54 責任を取って、オレの言いなりになってくれる?
「お疲れ様でした。失礼しますね」
「あ、ハルちゃん。ちょっと待ってくれる?」
ぺこりと一礼して、応援合戦の練習をしていた四階の空き教室を出ようとした俺は、ヴェリアスに呼び止められた。
体育祭はもう来週に迫っている。生徒会で行う準備はほぼ終わっており、最近、放課後は星組、花組とわかれて応援合戦の練習をする日々だ。
ほんと、イゼリア嬢と同じ組になれなかったのが悔やまれる……!
ちなみに、応援合戦の寸劇では、最初「座っているだけのお姫様役でいい」と言われていた俺だが、
「やっぱり、もうちょっと動きがある方が舞台映えするんだよね~♪ ハルちゃん、MVP獲りたいんでしょ? もうちょっと頑張ってみる気、ない?」
とヴェリアスに言われ、渡りに船なので引き受けた。ヴェリアスはこういうところはほんと人を動かすのがうまい。
ディオスとエキューは先に教室を出ているので、残っているのは俺とヴェリアスの二人だけだ。
「なんでしょうか?」
しまった。ディオス達と一緒に教室を出ておけばよかったと悔やみながら、ヴェリアスを振り返る。
応援合戦の寸劇の練習が始まってからというもの、ヴェリアスも大人しく練習していたから、油断したぜ。
ハードル走の練習も、俺とストップウォッチ係のシノさんの二人きりでしているし、最近は珍しく平穏に過ごせてると思っていたのに……。
「そんなに警戒しなくていーじゃん。応援合戦の練習、明日からは衣装を着ての練習になるだろ? それで、使う髪飾りはどっちがいいのか、ハルちゃんの意見を聞きたくてさ」
ヴェリアスが苦笑しつつ、そばの机に置いてあった紙袋から小箱を二つ取り出す。
ちなみに俺もヴェリアスも寸劇の練習をしていたので、今はトレーニングウェアだ。俺はこの後、一人でハードル走の練習をする予定なので、ちょうどいい。
「オレが選んで、この二つまで絞ったんだけど、甲乙つけがたくてさ〜♪ 実際にハルちゃんにつけてもらって意見を聞いたほうがいいかなって思ってさ♪」
言いながらヴェリアスが小箱から取り出したのは、宝石があしらわれた銀の髪飾りだ。
俺は思わず後ずさる。
「それっ、本物の宝石ですか!?」
「へっ? 当たり前じゃん。ハルちゃんの髪を飾るのに、偽物なんか使えるワケないじゃん」
あっさりとヴェリアスが頷くが……。いやいやいやっ! 高校の応援合戦だろっ!?
あしらわれた宝石の数といい、大きさといい、どー見てもそれ数十万円、下手したら百万円を超えるよなっ!?
「けっ、結構です! そんな高価な髪飾り……っ! 恐ろしくてつけられませんっ!」
ぷるぷると震えながら辞退すると、ヴェリアスがぷっ、と吹き出した。
「別に貸すだけなんだからそんなに怯えなくったっていーじゃん♪ 応援合戦の間だけしかつけないんだし、失くしたり壊れたりするような事態が起こったりなんかしないって」
「で、でも、万が一の事態が起こったら、責任なんて取れませんっ!」
ぶんぶんとかぶりを振ると、ヴェリアスが何やら考え込む表情をした後、不意にぽんっと両手を合わせた。
「なるほど♪ つまり、もし髪飾りに何かあったらハルちゃんが責任を取って、オレの言いなりになってくれる、と……」
にやり、と唇を吊り上げた笑顔は、悪魔の笑みにしか見えない。
ぎゃ――っ! 悪魔がっ! 姉貴以外にも悪魔がいやがった!
逃げようと身をひるがえした途端、はっしと腕を掴まれた。
「きゃ……っ!」
よろめいた身体が、とす、とヴェリアスに抱き止められる。
「ハルちゃんってば。急に走り出したら危ないよ♪」
俺を背中から抱きしめたヴェリアスの声が、驚くほど近くで聞こえる。
「ひゃっ」
「放してくださいっ!」
「え〜っ、どうしよっかな〜♪」
ヴェリアスの腕の中から逃れようと身をよじるが、ヴェリアスは楽しげに笑って、ますます腕に力を込めてくる。
「大声を出しますよっ!」
「じゃあ、声を出せないようにふさいじゃおっか♪」
ヴェリアスの指先が
「っ!」
呼気が頬を
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