ケース3:火星有人探査機
西暦2103年、人類は火星に進出しようとしていました。
「地球から始まり、月を植民地化した人類の次なる目標は火星でした」
――地球連邦宇宙開発省大臣 ロンメル・カロナイン
人類が月に進出したのは、人類の居住区域を広げるためでした。では今回の火星探査の目的は一体なんのためでしょう?
「もちろん、入植という考えが第一にあります。そのほかでは、人類や太陽系の起源を調べるためといった側面もあります」
――地球連邦宇宙開発省大臣 ロンメル・カロナイン
そのためには、どのような技術が必要になるでしょうか?
「今後の技術革新の根底となる部分です。失敗は許されません」
――地球連邦宇宙開発省大臣 ロンメル・カロナイン
まずは宇宙開発省の内部で、今後の問題となる部分の洗い出しが行われます。
『まずは移動における問題点から探っていこう』
「最初の課題は、想定される問題点を探し出すことでした。そのため、まずは計画から実行に至るまでのすべての状況を把握するため、架空のスケジュールを組みました」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会対策室室長 アラン・ヒューリック
対策室のメンバーは、今後発生するであろう問題点を探っていきます。
『この時に発生する問題はこの程度か?』
『いえ、まだ一つだけ残っています』
「非常に地道な作業ではありますが、これも今後の人類のためを思うと、緊張感を持って取り組めましたよ」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会対策室室長 アラン・ヒューリック
机上での探査計画も佳境に入ってきました。
『よし、火星までの道のりはこれで十分だな』
しかし、この時に問題が生じます。
「火星への探査はこれまで幾度となく行われてきました。しかし、それらは無人探査機による一方的な探査に過ぎませんでした。今回行うのは有人探査で、帰りが必要な状況です。しかし、私たちが想定していた内容と異なる部分が生じたのです」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会対策室室長 アラン・ヒューリック
どのような問題が生じたのでしょうか?
「私たちが想定していた航路では、3年と数か月をかけて移動することになっています。しかし、その航路に問題が生じたのです。予定されていた航路では、火星の周回軌道に入るような想定でしたが、その状態では、火星の衛星に衝突するような状態だったのです」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会対策室室長 アラン・ヒューリック
目的地に人員を移送できないのは問題です。なぜこの問題に気が付かなかったんでしょうか?
「これまで火星の衛星は2つであると観測されていましたが、つい最近になって3つ目の衛星が発見されたのです。この衛星はギリシア神話からハルモニアと命名されました」
――宇宙開発省宇宙観測部火星担当課 フォルマ・ドーラ
他の二つの衛星同様、外部から捕獲されて衛星になったと考えられる衛星です。
しかし、このままでは火星に接近することができません。そのため、対策室のメンバーはもう一度計画をやり直すことにしました。
『今度はハルモニアのことも計算に入れてやろう』
こうして、問題は解決へと導かれます。
「一時はどうなるかと思いましたが、何とか形にできそうです」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会対策室室長 アラン・ヒューリック
こうして、数々の問題をクリアして計画は次の段階に進みます。
「次は私たちの番です」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会 エーデル・ヨーロフ
計画の次の段階は、資材の調達などです。
「地球上には、ほとんど採掘できるような場所は残ってません。現状、使い古した資材をリサイクルするしか方法が残ってませんからね」
――地球連邦資源開発庁資材部 トーラス・ウェール
現在、資源の多くは月面での核融合による自由物質生成による方法のみです。
しかし、これにも限りがあります。
「今回は特例で、月面にある自由物質生成機の一つを使って、火星に行くための資材を建築することにしました」
――地球連邦資源開発庁資材部 トーラス・ウェール
すぐに実行委員会は行動に移します。
まずは火星に行くまでのロケットを製造します。
「ロケットといっても、軌道修正ができる程度の小さなもので十分です。打ち上げは月面から行うので、特に大型にこだわる必要はありません」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会 エーデル・ヨーロフ
ロケットの問題は解決しました。
ではほかの問題はどうでしょうか。
「身体への影響を考えると、居住スペースの確保は優先的に考えなければいけません。3年もの間、無重力にさらされることになりますから」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会 エーデル・ヨーロフ
そのことを考慮した宇宙船の設計が行われます。
「まずは、SFに描かれているようなドーナツ状の装置を思い浮かべる人も多いと思います。そのような形状を持った宇宙船を設計することになります」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会 エーデル・ヨーロフ
ドーナツ状の装置は疑似的に重力を発生させるのに役立ちます。
人間は重力のある環境でないと、身体に多大な影響を及ぼすことが分かっています。
こうして、宇宙船の設計は完了しました。
次の問題に取り組みます。
「実際に宇宙飛行士が火星に到着したときに、どのような調査を行うのかが問題です」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会 エーデル・ヨーロフ
宇宙開発省は、内部で火星での調査を検討するためのチームを発足させました。
彼らは、火星に到着した宇宙飛行士に対して、どのような調査や実験をさせるかについて検討しました。
「この調査では、人類そのものの調査も兼ねています。それは、地球以外の惑星に入植するという点においては画期的ともいえることです」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会研究策定チーム トール・スカディウム
チームは、今後火星における研究やそれに関連する装置の選定を始めました。
「まずは火星での地質調査です。これまで幾度となく調査されていましたが、今回の調査によって、より詳しく調査ができると考えています」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会研究策定チーム トール・スカディウム
しかし、ここである疑問が呈されます。
『わざわざ人類が火星に行く必要があるのか?』
「これは根本的な問題です。現在、人類の技術の進化は大きいものです。わざわざ人類がいかなくても問題はないのではと疑問に思ったんです」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会研究策定チーム ウォン・リャンシン
これは重大な問題です。すぐに実行委員会で会議が開かれました。
「確かに、我々人類がいかなくても何も問題はありません。しかし、この調査は人類が行くことに意味があると考えます」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会 エーデル・ヨーロフ
この問題はかなり深刻化していきます。現状、人類の持ち合わせている技術で、火星への探査は完結してしまうからです。
「重力が人体に与える影響を考えることも検討段階に入りましたが、その考察は月面に人類が入植している段階で答えは出ています。火星への有人探査の意義を考えるほど、この有人探査に意味がなくなっていくことが明らかになったんです」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会 エーデル・ヨーロフ
この問題は、宇宙開発省の枠組みを超えて、世論まで発展していきました。
人類の夢を取るのか、現実路線を取るのか、そのはざまで宇宙開発省は揺れ動いていたのです。
この問題に決着がついたのは、当時の地球連邦大統領のベンジャミン・ロードンの一言でした。
『我々は、人類の夢をあきらめることができません。人類の技術はここまで発展したのです。それならば今一度、人類の夢に対して、大いなる希望を見出そうではありませんか』
「当時の大統領の言葉は今でも鮮明に覚えています。あの言葉がなかったら、今頃私は職を辞していたことでしょう」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会 エーデル・ヨーロフ
こうして、ここに一つの問題が解決したことになります。
さて、研究策定チームは一歩前進することになりました。以降、さまざまな実験や研究に関するものを考えていくことになります。
「この研究策定で大事なことは、現実的な研究がどれだけできるかという点です。いろいろな実験や研究をさせようと思っても、うまくいきません。途中休憩をはさむなどしていかなければ、どこかで計画が破綻することになりますから」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会研究策定チーム トール・スカディウム
このようにして、研究内容は次第に決定されていきます。
そして計画が完成に至りました。
「問題はここからです。ここからどれだけタイムスケジュールを確定させることができるかにかかっています」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会 エーデル・ヨーロフ
まずは火星に向かうためのロケットや、実験装置などの製造を行う必要がありました。
建造は順調に進み、各種実験機器も製造されていきます。
これと並行して、火星に行く宇宙飛行士の選定も行われていきます。
「宇宙飛行士は、この時はかなり数の多いものでした。そこから3年もの長い間、狭い居住区にて生活できる人員を探しました。主に軍人を対象にしましたが、それでもかなりの数が絞れました」
――宇宙開発省宇宙探査部実行委員会 エーデル・ヨーロフ
こうして、必要なものは揃いました。
あとは実行に移すだけです。
「ここまで1年と4か月です。長いようで短かったですね」
そして目的の時間に、ロケットは発射されました。
これから、長い宇宙の旅と火星でのミッションが待っています。
アンサー!:科学技術の進歩と解答 紫 和春 @purple45
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