性魔法より魔力負担が大きいもの、上級属性魔法が使えないのなら使えないものと判断しても問題はない。
これらのことから魔法の適正がなくなっている、という線よりは体が魔法に耐えられなくなった、という線の方が濃くなってきたとサキルは考えていた。
「いろいろ分かってきたところだがこの体だとすぐに疲れてしまうな。どこか休めるところは……」
そんなサキルの耳元に水の流れる音が聞こえてくる。
「どうやら近くに川があるようだな。ちょうど良い、そこで休むとしよう」
サキルが水の流れる音を
水は岩の割れ目から流れているからか不純物がなく透き通っていてとても綺麗な色をしている。
サキルはそんな小さな川の横にある大きな石に腰掛けた。
「ここは涼しくて気持ちがいいな」
サキルがしばらく岩に腰掛け休憩していたときである。
川の向こう側から話し声が聞こえ、サキルは咄嗟に声の主から見えないよう自らが座っていた岩へと姿を隠した。
今のサキルは全裸である、そんな姿を見られれば厄介事になるに違いない。
この行動はそんな彼女の思いからの行動であった。
「今日はここら辺で終わりにするか」
「そうだな、冒険者は無理してもいいことないからな」
話していたのはどうやら人間の男二人組のようで二人とも皮鎧に肘当てと比較的動きやすそうな武装をしている。
そんな彼らは休憩をするためか川へと近づいてきていた。
「いくら駆け出し冒険者推奨のラフィラの森と言っても死ぬときは死ぬもんな」
サキルはラフィラという言葉に一瞬反応する。
というのもラフィラはサキルを封印した勇者パーティーの一人である賢者だ。
反応しても仕方ないことだろう。
「そういえば昔はここら辺一帯が魔王の領地だったらしいぜ」
「ああ、それなら俺も知ってるぜ。歴代最強と言われた魔王サキルだろ? あの『勇者四人の冒険』って話は俺も小さい頃は好きでよく母ちゃんに話してもらったもんさ」
「知っていたか。確か三百年くらい前なんだよな、あの話の元になった魔王がいたときってのは。俺の爺ちゃんのそのまた爺ちゃんがその魔王サキルの時代だったって昔聞いたよ」
「へぇ三百年も前なんて想像もつかないな」
二人組の男達は少し川で休憩するとすぐに川から離れていく。
それから少し経ち、男達の姿が見えなくなったところで岩に身を隠していたサキルは再び川へと姿を現した。
「まさか今があれから三百年も経った世界なんてな……」
サキルは男達の話を全て聞いていた。
ここが元々サキルの領地であったこと、そして今が勇者達との戦いから三百年が経っていることを全て。
しかし彼女は驚いたりはしなかった、逆にこれからするべきことが見つかったと考えていたのだ。
「男達の言っていたことが本当ならここら辺一帯は俺の領地だった。ということは俺の城の武具庫にあった武器が何か残っているかもしれない。そこで丈夫な杖が見つかれば暗黒魔法と上級属性魔法も使えるようになるかもな」
サキルが一部の魔法を使えないのはただ単純に魔力を体の一部に集めた際に体が耐えきれないだけという可能性が現時点では高い、それなら魔力を集中させる場所を杖、その中でも比較的に多くの魔力に耐えられる丈夫な杖にすれば問題なく魔法を発動出来るとサキルは考えたのだ。
サキルは今後人間と遭遇することも考え、造形魔法『モデリング・ウッド』で木の皮からローブを作り出し体に纏わせる。
それから武器を探すため再び散策を開始した。
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