117 ちょっとだけ、妬けちゃうな。


「あ、ありがとう……。そ、それでね、私にとっては、そんなに大したことじゃなかったんだけど、真面目なクレイユ君は、私を泣かせちゃったのをすごく気に病んじゃったみたいで……」


 さりげなく一歩下がり、エキューの手から逃げつつ説明する。


「そのせいで勉強が手につかなかったみたいなの。それで、今回、順位が……」


 クレイユにつれていかれた木陰で、何があったのかは、あえて伏せる。


 うん、きっとあのクレイユは、三位になったショックでぶっ壊れてたんだ。絶対ぜったい、そうに決まってるっ!


「そっかぁ……」

 エキューが納得したような、同情したような、微妙な表情で頷く。


「クレイユも思わず意固地になっちゃったんだろうなぁ……。そのせいで、意図せず女の子を泣かせちゃったら……。気に病んじゃうよね」


「エキュー君もクレイユ君も、優しいのね。私だって意地になって言い返しちゃったんだから、気にしなくていいのに」


 女の子ならともなく、実は中身は男なんだし。


「そんなわけにはいかないよ!」

 俺の言葉に、エキューが間髪入れずにかぶりを振る。


「でも……。ハルシエルちゃんに、優しいって褒めてもらったのは嬉しいな」


 エキューが照れたようにはにかむ。


 ちょっ! 男とは思えないくらい可愛いなっ!

 思わず見惚れてしまいそうになる。俺は、ここぞとばかりにエキューに甘えてみることにした。


「それでね、エキュー君。ひとつお願いがあるんだけど……」


「なあに? ハルシエルちゃんのお願いだったら、僕、何でも聞いちゃうよ!」


 笑顔でエキューが即答する。

 さすがエキュー! ディオスにも負けない頼もしさだぜ!


「その、ね……。私はもう、言い争いをしたことなんて気にしていないから、クレイユ君もいつも通りに接してほしいって、エキュー君からクレイユ君に伝えてもらえないかしら……? ほら、今回のテストは、私の努力じゃなくて、クレイユ君の不調で単独一位を獲れたようなものだから……。私が直接言うと、クレイユ君のプライドを傷つけてしまいそうで……。でも、仲のいいエキュー君の言葉なら、クレイユ君も素直に聞いてくれると思うの!」


 次会った時も、昼休みの時みたいなクレイユだったりしたら……っ!

 クレイユが本格的に壊れるだなんて、怖い、怖すぎる! 頼むから、昼休みのアレは、三位に転落したショックで、一時的にとち狂っただけだと言ってくれ……っ!


「そんなことならお安い御用だよ!」

 俺の頼みに、エキューがあっさり笑顔で応じる。


「僕もクレイユのことは気になっていたから……。ハルシエルちゃんの気遣いは、ちゃんと伝えるよ! でも……」


「どうしたの?」

 難しい表情になったエキューに尋ねる。


 も、もしかして……。エキューとクレイユでずっと仲良くしてくれればってゆー、俺の身勝手な願いがバレたか!?


 俺の問いかけに、エキューがねたように唇をとがらせる。


「僕の勝手な思い込みだってわかってるんだけど……。なんだか、短いつきあいなのにハルちゃんがクレイユの性格をよくわかってるみたいで……。ちょっとだけ、けちゃうな」


「エキュー君……!」


 喜びに、思わず声が震える。


 そんな、そんな……っ。俺にやきもちを焼いてくれるなんて……っ!


 クレイユに一番近しいのは僕なんだからねっ! と主張したいその気持ち、もちろん諸手もろてを上げて尊重するぜ……!


「エキュー君、そんなこと言わないで。こんな風に頼れるのは、エキュー君だからだもの。エキュー君が、優しくて友達思いだって知っているから……。だから、ついこうして頼っちゃうの」


 そうだぞ、エキュー! クレイユのことはお前に任せたっ!


「ハルシエルちゃん……!」


 うっすらと頬を染めたエキューが、両手でぎゅっと俺の手を握りしめる。


「そんなに僕を頼りにしてくれてるなんて……! 拗ねてた自分が恥ずかしいや。僕、ハルシエルちゃんが喜んでくれるなら、何だってできる気がするよ! クレイユのことは僕に任せて!」


「ありがとう、エキュー君!」


 思わず俺からもエキューの手を握り返す。


 ほんっとエキューっていい奴だよな! クレイユにはもったいないくらいだぜ!

 俺、エキューとクレイユのことを心から応援してるからな! ぜひとも頑張ってくれ!

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