185 もう何でも、ヴェリアス先輩の好きでいいです
「つ、疲れた……っ!」
なんで女の子の身に着ける物って、あんなにいっぱいあるんだよっ!?
服だけじゃなく、鞄に靴に、果ては靴下とか髪飾りとか……っ! 選んでも選んでも終わらねぇ……っ!
車に乗り込むなり、俺はくたっと行儀悪く後部座席に倒れこんだ。
ヴェリアスと買い物をしたのは一時間半くらいだったけど……。数時間マラソンをしたかのように疲れた……。
最後のほうは、
「もう、何でもヴェリアス先輩の好きでいいです……」
と丸投げしたくらいだ。
「えぇっ!? ヴェリアス先輩が好き……!? ハルちゃんっ、今の言葉、もう一回!」
「へ? だから、ヴェリアス先輩の好きで、って……」
「ああっ、オレ、今日が人生最高の記念日かも……っ! ハルちゃんがオレのことを好きって言ってくれるなんてさ♪」
「はいっ!? 何を寝ぼけたことを言ってるんですか!? ヴェリアス先輩も暑さと疲れで頭がやられちゃいましたか!?」
なんて、ツッコミまくったせいで、余計に疲れた……。
下着売り場にまでついてこようとしたんで、さすがにそれは、
「もしついてきたりしたら、ヴェリアス先輩のこと、最低破廉恥男として軽蔑しますからね!」
って、全力で断ったけど。
隙あらば手をつないでこようとしたり、甘い言葉を吐いてこようとするのはうざかったが、
「あれ、ハルちゃんに似合うんじゃない?」
「オレとしては、こっちかこっちがいいよ思うんだけど、どっちがハルちゃんの好み?」
「このズボンなら、着回しができて便利だと思うよ? こっちのカットソーと組み合わせたらシンプルな感じだし、こっちのシャツと組み合わせたらちょっとよそ行きな綺麗系にもなるし……」
と、あれこれ
もし、俺一人だったら、何倍もの時間がかかっていただろう。
いや、山のような商品を前に途方に暮れて、何も買わずに帰っていた可能性が高いかも……。
そのただ一点だけに関しては、ヴェリアスにちょっとだけ、ほんとちょっとだけだけど、感謝してやらないこともない。
まあ、うざさと差し引きして、プラスマイナスゼロだけどなっ!
買い物している時のヴェリアスは、ほんとびっくりするくらい上機嫌だった。
あんなにずっとににこにこしているヴェリアスは、初めて見た。
よっぽど買い物が好きなんだろう。もともとお洒落だから、選ぶのが女物であっても、テンションが上がっていたのかもしれない。
俺のほうは早々にぐったりしていたのに……。
見かねたヴェリアスが、途中、
「喫茶店に入っておいしくて冷たいスイーツでも食べて休憩する?」
と提案してくれたが、もちろん断った。
冷たいスイーツにはちょっと
が、少しは休むべきだったかもしれない……。
行儀も何もかもほっぽりだして、後部座席に寝転がりながら、軽く後悔する。
結局、下着売り場までのぞく元気はなくて、シノさんにお任せすることになっちゃったし。
いやまあ……。ハルシエルの身体になったとはいえ、女性用の下着売り場に入るのは、精神的にちょっと……。いや、正直かなり負担になるから、遠慮したかったのは確かなんだけど……。
ほんと、今日は疲れた。もう、帰っても何もする気が起きねぇ……。
ロイウェルの勉強を見てあげられなかったのは悪いことをしたけど、今日は帰ったらさっさとお風呂に入って、ベッドにダイブしよう……。
「旅行に必要なものも買えましたし、帰ったら、さっそく荷造りをしなくてはなりませんね」
ぐったりしている俺とは正反対のうきうきした声で運転席のシノさんが告げる。
きっと、あふれるほどの萌えを摂取して、つやっつやなんだろう。
俺とヴェリアスの買い物なんかのどこに萌えポイントがあったのか、俺にはまったく理解不可能だけど。
っていうか。
「今日はもう、荷造りまでする元気はないです……」
力ない俺の返答に、シノさんが「あら」と困ったような声を上げる。
「それは大変でございますね。旅行前に体調を崩しては大変でございます。ハルシエル様がお許しくださるのでしたら、わたくしが荷造りをしておきましょうか? ほぼ、今日買ったものを旅行鞄に入れるだけでございますし」
「え、いいんですか? それは助かりま……す……」
疲れた身体に伝わる車のかすかな振動が心地よい。
ぼんやりと答えながら、いつしか俺は夢の中へと落ちていた……。
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