189 バスの中でのお楽しみ♪


 リオンハルトの手に白魚のような指先を重ねたイゼリア嬢が、瞳を輝かせてリオンハルトを見上げる。


「わたくし、本当に今日を楽しみにしていましたの。その……。リオンハルト様のお隣に座らせていただいてもよろしいでしょうか?」


「ああ、もちろんかまわないが……」


 よし! じゃあディオス、ひとつずれてそこ代わ――、


「じゃあ、ハルちゃんはオレの隣に来る?」


 ヴェリアスが楽しげに笑って、自分のソファーの隣をぽんぽんと叩く。ちょうどヴェリアスと姉貴の間だ。


「いえ、私はイゼリア嬢の隣が……」


「えーっ! それっでディオスがオレの隣に来るってこと? ガタイのいいディオスが来たら狭いじゃん! だからハルちゃんがおいでよ♪」


 ヴェリアスが唇をとがらせる。


 おい待て! 三、四人でも悠々と座れる高級ソファーなんだから、狭いわけないだろっ!? さらっと嘘をつくなっ!


「じゃあ、ハルシエルちゃんは僕たちのソファーへおいでよ! 僕とクレイユのほうが、ヴェリアス先輩達より小柄だから、ゆったり座れるよ?」


「エキューの言う通りだ。ひとつのソファーに女性二人が座るより、バランスがいいだろう」


 クレイユも真面目くさった顔つきで、うんうんと同意する。


 何だよっ、バランスって! そんなの関係ないだろ――っ!?


 反論を考えている間に、イゼリア嬢がリオンハルトとディオスの間に座ってしまう。


 ああ……っ! イゼリア嬢のお隣が――っ!


 仕方なく、エキューとクレイユの間に座る。ヴェリアスと姉貴の間よりは、こっちのほうがまだしも安全そうだし。


 同じ方向に座席が並んでいる観光バスと違って、テーブルを三つのソファーが囲んでる形だから、ここからでもイゼリア嬢の麗しのお姿をばっちり拝見できるし……。


 まだ旅行は始まったばかり。ここで我を通してイゼリア嬢に呆れられたりしたら、本末転倒だしな。


「理事長の別荘まではどのくらいかかるんですか?」


 旅行の日程については、「当日のお楽しみ」と言われ、ざっくりしか聞いていない。


 姉貴に尋ねると、

「海の側の別荘地まで行くから、二時間ほどかな」

 と返事がきた。


「けれど、ただ、二時間バスに揺られているのも暇だろう? というわけで……」


 にこにこと笑う姉貴に、シノさんがカラフルな箱を差し出す。


「別荘に着くまでの間、みんなでボードゲームでもして遊ばないかい?」

 姉貴が満面の笑みで箱をテーブルに置く。


「四人対四人の協力対戦タイプのカードゲームでね。わたしも入れば八人だから、ちょうどいいだろう?」


「わぁっ、楽しそうですね!」

 エキューが明るい声を上げる。


「ボードゲーム……?」


 藤川陽だったころ、テレビゲームならやったことがあるけど……。ボードゲームというのは、経験がない。カードゲームということは、トランプみたいにこの箱の中にカードが入っているってことなんだろうか……?


「ハルシエル嬢はボードゲームで遊んだことがないのか?」

 俺の様子を見たクレイユが首を傾げる。


「ええ……」


「心配しないでいい。わからないことがあったら、わたしがアドバイスしよう」

 クレイユが自信ありげに請け負う。


「四人対四人ということは、チーム分けはどうするんですの?」


 イゼリア嬢が姉貴に尋ねる。

 わくわくしている様子が超可愛いですっ!


「あっ! 一年生対上級生プラス理事長というのはどうですか!?」


 ここぞとばかりに提案する。


 どんなゲームかわからないけど、叶うならイゼリア嬢と同じチームでプレイしたい!


「え~、その組み合わせで大丈夫~? ハルちゃん、オレと組みなよ♪ オレがハルちゃんを勝利に導いてあげるからさ♪」


 ヴェリアスが余計な口を挟んでくる。


「ヴェリアス先輩と組まなくても大丈夫です。ハルシエル嬢にはわたしがついていますから」


 俺が反論するより早く、眼鏡のブリッジを指でくいと押し上げ、冷ややかに応じたのはクレイユだ。


「そうです! 僕だって頑張りますし!」


 エキューがすかさず加勢する。

 おおっ! いいぞ、クレイユにエキュー!


「いや、どう分けるか決める前に、先に確認しておくべきことがあるだろう?」

 ディオスが穏やかに割って入る。


「このゲームを遊んだ経験がある者は?」


 ディオスの問いに、俺とイゼリア嬢以外の全員が手を上げる。


「未プレイはハルシエルとイゼリア嬢か……。なら、二人は別の組にしたほうがいいだろうな」


 そ、そんな……っ! イゼリア嬢と同じチームになれないなんて……っ! ディオスの言うことはもっともだと思うけど、でも……っ!


「では、体育祭の時の組み合わせではどうだい? 理事長には、星組に入ってもらうということで。確か、このゲームは一回のプレイ時間もそれほど長くないだろう? 二回戦をする時に、またチーム分けを考えるのはどうかな?」


 リオンハルトの提案に、「そういうことなら……」とイケメンどもがしぶしぶ頷く。


「で、結局、どんなゲームなんですか?」


 俺の問いに、頷いたリオンハルトが、


「ハルシエル嬢とイゼリア嬢のために、簡単に一度やってみたほうがいいだろうね。理事長、開けてもよろしいですか?」


 と姉貴に許可を取って、箱を開ける。

 中には、何枚ものカードと得点を表すトークンが入っていた。


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