154 で、この箱は、いったい何なんですか?
ランウェルさんとマルティナさんが、期待に満ちあふれたまなざしで俺を注視しているのを自覚しつつ、シノさんに告げる。
「あの……。せっかくのお誘いなんですけれども、やっぱり私なんかが王宮にうかがうのは恐れ多いといいますか……」
シノさんがクールに微笑む。瞳の奥に、冷ややかな圧をたたえて。
「ご安心ください。ハルシエル様が緊張しないようにと、理事長のエル様もいらっしゃってサポートするとおっしゃっております。本日、わたくしが配達人としてまいりましたのも、ハルシエル様が無用な遠慮をなさらぬようにというエル様のお心遣いからでございます。ご不安に思われることは何もございません」
逆だよっ! 腐れ姉貴がいるから、余計に行きたくないんだよっ! 俺がイケメンどもに囲まれてるのを見て、萌える気満々だろーが、あの腐れ大魔王はっ!
ああっ、でも、クールメイドさんに冷たく圧をかけられるのって、ちょっといいかも……っ! なんか、ぞくきゅんってくる……っ!
って、そんな場合じゃなくて!
なかなか招待状を受け取ろうとしない俺に、シノさんが不意に柔らかく微笑む。
「こちらに参る前に、ゴルヴェント家にも参って、イゼリア様にも招待状をお渡ししてきたのです――」
「えっ!? イゼリア嬢に会われたんですか!?」
シノさんが最後まで言うのを待たず、思わず食いつく。
いいなぁ~っ! 俺は夏休みに入ってから、一度も会えてないっていうのに……っ! そろそろ、イゼリア嬢欠乏症で不調になりそう……っ!
なんだかんだ言って、一緒に生徒会に入ってからは、週の半分はイゼリア嬢のご尊顔を拝めてたもんな。イケメンどもとも顔を合わせなきゃいけないのがアレだけど、やっぱり入ってよかったぜ、生徒会!
「それで!? イゼリア嬢はどんなご様子でしたか!? お元気でしたか!? 夏休み中だから私服だったんですよね!? きっと可憐だったでしょうねぇ~っ! ああっ、誘ってくださったら、私も一緒に行かせていただいたのに……っ!」
ううぅっ、一学期の間にイゼリア嬢とお友達になれていたら、夏休みだって、個人的に誘っておでかけできてたかもしれないのに……っ!
馬鹿! ほんと俺の馬鹿――っ!
二学期こそは、もっとイゼリア嬢と仲良くなってやる――っ!
イゼリア嬢成分に
ちょっ! シノさんの意地悪っ! じらしプレイは勘弁してください! クールメイドさんにじらされるなんて、なんか新しい扉が開いちゃいそうだから……っ!
俺の内心の叫びを知ってか知らずか、シノさんがにこやかに微笑む。
「イゼリア様はお元気そうでいらっしゃいましたよ。生徒会役員の皆様にお会いできないのを寂しがっていらっしゃいました」
「えっ!?」
きゅんっ、と胸が高鳴る。
生徒会メンバーってことは……。その中には俺も含まれてるってことでいいですよねっ!?
にこにこと微笑みながら、シノさんが封筒を差し出す。
「そして、皆様にお会いできるお茶会を、とても楽しみにしてらっしゃる、と」
「はいっ! いただきます! 喜んでお茶会に参加させていただきますっ!」
俺は恭しく招待状を受け取る。
イゼリア嬢が楽しみになさってるんなら、出席しないなんて選択肢、あるわけないだろ――っ!
けど……。
「で、シノさん。この箱は、いったい何なんですか?」
美しくラッピングされた箱は、パッと見、プレゼントにしか見えないけど……。
いやいやいや。ハルシエルの誕生日は三月だし、プレゼントを贈られる心当たりなんか、まったくない。
俺の問いかけに、シノさんは「招待状をお読みになればすぐにおわかりになります」と答えてくれなかった。
仕方なく、俺は招待状を開ける。
金で
折りたたまれた便箋を開くと、リオンハルトがつけている華やかなコロンの香りが、ふわりと漂う。
目を走らせると、ごくありふれた時候のあいさつに続き、王宮の内庭園の薔薇が見頃なので、生徒会のメンバーでお茶会をしようと、リオンハルトの流麗な直筆で書かれていた。
『咲き誇る薔薇の中で見るきみも愛らしいだろうね』……って、招待状の中にまで砂糖はいらねーよっ!
思わず心の中でツッコみながら次の一文を読んで。
「へっ!?」
俺はすっとんきょうな声を上げた。
『当日は、よければわたしが贈ったドレスを着てきてほしい。愛らしく着飾ったきみを会えるのを楽しみにしてるよ』
って、ええぇぇぇっ!? じゃあ、このデカイ箱は……っ!?
俺の表情を読んだシノさんが、すかさず続ける。
「ご安心ください。ドレスだけでなく、小物類もトータルコーディネイトですべてご用意しておりますから。ドレスをお選びになったのはリオンハルト様でございますが、首飾りはディオス様、髪飾りはヴェリアス様、バックはクレイユ様、靴はエキュー様からとなっております」
って、それってイケメンども全員からじゃねーかっ!
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