第2話 苺のシュークリーム

 街はすっかりクリスマスムードで、イルミネーションに包まれる12月に27歳になった。私には高校生のときから付き合っていて、もうすぐ11年目になる恋人がいるのだけれど、正直なことを言うと、最近、ときめくことがない。

 ある友人は、彼氏との、のろけ話に花を咲かせ、ある友人は結婚してもなお、夫のことを好きだと言う。

 私は「すき」という感情をどこかに置き忘れてしまったのか、それともどこかに捨ててきてしまったのか解らないけれど、頭から足先まで、心のどこにだって見当たらない。そして、困ったことに、それは私だけであって、彼は1年経とうが、3年経とうが10年経っても、変わらない愛情を注いでくれているのだ。

 だから、時折、戸惑いを隠しきれない。彼の心のなかでは彼女である私の存在はこのイルミネーションの様に輝いているのかもしれないのに、私の心のなかでは、もはや空気の様な存在だというのに。

 存在して当たり前。と、言えばどこかしら響きの良い言い回しのように聞こえ、言い訳の様にも感じるが、それこそが本心なのだ。

 

 クリスマスも近いことがあり、街はカップルで溢れかえり、寒さのせいもあってか寄り添うように歩く彼女たちは、誰もが笑顔で彼に接している光景を横目で見ながら歩き、歩きながら帰りに駅中にある、シュークリーム屋さんで、期間限定の苺シュークリームをひとつ買って帰ろうかなあ。と考える。勿論、自分の分だけだ。

 たとえば、彼なら自分の分だけを買うなんてこと決してしないだろう。きっと、-アイちゃんの分も買ってきたよ。そう言いながらふたつ以上買ってくるに違いない。私には、何が欠けているのか。そう考えるには膨大な課題で、ただ、周りの人が当然のごとく、彼にときめくように、私もときめきを感じたいだけなのに、それなのに、どうしていいのかさえ解らずにいる。


 ときめくって、すきって、愛してるって何だっけ?膨大な疑問符だけが頭のなかを駆け巡る。彼はどうしてこんな私なんかに惜しみもなく愛情を注いでくれているのだろうか。そんなこと訊きたくても訊けない。彼にとってはそれが当たり前なのだろうから。

 今夜、彼が家に来ると言っていたことをふいに思い出した。

 苺シュークリームをふたつ、買って帰ることにしよう。きっと、彼は大喜びするんだろうな。その瞬間に、感じる自分の感情に答えを委ねてみようじゃないの。彼の喜ぶ笑顔を想像しただけで、人目を忘れて、ちょっと笑ってしまった自分がそこにはいた。


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