182 全世界の非モテ男子に呪われろ……っ!
「でさ、まずはハルちゃんの好みを確認しておくけど、どんなのがいいな~、とかあるワケ? 色でも形でも、どんなことでもいいからさ♪」
「とりあえず、どんなのがあるか、売り場をざっと回ろうか」と二人で売り場を回り始めてすぐ、ヴェリアスが尋ねてきた。
ちらっと振り向くと、すでにシノさんは気配も察知させずにいなくなっている。
シノさんめ……っ!
どうせ、どこかに忍んでいるんだろうけど、本気で俺とヴェリアスの二人だけで買い物をさせる気だな……っ!?
お願いだから、その卓越した忍びの才能を腐妄想以外の別のところで使って!?
こうなりゃ、さっさと決めてさっさと別れるに限る! と、ヴェリアスの質問にはきはき答える。
「あんまり女の子女の子した可愛いデザインじゃないのがいいです。色もピンクとかじゃなくて、ブルー系とかグリーン系が好みです」
「なるほど~♪ ハルちゃん、今日の服だって、ブルー系でシンプルにまとめてるもんね♪ へぇ~、そういうのがハルちゃんの好みってワケか~」
隣を歩くヴェリアスが、俺の全身をさっと見る。
今日の俺の格好は、白いデニムに水色のカットソーという平凡極まりない格好だ。シンプルと評するなんて、ほんと物は言いようだよな。
長い金の髪は暑いのでポニーテールにしている。
正直、夏場は長い髪がうっとうしいんだが、前に一度、毎朝髪を結ってくれるマーサさんに、髪を短くしようか迷っていると伝えたところ、
「こんなに見事な
と本気で泣きそうな顔で反対されたので、諦めた。毎日、おいしいご飯を作ってくれるマーサさんには逆らえない。
「でも、水着選びにつきあってくださるなんて……。ヴェリアス先輩って、女の子の水着にくわしいんですか? まあ確かに、先輩って、女の子の買い物とか、気軽につきあってそうなイメージですけど……」
「え、ナニナニ? もしかして、ハルちゃん嫉妬してくれてるの? かっわい~♪」
機嫌よさそうに隣を歩いていたヴェリアスが、妙に嬉しそうに聞いてくる。
「はい? どうして私がヴェリアス先輩に嫉妬する必要があるんですか? 私、買い物は一人でさっさと済ませたいタイプですし、わざわざついてくるということは、水着選びの経験が豊富なのかな、って思っただけです」
もし、イゼリア嬢とお買い物ができるんだったら、何店舗でも何時間でもおつきあいするけどなっ!
「えっ? なんで嫉妬するのが相手の女の子じゃなくてオレなのさ!?」
ぶはっ、と吹き出したヴェリアスが、
「いや、オレ休日は基本、女の子と会ったりしないよ」
と、あっさりかぶりを振る。
「学園にいる時はあっちから寄ってくるから相手するケドさ。休みの日までつき合うのは面倒じゃん?」
面倒っ!? 面倒って言いやがった、コイツ……! 全世界の非モテ男子に呪われろ……っ!
いやでも、これはチャンスかも!
「そういうことでしたら、本当に私ひとりで大丈夫ですよ? ヴェリアス先輩にご面倒をかけるのは心苦しいですし……」
ヴェリアスのほうから断らせれば、シノさんも納得するハズ!
眉を寄せ、すこぶる申し訳なさそうな表情を作って告げる。
ほらっ、断る理由は作ってやったぞ! 後は「あ、そう? ハルちゃんがそう言うんなら、やっぱ帰らせてもらおっかな」って――、
「やっだな~! ハルちゃんとの買い物が面倒なワケないじゃん!」
「へ?」
予想と百八十度違う答えに、思わず間抜けな声が出る。
「そもそも、面倒だと思うなら、見かけた時にスルーするし、買い物につき合おうなんて申し出ないって!」
ヴェリアスがやけに熱心に言い募る。
いやまあ、言ってることはもっともだけどさ。さっきお前、面倒って……。
「でも」
不意に、ヴェリアスが嬉しくてたまらないと言いたげに、甘く微笑む。
「いつもすげないハルちゃんが、迷惑じゃないかってオレのことを気遣ってくれるなんて……。かなり本気で嬉しいかも♪」
とろけるような笑みを浮かべたヴェリアスが、不意にきゅっと俺の手を握る。
「っ!?」
いつもふざけたことしか言わないヴェリアスが発したとは思えない、
甘い微笑みに、ぱくんっ、と心臓が大きく跳ねる。
違うからっ! さっきのはヴェリアスを気遣ったんじゃなくて、さっさと帰ろうって画策しただけだからっ!
変な誤解をするんじゃねぇ――っ!
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