第11話 テキーラトニック


 たまには正直になってみてもいいかな。私は色んなことに対して嘘をついている気がするわ。やっぱり、いい人って思われたいじゃない。嫌な人って思われたくないじゃない。本当は、本当はね。煙草のけむりの匂いって好きじゃないの。職場に相沢さんって人がいるのね。その相沢さんの後に休憩すると、事務所が煙草の匂いでいっぱいでね、せっかく作ったお弁当が煙草の匂いでね、なんだか煙草を食べている気分になってしまうの。あ、笑ったりしないで。

 でもね、男の人の煙草を吸う仕草は好き。矛盾しているでしょ?自分でも分かっているわ。だけど煙草を吸う時にしか見せない表情ってあって、それを見れた時、ラッキーと思うわけ。今、あなたおかしいと思ったでしょう?


 彼女はテキーラトニックを飲みながら、頬を赤らめている顔がとても色っぽい。そのことを伝えたくなった。だけど、言葉が出てこない。彼女の瞳を覗いた。僕の姿が映っている。

 1秒、2秒、3秒、4秒。5秒後に僕らはキスをした。

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