183 ヴェリアス先輩の破廉恥っ!
赤くなっているだろう顔を見られなくなくて、ヴェリアスに掴まれた手を引き抜きながら、ふいと視線を逸らし――。
「あっ!」
ふと目に入った一体のマネキンに駆け寄る。
「これ……! こんな感じの水着がいいです!」
「へ~。タンキニかぁ。ハルちゃん、ほんと見た目と違って、ボーイッシュな感じが好みなんだ♪」
「たんきに?」
短気に? いや、短気はもう、うちの姉貴だけで十分間に合ってるんで……。
きょとんとおうむ返しに呟いた俺に、ヴェリアスが苦笑して説明してくれる。
「タンクトップビキニの略だよ」
「へー、そうなんですか」
頷きながらマネキンが来ている水着を観察する。
あ、ほんとだ。言われてみれば、上下が分かれてるんだ、これ。
それよりも、俺の心をとらえたのは、水着のボトムがショートパンツになっている点だった。
タンキニという名前の通り、上はタンクトップで、正直、あまり女の子向けの水着っぽく見えない。
そう! こういうのを探してたんだよ!
女の子用の水着っていうと、布地が少ないビキニとか、フリルいっぱいのワンピースっていうイメージだったけど、こういう露出が少なめのスポーティなのもあったんだ!
「じゃあ、タンキニの中から探してみる?」
「はい!」
ヴェリアスの提案に大きく頷く。
マネキンが来ているのは、濃い赤の地に、原色で夏らしい大判の花柄が描かれているものなので、さすがにこの柄はご遠慮したい。
「あっ、これなんかどう? タンキニだけど可愛いよ♪」
ハンガーに何着もかかっている水着の中から、ヴェリアスが一着を取り出す。
「あれ……? 何かこの水着、形が変じゃありません……?」
青地に白い水玉模様の水着は、胸元がたっぷりしたフリルになっているけど……。マネキンが着ているタンキニとは、妙に形が違う。
ヴェリアスが苦笑して、ハンガーごと水着を軽く俺の身体に押し当てた。
「オフショルダーだよ。肩を出すデザインになってるんだ。ハルちゃん、全体的に
「肩を出すのはなんかちょっと……」
ズレ落ちないようにだろう。いちおう細い肩ひもがついているけど、頼りない感じがする。
俺が求めているのは、イケメンどもに対する防御力と、イゼリア嬢の引き立て役として、隣に並ぶにふさわしい水着だ。
可愛いもの好きのイゼリア嬢は、きっと女の子らしい水着を選ぶだろうから、スポーティなタンキニは、うってつけなんだけど……。ホットパンツなら、ふつうのビキニのボトムより、着るのにも抵抗がないし。
「これなんてどうですか?」
俺が手に取ったのは、白いタンクトップに、ボトムはデニム調のプリントがされたタンキニだ。遠目から見ると、水着じゃなくて、ふつうの服のように見えるだろう。
「うーん。白はなぁ……。ハルちゃんなら、何を着たって可愛いけどさ……」
そう言いつつも、ヴェリアスは渋い顔だ。
「気をつけないと、白って透けたりするらしいよ? 大丈夫?」
「っ!? やめておきます!」
ヴェリアスの指摘に、あわてて水着をポールに戻す。
ってゆーかヴェリアス! なんでそんなの知ってるんだよ!?
「それに、オレとしては、ハルちゃんは胸元にフリルがあるほうが、似合うと思うんだよね~。ボリュームだって出るし……」
「ちょっ!? ドコ見て言ってるんですかっ!?」
思わず両腕で自分の身体を抱きしめる。
同性になったとはいえ、他の女の子の胸元なんて、体育の着替えの時でも、まじまじと見たことはないけど……。
ハルシエルのバストは、同年代の女子と比べて、ささやかなほうだと思う。多分。
まあ、転生したハルシエルの身体が下手に巨乳だったりしたら、今よりももっと複雑な気持ちになっていただろうから、俺としては別に不満も何もないんだけど。
何より、イゼリア嬢もハルシエルと同じく、ささやかなお胸だしなっ!
いやっ、イゼリア嬢のお胸は微乳じゃなくて美乳と
でも、自分でささやかだと思っているのと、他人に、しかも男子に指摘されるのはまったくの別物だ。
「ヴェリアス先輩の
「えっ!? ちょっ、ちょっと待って!? ごめんっ、ハルちゃんに不快な思いをさせる気は……っ! ほんとごめんっ! 大丈夫! オレ、別に巨乳派ってわけでもないし……っ!」
ヴェリアスが本気であわてた様子で弁解する。
これほどうろたえるヴェリアスを見たのは初めてだ。
いや、それよりも!
なんだと……っ!? ヴェリアスは巨乳派じゃなくて、ちっぱい派!? ということは……っ!?
ヴェリアス! お前、もしかしてイゼリア嬢の水着を見て萌える気か――っ!?
イゼリア嬢を讃えたい気持ちは十二分に共感するけど、許さんぞ、それは! イゼリア嬢に
「ごめん、ハルちゃん……」
俺が怒りに満ちた目でヴェリアスを睨み続けていたからだろうか。
雨に濡れそぼった犬みたいに、しゅんと肩を落として、ヴェリアスが謝罪する。
うなだれた面輪は、いつも
「デリカシーのない言動をして、オレ、ハルちゃんに嫌われちゃった……?」
捨てられた子犬みたいな不安げな光が、紅い瞳に宿る。
く、くそうっ。エキューじゃないくせに、その表情は卑怯だぞ!?
ま、まあ、同じ男として、無意識に女子の胸元に視線を走らせてしまう気持ちはわからなくもない。俺だって、シノさんのたわわな胸元には思わず視線が吸い寄せられちゃうし。
外見がハルシエルじゃなかったら、とっくの昔にシノさんに
それはそれで、ちょっとどきどきしちゃいそうだけど。
い、いやっ! 俺の至高はあくまでもイゼリア嬢だけどなっ!?
さっきは思わず過敏に反応しちゃったけど、男として気持ちはわかるだけに、怒り続けるのも難しい。
「……ヴェリアス先輩にデリカシーが欠けてるのはいつものことですもんね。そもそも、ふだんからヴェリアス先輩にプラスの気持ちを抱いてませんから、いまさら、これ以上マイナスにはなりませんよ」
真正面から「怒っていない」というのはなんだか
「ハルちゃん……っ!」
突然、ぐいっと腕を引かれて抱きしめられた。
「ありがとう……っ! オレ、すごい嬉しい……っ! やっぱりハルちゃんは優しいよねっ♪」
「ちょっと! なんでいちいち抱きつくんですか!? 放してくださいっ!」
おーまーえーは――っ!
くそっ、こんなことなら許すんじゃなかったよっ! ええいっ、今すぐ離れろっ!
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