敗北魔王のFランク冒険者育成計画 ~幼女(ロリ)な魔王がギルド最低ランクの少女を最強に育て上げます! ~

サバサバス

一章 魔王復活

1 魔王、敗北する

 この世界には魔王と言われる存在がいる。

 魔王は世界を我が物にしようと圧倒的な力でを押さえつけ、虐殺の限りを尽くし、世界を混乱に陥れる。

 しかしそれでも魔王が世界を手に入れたことはなかった。


 それは勇者の存在があったためである。

 勇者は魔王が新たに現れる度に異世界から召喚され、必ず魔王を討ち滅ぼす。

 これは一種の決まり事のようなもので今までそれを覆す魔王は存在しなかった。

 そして今回の魔王もその決まり事から逃れることは出来そうになかった──。



 魔王国家サキルリア全ての中心部であるサキリア城の玉座の間。

 そこでこのサキリア城のあるじである魔王サキルと魔王に対抗する勇者陣営四人の勇者達が対峙していた。


「ついに追い詰めたぞ! 魔王サキル!」


 今の発言は彼──異世界から召喚された勇者によるものである。

 彼の名前はトオル、異世界人特有の黒い髪を持つ成人してまもない青年だ。

 長い前髪が目にかかっており冴えない印象であるが流石は勇者、それに相応しい圧倒的な力を持っている。

 またその力を最大限に引き出しているのが彼が持っている剣『幾千の剣サウザンド・ソード』である。

 一度の攻撃で数千回もの攻撃を与えるその伝説の武器は歴代の魔王達を幾度となく苦しめた勇者陣営最強の剣だ。

 

「さぁ観念して大人しく塵になりなさい!」


 そんな強気な発言をしたのは勇者パーティーの一人である賢者ラフィラ。

 太陽の下できらめく水のような明るい青色をした彼女の長い髪はどこか精霊のような神秘さがある。

 そんな彼女の持っている杖『神の息吹ゴッド・ブレス』は装備者自身の魔力をおよそ二倍にまで引き上げる特殊な能力が備わっている。


「……」


 そして終始無言を貫き、全身銀色の鎧に身を包む手に巨大な槍と盾を持った男、彼も勇者パーティーの一人である槍術士クリフ。


「はう……」

 

 最後に慌てた様子を見せたゆるふわボブで薄いピンク色の髪をした女性が多くの魔物と戦闘し怪我をすることが多い勇者パーティーにとって根幹と言ってもいい存在の回復術士マキア。

 彼ら四人は今この瞬間にも魔王サキルに止めの一撃を与えようとしていた。


「俺では不可能だったか……」


 そんな状況の中、頭に黒く禍々しい二本の角を生やした魔王サキルはそう呟く。

 サキルとしてはこの状況は望むものではなかった。

 本来は勇者陣営には手を出さず互いに共存の道を歩もうとするつもりであったが彼の方針に納得出来なかった彼の配下が秘密裏に勇者陣営に攻撃を仕掛けてしまったのだ。

 彼は賢かった、歴代の魔王達と同じことをしていれば自分も歴代の魔王達と全く同じように滅ぶ結末を迎えてしまうことを分かっていた。

 だからこその勇者陣営に手を出さないという決断だったのだがそれは失敗に終わってしまった。


「これで終わりだ! 魔王サキル!」


 勇者トオルは手に持つ剣を下段に構えてから軽く助走をつけ跳び上がる。

 そして彼は飛び上がった際に下段に構えてた剣を思い切り振り上げ、サキルの巨大な体に一つの長い縦線を刻みつけた。


「ぐわぁああ!」


 突如、サキルの体に刻まれた線からは神々しい光が溢れてくる。

 サキルは必死に叫び声を上げ痛みに耐えようとするも光は次第に強くなりサキリア城玉座の間の全てを埋め尽くしていく……。

 そして魔王サキルは意識を失った──。


◆◆◆


 サキルは気がつくと深い森の中にいた。

 周りは背の高い木々に囲まれており時折生き物の鳴き声が聞こえてくる。

 木々の葉の隙間からは日の光が射し込み、今が昼間だということを窺わせた。

 先ほどの勇者との戦いで彼が完全に消滅したと思っていた矢先にこれだ。

 彼は酷く混乱していた。

 死んだと思ったら突然森の中にいたのだから普通に考えれば混乱しない方がおかしい。


「なんだか、いつもより低いな」


 そこでふとサキルは自分の目線がいつもより低い位置にあることに気づく。

 それと同時に自分の話し声が高くなっていることにも違和感を覚えていた。

 彼は体を見下ろし自分の姿を確認する。


「こ、これは!?」


 サキルが自分の体を見下ろすとそこには人間の、それも人間の中でも比較的幼い少女の裸体があった。

 はさらに混乱した。

 つい先ほどまでは今よりも身長が八十センチほど高く、体のあちこちでは筋肉が盛り上がっていた。

 それが今になって急に人間の幼い少女の姿というのは彼女にとっても予想外のことだったのだ。

 立て続けに起こる予想外の数々、彼女の頭はパンク寸前だった。


「俺の頭がパンクする前に何故こうなってしまったかを少し整理しよう」


 だが流石は魔王、不測の事態でもすぐに立ち直り、原因を突き止めようとする。


「まずは今いる場所の把握だな」


 サキルは現在地を把握しようと周りを一通り見渡し、ある一つのものを見つけた。

 それは彼女のすぐ後ろにあった真っ二つに割れた巨大な結晶石である。

 結晶石とは空気中の魔力が突然変異して結晶化したもので、魔力の高い方に結晶石中に存在する結晶化した魔力が溶けだす性質から主に自身の魔力を増幅させるために持つ杖の材料として使われる。

 だがそれはごく小さな結晶石のみであり一定の大きさを越えると逆に結晶石の方に魔力が引き寄せられてしまう大変扱いづらいものだ。

 そんなある一定の大きさを越えた結晶石にも使い道は存在する。

 それは封印である。

 このことに結晶石を見た瞬間気づいたサキルは全てを察した。


「どうやら俺はここにずっと封印されていたみたいだな。この姿も魔力が結晶石に溶け出した結果か?」


 サキルは一先ず自分の今の状況と姿について結論をだす。


「だとしたらあとは俺の力がどうなっているか確かめないとな」


 それからサキルは自分の今の力を確かめるため森の中へと向かった。

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