38 そろそろ勉強会を開けそう?
「ありがとう……! じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「もちろん!」
「どうしたんだ?」
俺が大きく頷いたところで、ディオスがこちらへやってくる。
「エキューくんの手伝いをさせてもらおうと、お願いしていたんです」
俺の返答にディオスが頷く。
「そうだな。俺も手伝おう。エキュー、お前が頑張ってくれているのは知っている。……が、一人で無理はするなよ。大変な時はいつでも頼ってくれたらいいんだぞ?」
見る者を安心させるような笑みを浮かべたディオスが、ぽんぽんとエキューの頭を
「ディオス先輩、ありがとうございます!」
と嬉しそうに礼を言うエキューとは、まるで仲の良い兄弟みたいだ。
ふと嫌な予感を覚えて、俺はきょろきょろと辺りを見回す。
(今の……。姉貴が見ていたら、「ぐぇっへっへっへ……! 尊い! 尊すぎるわっ! 包容力満タンのディオスと、愛され癒しキャラのエキューの組み合わせ……! いやっ、ここはあえて逆転の発想で、さっきの強気エキューと恋愛に慣れていない戸惑いディオスの組み合わせっていうのも……っ! ああっ、たまんない……っ!」とか言いそうだよな……)
どこかでシノさんがビデオカメラを構えてるんじゃないかと危惧したが、ざっと見回したところ、幸いシノさんの姿は見当たらない。
安堵の吐息を吐き出すと、「どうした?」とディオスに不思議そうに尋ねられた。
「あ、いえ……。でも、手伝いをするのなら、ハードルを片付けておかないと迷惑になりますよね?」
腐女子の手先を探してましたなんて、言えるわけがない。ごまかしつつ長身のディオスを見上げると、ディオスは笑ってかぶりを振った。
「あそこの広場は、体育祭が終わるまでの間、使わせてもらうように申請しているから大丈夫だ。そうだ、エキュー。手が空いている時でいいんだが」
「何ですか?」
「ハルシエルに、お前のハードル走を見せてやってくれないか? 俺を参考にするよりも、お前の走る姿を手本にした方が、まだ理想の形に近いだろうからな。俺とハルシエルじゃ、ハードルの間の歩数や踏み切り位置も、まったく違ってくるから」
「もちろんかまいませんよ。僕でよければ、いくらでも」
エキューが俺を振り返り、「いつでも言ってね」と微笑みかける。
(このほわほわした笑顔……。やっぱりエキューは癒しキャラだなぁ)
さっきの怒鳴っていた姿が幻みたいだ。
「先ほど騒ぎを起こしたクラブの部長も呼び出しているし、ひとまず生徒会室に戻ろうか。エキュー、しないといけない作業は、あとどのくらい残っている?」
「ええと、手配している物品の確認と、設営の打ち合わせの資料作りと、プログラムの校正と……」
うわ、結構あるな~。ディオスじゃないけど、もっと俺達を頼ってくれたらいいのに……。
指折り数えるエキューと一緒に、俺達は生徒会室へと戻った。
◇ ◇ ◇
「んーっ、ようやく終わった~」
夕陽が差し込む生徒会室で、俺はトレーニングウェアのまま、背中を反らして伸びをした。
ずっと集中して文字を見ていたせいで、肩がこっている。
「ありがとう、ハルシエルちゃん。ごめんね、面倒な作業をお願いしちゃって」
エキューが申し訳なさそうに頭を下げる。
グラウンドでの騒動の後、生徒会室に向かった俺が手伝っていたのは、体育祭のプログラムの校正だった。この後、印刷に回すのでチェックを買って出たのだが、間違いがあってはいけないと気を張ってチェックしていたら疲れてしまった。
「気にしないで。これは問題はないはずだから」
確認した原稿をエキューに差し出す。
「ありがとう! 本当に助かったよ!」
と嬉しそうにお礼を言うエキューに、
「他にやることはあるかしら?」
と尋ねると、エキューが困り顔になった。
「まだあるけど……。でも、悪いよ。こんなに手伝ってもらって」
今、生徒会室にいるのは、俺とエキュー、ディオスの三人だ。ヴェリアスは応援合戦の準備をすると言って、今日は顔を出していない。
おかげで本日の生徒会室はすこぶる平和だ。が……。
「星組の皆さんは、今日も生徒会室へいらっしゃらないんですか?」
俺はディオスに尋ねた。
「明日には来るつもりだとリオンハルトが言っていたが――」
「そうなんですか!? 嬉しいです!」
思わず食い気味に歓声を上げると、ディオスが微妙な表情をした。
あ、最後まで聞かなかったのはちょっと失礼だったかな。
「そういえば、クレイユがそろそろ中間テストが近いから、勉強会を開こうって言っていたよ?」
「本当っ!?」
エキューがさらに嬉しい情報をくれる。
思わず気持ちと一緒に心まではずんでしまう。
中間テストは体育祭の直前にある。あまりに点数がひどいとクラブ対抗リレーに出られなくなるそうで、運動部の生徒は赤点を取らないように必死らしい。
まあ、俺には関係ないけれど。それよりも!
待ちに待ったイゼリア嬢とのお勉強会~っ♪
ディオスとエキューがいなければ、この場で踊りだしたいほどの嬉しさだ。
「それでね。よかったらなんだけど……」
エキューが遠慮がちに口を開く。
「僕も、勉強会に参加させてもらってもいいかな?」
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