286 どちらと読み合わせをしたほうがいいかは、わかりきってるコト?


 刃のように鋭いクレイユの声音に、だが、ヴェリアスは傷ついた風もなく、俺の顔をのぞきこむ。


「クレイユはあー言ってるケド、ハルちゃんはオレと読み合わせするほうがいいよね~?」


「いや、どう考えてもわたしと読み合わせしたほうがいいだろう? 脚本を見るに、クレインと、オディールのシーンのほうが、ロットバルトとオディールのシーンより、三十行も多かった。わたしと読み合わせたほうがいいに決まっている」


 数えたのかよっ! 暇人だなっ!


 っていうか、お前らの争いに俺を巻き込むんじゃねぇ――っ! いがみ合うんなら、二人だけで勝手にやってろ!


「そもそも、クレイユの言うとおりならさ、やっぱりオレと読み合わせしたほうがいいじゃん♪」


 ふふん♪ と自慢そうな顔つきでヴェリアスが胸を張る。


 が、俺を含め、全員が顔に「?」を浮かべ、わけがわからないという表情になる。

 なんでわからないのさと言いたげに、ヴェリアスが一同を見回した。


「だって、オレとのやりとりをハルちゃんが演技の参考にしてるなら、オレと過ごせば過ごすほど、ハルちゃんも参考にできる点が増えるってコトじゃん♪ となれば一緒に過ごさない手はないだろ?」


「……はい?」


 呆けた声を上げた俺を無視して、ヴェリアスがぱちんとウインクする。


「ハルちゃんのためなら、オレ、二十四時間密着生活だって応じちゃう♪ ね~っ、ハルちゃん、一緒に熱くて濃密な時間を過ごそうぜ♪」


「そんな時間、過ごすわけがないでしょうっ⁉」


 心のそこから思いっきりツッコむ。


 なんだよっ、二十四時間密着生活って! 学校どころか、家にまでついてくる気か⁉


 ヴェリアスとずっと一緒なんて……っ! ストレスで忍耐の緒が早々にぶち切れるに決まってるっ!


「ヴェリアス……。冗談にしても、限度があるとだろう」


 頭痛がする、と言わんばかりに、ため息混じりに額を押さえたリオンハルトに、悪びれる様子もなくヴェリアスが笑う。


「やっだなぁ~♪ じょーだんなんかじゃないぜ♪ オレは本気だよ、本気♪」


「ほう、そうか。なら、俺も本気でお前を排除する方法を考えないとな」


 ディオスがやけに座った目で、両手の指をばきばきと鳴らす。


「ディオス先輩! 僕も助太刀します!」

 エキューも気負った表情で告げる。


「助かる、エキュー。とりあえず、ヴェリアスを保健室から力づくで追い出して……」


 真面目な顔で相談を始めるディオスとエキューに、ヴェリアスの顔色が悪くなる。


「え……? 二人とも、本気で実力行使する気……?」


「もちろんだ」

「もちろんです!」


 ディオスとエキューが間髪入れずにきっぱりと頷く。


「もちろん、わたしもディオス先輩とエキューに助力します」


 クレイユも力強く宣言し、リオンハルトが困ったように微笑んだ。


「確かに、この状況ではわたしもディオス達の味方にならざるを得ないね」


「え……? 何この四面楚歌。ハルちゃぁん! オレの味方はハルちゃんだけだよ~っ!」


 すがりつこうとしてくるヴェリアスを、布団から手を出し、しっしと追い払う。


「何言ってるんですか! 私だってヴェリアス先輩の味方なんてしませんよ! ……っていうか、なんかまたくらくらしてきました……」


 ふぅ、と疲れ果てた吐息をこぼすと、目に見えてイケメンどもがあわてふためいた。


「そ、それは大変だ!? 保健の先生を呼んでこようか!?」


 と、ディオスが血相を変えて言えば、クレイユが、


「先にヴェリアス先輩を保健室から放り出すか?」

 と真剣な様子で尋ねてくる。


 ああうん、それはまあお願いしたいところではあるけど……。


 でも、それよりも。


「すみません。まだ本調子に戻ってないみたいで……。もう少し、休んでいてもいいでしょうか……?」


 あえて弱々しい声で告げると、イケメンどもが、こくこくこくっ! とそろって大きく頷いた。代表して、リオンハルトが穏やかに口を開く。


「もちろんだとも。まだ調子が戻っていないのに、押しかけてしまって申し訳なかったね。どうか、ゆっくり休んでくれ」


 続いて力強く頷いたのはディオスだ。


「ああ。ヴェリアスが余計なちょっかいを出してこないよう、俺達がしっかり見張っておくから、安心して休んでくれ」


「ハルちゃ~ん♪ ディオスはああ言ってるケド、ひとりが寂しかったら、オレがいつでも隣にきてあげるからね~♪」


「あ、ディオス先輩。やっぱり今すぐ叩き出してもらっていいですか?」


「よし任せておけ」

 ディオスの大きな手が、ヴェリアスの両肩をがっしり掴む。


「ディオス先輩! 僕も手伝います! ハルシエルちゃん、ゆっくり休んでいてね!」


「わたしも手伝いましょう。ハルシエル嬢、やはり疲れがたまっているんだろう。ヴェリアス先輩を保健室に近づけたりしないから、ゆっくり疲れを癒すといい」


 すぐさまディオスを手伝うエキューに続き、クレイユもヴェリアスの腕に自分の腕を回し、ずるずると引っ張っていく。


「ハルちゃぁ~んっ!」


 とヴェリアスが情けない声を上げてるが、知ったことか!


「ではね、ハルシエル嬢。もし、放課後まで休んでも、体調が回復しないようなら、今日の生徒会は休んでくれてよいからね。きみの健康が一番なんだから」


 気遣いに満ちた笑みを浮かべて告げたリオンハルトが、力づくでヴェリアスを引っ張っていくディオス達に続いて、保健室を出ていく。


 ふ~っ、ようやく静かになったぜ……。


 午前中ゆっくり寝て、かなり回復した気がするけど、イケメンどもの襲来で疲れたし、もうちょっと休むことにしよう。


 それで、さっきのイゼリア嬢が出てきた夢の続きを見るんだ~っ!


 もちろん放課後には生徒会へ行くけどなっ! イゼリア嬢とお会いできる機会を逃すわけがないだろ――っ! そのためにも、いまは回復、回復!


 俺はいそいそともう一度、掛布団を頭まで引っ張り上げた。



~作者からのお知らせ~


 いつも「男なのに乙女ゲームのヒロインに~」をお読みいただきまして、誠にありがとうございます!(深々)


 現在、5日に1度の更新で連載しておりますが、私の力不足により、5日に1度の更新が難しくなってまいりました……。

 つきましては、次回の更新より、6日に1度の更新に変更させていただきます。


 これだけ連載しているのにまだ二学期の途中ですが(笑)、ちゃんと完結させる気はございますので!


 途中で休載となるよりも、スローペースですが定期連載を続けたいと思い、こうした形を取らせていただくことにいたしました。


どうぞ、これからも「男なのに乙女ゲームのヒロインに~」をどうかよろしくお願い申しあげます(ぺこり)


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