201 胸に渦巻く感動よ、少しでも伝われ……っ!
「あ、あのっ! その水着! 本当に素敵でいらっしゃいますね! イゼリア嬢のお肌の白さ、きめの細やかさがさらに際立ちます! デザインも、大人っぽいだけでなく、上品でパレオが優雅で……っ! 言葉で言い尽くせないほど素敵です!」
俺の胸に渦巻く感動よ、少しでも伝われ……っ!
身を乗り出し、熱意を込めて告げると、イゼリア嬢の視線が、ふいと逸らされた。
あれ!? 心の底から褒めたたえたんだけど、お気に召さなかった……っ!?
不安のあまり、身体が震えそうになる。
けど……。違う!
視線を逸らした後の揺れるまなざし。うっすらと赤く染まった頬!
照れてらっしゃる! イゼリア嬢が照れてらっしゃる――っ!
貴重なデレ、いただきました――っ!
クールなまなざしから一転、頬を赤らめてのデレ! 尊いっ! 破壊力がヤバイ!
しかも、微妙にもじもじしてるなんて、イゼリア嬢は俺の心臓を壊す気ですかっ!? 壊す気ですねっ!?
本望です! ありがとうございます!
「リ……、リオンハルト様がお褒めくださった言葉を繰り返したところで、わたくしに感心されるだなんて、思い上がらないことね!」
顔を赤く染めたまま、イゼリア嬢がぷいっとそっぽを向く。
きゃ――っ! デレてるのに、必死にツンに戻ろうとしている姿も可愛すぎます!
もうっ、どこまで俺を萌えさせる気ですか! ごちそうさまです!
「あなたも……」
「はいっ!」
そっぽを向いたままこぼされた言葉に、食いつくように身を乗り出す。と、驚いたようにイゼリア嬢が身を引いた。
しまった……。イゼリア嬢からお声かけいただいたのが嬉しすぎて、つい、がっついちまったぜ……。
「ええと……。何でしょうか?」
ひと呼吸して心を落ち着かせ、できるだけ穏やかに問い直すと、イゼリア嬢がそっぽを向いたまま口を開いた。
「さすがヴェリアス様のお見立てですわね。あなたの水着も素敵ですわ。よく似合ってらしてよ」
「あ、ありがとうございます……っ!」
イゼリア嬢に褒めていただけるなんて……っ!
ヴェリアスとお買い物なんていう苦行を乗り越えた甲斐があった……っ! 今なら、ちょっとだけヴェリアスに感謝してやらないこともないぜ!
「イゼリア嬢にお褒めいただけるなんて、嬉しいです……っ! もちろん、イゼリア嬢のお美しさには、到底かないませんけれども……っ」
「当たり前でしょう? あなたがわたくしに勝とうだなんて、ねずみがライオンに勝とうとするようなものですわ!」
「はいっ、おっしゃる通りです!」
つん、と鼻を上げて断言するイゼリア嬢に、間髪入れず追従する。
「私などがイゼリア嬢より優れているなんて……。そんなおこがましいこと、考えたこともありません! 私にとって、イゼリア嬢はいつだって憧れの方ですから!」
きゃ――っ! 言っちゃった!
イゼリア嬢ご本人に、「憧れの方」ってはっきり言っちゃったぜ――っ!
まるで、告白したかのように、どきどきと胸が高鳴る。
恥ずかしさでイゼリア嬢の顔をまともに見られない。
「ひとつ、言っておきますけれど」
苛立ち混じりの氷みたいな声に、はっと我に返る。
「憧れたところで、あなたのような庶民がわたくしのようになれるだなんて、思わないでいただきたいわ。
俺をにらみつける氷の刃のようなまなざしに、鼓動が跳ねる。
きゃ――っ! 「自惚れないでくださる?」いただきました――っ!
『キラ☆恋』で何度となくイゼリア嬢がハルシエルにぶつけていた言葉のひとつ。『キラ☆恋』そのままの冷ややかな瞳で、しかも超レアな水着姿のイゼリア嬢から言っていただけるなんて……っ!
ああっ! 俺、ハルシエルに転生してよかったと、いま心の底から喜びが湧き上がってます……っ!
感動のあまり、涙があふれそう……っ!
思わず右手で目元を押さえると、イゼリア嬢の目がさらに細まった。
「なあに? 泣いてリオンハルト様達の同情でも誘うつもりですの?」
「ち、違います! あのっ、これは……っ。その、汗が! 汗が目に入りそうだったので!」
我ながら苦し言い訳だと思いつつ、ぶんぶんぶんとかぶりを振る。
『キラ☆恋』と同じセリフを言っていただけたのは嬉しいけど……。でも、それって、イゼリア嬢の好感度は本編のハルシエルに対するのと同じく低いってことだよなっ!?
それは困る! イゼリア嬢、お願いですから誤解しないでくださいっ! 俺は、少しでもお近づきになりたいだけなんです~っ!
「私のような庶民オブ庶民が高貴で優雅で地上に舞い降りた天使のごときイゼリア嬢のようになれるだなんて、まったく! 全然! これっぽちも思っておりませんっ! ですが、人が夜空の月を仰ぎ見て、美しいと思わざるをえないように、素晴らしい人物には、尊敬と崇拝と憧れの気持ちを自然と抱いてしまうもの……っ! そして、叶うなら、その素晴らしさを少しでもそばで感じたいと……っ!」
俺はイゼリア嬢のアイスブルーの瞳を真っ直ぐ見つめ、熱意をこめて告げる。
「私などがイゼリア嬢のようになりたいだなんて、おこがましすぎると承知しております! なれるとも思っておりません! ですが……っ。せめて、イゼリア嬢のおそばで、その素晴らしさをたたえることをお許しくださいませんか……?」
俺がイゼリア嬢を目指すなんてとんでもない! ダックスフントがペガサスになりたいと願うようなものだ。
イゼリア嬢は唯一無二の至高の存在!
俺はただ、イゼリア嬢のおそばで、全身全霊でその神々しさを堪能したいだけなんです……っ!
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