93 イゼリア嬢とお近づきになるために、詩集をゲットするんだ!


 放課後、HRが終わるなり、俺はすぐさま図書館へ向かった。


 今度こそ、今度こそ無事に図書館へ辿り着かせてくれっ!

 俺の願いが通じたのか、今回は誰に会うこともなく図書館に着く。


 ほんとは、イゼリア嬢と一緒に来たかったんだけどな……。


 仕事が速いクレイユは、午後一番の授業が終わった休み時間に、今日の放課後、さっそく勉強会を開催すると伝えに来てくれた。放課後、図書館の自習室の一つを借りられたのだという。


 俺が心の中でクレイユを褒めたたえたのは言うまでもない。図書館の自習室なら、前みたいにヴェリアス達に邪魔されることもないハズだしなっ!


 エキューはクレイユが見るだろうし、今度こそ、今度こそイゼリア嬢と一緒に、きゃっきゃうふふと勉強するんだ――っ!


 HRが終わった後、隣の一組を覗いたが、1組はまだHRが終わっていなかった。

 待って、イゼリア嬢と一緒に図書館へ行こうと思ったが、そうするともれなくエキューとクレイユもついてくる。


 そこで、一緒に行くことは諦め、昼間、クレイユとリオンハルトに邪魔されて探せなかった詩集を探そうと、一足先に図書館へ行くことにしたのだ。すぐに見つけることができれば、勉強会の前にゲットできるはずだ。だが。


「うわ……。思った以上にすげえ……」


 森の木々の如く建ち並ぶ本棚を見た瞬間、俺の心は思わずえそうになった。

 入学してから三か月が経つが、恥ずかしながら図書館へ来たのは今日が初めてだ。『キラ☆恋』でも図書館が背景として出てきてたけど、一部しか見えなかったしな……。


 外から見た時から、広い図書館だとは思っていたが、ここまでの蔵書量だったとは……。


「これは、この中からお目当ての一冊を探すのは、かなり大変そうだぞ……」


 だが、俺の選択肢に「諦める」なんて文字はない。


 イゼリア嬢と少しでもお近づきになるために、何としても同じ詩集を手に入れてみせるぜっ!


(図書館の本ってちゃんと分類されて並べられてるハズだよな。確か、入り口に案内板があったはず……)


 と、先ほど入ってきたばかりの入り口に戻ろうとして。


「もう来ていたのか。早いな」

 ちょうど、入ってきたクレイユと鉢合わせした。


「あれ? イゼリア嬢とエキュー君は……?」

 俺の問いに、クレイユが「ああ」と頷く。


「二人は生徒会室に少し用があるそうで、そちらに寄ってから来る。わたしは先に自習室の鍵を借りて開けておこうかと」


「そうなんですか。二人はすぐに来るんですか?」


 イゼリア嬢と過ごせる貴重な時間は、一秒たりとも無駄にはできない。すぐにイゼリア嬢が来るのなら、残念だけど詩集を探すのはまたの機会にしよう。


 そう考えていると、クレイユが細い眉を気遣わしげにひそめた。


「そういえば、昼休みに図書館に用があるといっていたな。もしかして、わたしが引きとめたせいで、用を済ませられなかったのか?」


「ええ、まあ……。その、リオンハルト先輩にも呼び止められたので、別にクレイユ君だけのせいというわけじゃありませんけど……」


「それは、すまなかった」

 クレイユが生真面目な表情で詫びる。


「それで、図書館にどんな用事が?」


「その、探している本があって……」

 クレイユに話していいものかどうか、一瞬悩む。


 だが、今はイゼリア嬢が来る前に詩集を手に入れたい。


 また図書館に来ようとしてイベントを起こすなんて、真っ平御免だしな! それに、クレイユなら館内にもくわしそうだし。


「どんな本だ? 謝罪に探すのを手伝おう」

 借りを作るのが嫌いなクレイユらしい申し出に、素直に甘えることにする。


「『ラ・ロマイエル恋愛詩集』って本なんですけれど……」


 告げた瞬間、クレイユの切れ長の目が、不機嫌そうに細くなる。


「恋愛詩集? 期末テスト前に探しているから参考書かと思えば……。何の役にも立たぬ甘ったるい恋愛詩集だなど。真面目に勉強せずとも一位を獲ることなど余裕だと、わたしを馬鹿にしているのか!?」


 は? そこ地雷っ!?


 馬鹿になんかしてねーよっ! そもそも、お前なんか眼中にないっての! 俺はイゼリア嬢に認めてもらうために毎回一位を目指してるんだよっ!


 ていうか……。


 イゼリア嬢が読んでいた本を馬鹿にするなんて、喧嘩売ってんのかっ!?

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