第3話

 ✿―✿―✿


 ゲーセンで皆が楽しそうに遊ぶ中、美琴だけは楽しめないでいた。そして、このままでは場の空気を悪くしてしまうと思った美琴は「気分が悪いから」と、友達に嘘をつき先にゲーセンを出たのだった。

 電車に乗り一人で家に向かっている途中、美琴はふと友達が話していた『幽霊関連の仕事を請け負う店がある』という事を思い出し、スマホでその事を調べ始める。が、いくら探してもネットにそんな情報は全然出て来なかったのだ。

 幽霊・お店・渋谷等のワードで検索してみても、ネットに出てくるものは心霊スポットや居酒屋ばかりだった。



「……無いかぁ」



 美琴は「はぁ」と、溜め息を吐き電車の壁にもたれかかる。心身から来る疲労と電車の揺れで、美琴の目は次第に重くなってきていた。

 どうやら相当疲れているようだ。

 電車が一駅着くと席がポツンと空き、美琴は重たい目と体を引きずり空いた席に腰を下ろすとそのまま目を閉じる。



「……祐希ゆうき



 聞こえるか聞こえないかの声である一人の名前を呟くと、美琴は深い眠りの中へと入って行ったのだった。

 そして、次に目が覚めるといつの間にか乗っている電車は最寄り駅に着いていた。

 美琴が慌てて鞄を持ち車両から下りた瞬間、開いていた扉が閉まり美琴はホッと息を吐きながら「あっぶねぇ……」と呟いた。

 すると、少し眠って頭も冴えたのか美琴はある事を思いついた。それは誰もが最初にやるだろう行動だった。

 美琴はこの思いつきに、今までの自分が馬鹿に思え思わず苦笑する。



「あー。俺、本当に馬鹿だなぁ。最初からあいつに聞けばよかったのに」



 そう。それは、その話を振った張本人に話を聞くということだった。

 美琴は頭を無造作に搔くと小さく息を吐き「……色々、焦ってたのかな」と、呟いた。

 今はもう帰路についている。電話をしてもいいのだが今日はもうクタクタだ。だから行動は明日あすにしよう。これで何も収穫が無ければ諦めよう――そう思い、美琴は改札を出て家路へと向かったのだった。


 翌日。美琴は、その話しをしていた友達に詳細を聞くため隣のクラスへと立ち寄っていた。



「あ、いた。おい、駿しゅん!」

「ん〜?」



 椅子にもたれながら月刊誌を読んでいた斉木駿さえきしゅんは呼ばれて振り返る。



「あ? 美琴じゃん。どうしたんだ?」



 美琴は教室の中に入り駿の前の席に座るが、どうやって話題をふったらいいかわからず言葉は口ごもるばかりだった。



「あー……いや、その……」

「ん? なんだよ?」



 あの話を詳しく聞きたい奴なんて早々いない。現に、目の前にいる駿も周りの友達も話していた話題を信じていなかった。

 仮にその話に興味が抱き話を深く聞こうとしても、それは珍しいものが好きな変わり者だ。美琴はそう心の中で思っていた。

 しかし、美琴には願いがある。それは美琴にとって、どうしても叶えたい願いだった。

 美琴はこの場で引かれてもいいと思い斉木にあの話を聞くことに決心する。



「あ、あのさ! 幽霊関連の仕事を請け負うっていうの? ほら、昨日、話してたじゃん? それについて詳しく教えてほしいんだ!」

「は? お前、まさか信じるの?」



 キョトンとしながら美琴に言う駿に、美琴は少し口ごもりながら「幽霊自体はあまり信じていないけど……」と言った。



「ふーん。でも、聞きたいんだろ?」

「あ、あぁ……」



 先程までの勢いはどこに行ったのやら。美琴は顔を伏せ、重い表情をする。流石の駿も美琴のそんな暗い表情に驚いたのか、内心慌てている様子だった。



「お、おい。そんな暗い顔するなよ。わかった。教えるよ、教えるから顔を上げろ。なんからしくないぞ、最近のお前」

「駿……」



 幼馴染みではなくても中学最後の一年からの馴染みもあるのか、駿は他の友人が気づかないだろう些細なことに気づいていた。

 駿は頭を無造作に掻きながら「ったく……」と呟く。



「まぁ、何か事情があるんだろ。お前がそんな顔をするってことはさ。めちゃくちゃ内容が気になるけど……詳しくは聞かねぇ。俺もそこまで野暮じゃないからな。お前が話してくれるのを待つよ。で、あの話に戻すけど、俺も詳しくは知らないぞ? たまたま見つけただけだし」

「あ、あぁ! わかってる!」



 美琴がなぜそこまでして話を聞きたがっているのかを深く追求してこない駿に、美琴は駿の漢気を感じた。

「さすが駿。普段は適当な感じだけど、こういう所はカッコよくも思えるな」と、美琴が密かに思っている中、駿は思い出すように天井を見て話を続けた。



「あ〜……確か、幽霊で困ったや相談があることは何でも受け付ける喫茶店があるとかだったかな」

「喫茶店?」

「あぁ。場所は昨日も言った渋谷らしい。詳しい場所までは載ってなかったと思う」



 "渋谷"というだけで詳しい場所までわからないとなると探す範囲は尋常じゃなく広い。それに加えネット検索にも引っかからないとなると人気店ではないのは確かだろう。人気店なら、今頃はネットで評価されているからだ。

 結局、収穫はゼロ。美琴は、その場でガクリと項垂れてしまった。

 すると、そんな美琴を励ますように、駿は美琴の肩を叩いた。


「まぁ、まぁ。そう気を落とすなって。な? 喫茶店の名前ぐらいは覚えてるからさ! 確か【 幽霊喫茶探偵事務所 】だったと思う」

「幽霊喫茶探偵事務所? え、それって喫茶店だよな……? いや、探偵事務所なのか?」

「さぁ〜? 俺もそこまでは知らないけど両方じゃね? 変な店の名前だよなぁ」



 そんな話をしていると、教室のスピーカーからチャイムの鐘の音が鳴り出し美琴は椅子から立ち上がる。



「駿、ありがとな」

「うい〜。あ、おい美琴」


 美琴が教室を出ようとすると、後ろから駿に呼び止められ美琴は足を止め振り返る。



「言いたくなったら、いつでも言えよ。一人で無理するな」

「……あぁ、ありがとう」



 駿は美琴の背中を見送ると再び机の中から漫画を取り出し読み始める。そして、美琴は今度こそ教室を出て、先生が来る前に自分の教室へ早足で向かったのだった。

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