男なのに乙女ゲームのヒロインに転生した俺の味方は、悪役令嬢だけのようです ~ぐいぐい来すぎるイケメン達にフラグより先に俺の心が折れそうなんだが~
23 神様! どうか俺をイゼリア嬢と同じ組にさせてください!
飛び散るのは青春の汗と涙……じゃなくて砂糖!? 体育祭編
23 神様! どうか俺をイゼリア嬢と同じ組にさせてください!
マリアンヌ祭が終わった翌日の放課後。
俺とイゼリア嬢と、クレイユ、エキューの新生徒会役員と、リオンハルトたち現生徒会役員は、理事長のお茶会に招かれた。
以前、理事長室に来た時に見た、円いテーブルにつくと、
「シノと申します。もうご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、今後、何かとお手伝いをさせていただくこともございましょう。どうぞよろしくお願いいたします」
と、黒髪にきりっとした切れ長の黒い瞳の、くノ一みたいな雰囲気の理事長付きの美人メイドさんが、全員に香り高い紅茶を配ってくれる。
年は二十代半ばくらいだろうか。丈の長いクラシカルなメイド服がよく似合う、いかにも有能そうなメイドさんだ。
いいな~。マーサさんに不満なんてまったくないけれど、うちにもこんなメイドさんがいてくれたらな~。「ハルシエル様、おリボンが曲がってらっしゃいますわ」なんて注意されたい……。
シノさんが側付きのメイドだなんて、かなり姉貴が
全員に紅茶を配り終えたシノさんは、退室せずに盆を抱えたまま、姉貴の席の後ろに立って控える。
外見だけはイケメン紳士な姉貴が、テーブルのメンバーを見回し、満面の笑顔で口を開いた。
「今年度の生徒会役員がそろったね。新しく選出された一年生のメンバーはおめでとう。二年生の三人は後輩達をよく指導してあげてほしい。きみ達七人が力を合わせて、この聖エトワール学園を盛り上げていってくれることを楽しみにしているよ」
姉貴の言葉に、全員が大きく頷く。
盛り上げてほしいのは学園を、じゃなくて「萌え心を」だろ、本音は……。
理事長の正体を知っている俺は内心でツッコんだが、もちろん素知らぬ顔で頷いておいた。
今日の姉貴はやたらと上機嫌だが、それはもちろん、推しキャラ達が一堂に会しているからにほかならない。
とりあえず、俺からよく見える席にイゼリア嬢を座らせてくれたことに関しては、姉貴
「さあ、今日は新生徒会での初めてのお茶会だ。みんな、わたしに気を遣ったりなどせず、リラックスしてお茶を楽しんでくれたまえ」
姉貴の言葉に、めいめいがティーカップやテーブルの上のお菓子や軽食に手を伸ばす。
テーブルの上には、円筒形で三段重ねの銀製のスタンドが置かれ、皿の上にはクッキーやらスコーンやらサンドイッチやらが品よく置かれている。いかにも、上品なアフタヌーンティーという感じだ。
「マリアンヌ祭が終わったら、次は息つく暇もなく体育祭だね」
姉貴の言葉に、リオンハルトが「そうですね」とにこやかに頷く。
「だが……。今年の役員は七人で奇数だ。リオンハルト、どう組を分けるつもりだ?」
きりっとした眉を寄せて口を開いたのは、リオンハルトの隣に座るディオスだ。
聖エトワール学園の体育祭は、全校生徒を『星組』と『花組』の二つの組に分けた対抗戦で行われる。
「オレ、ハルちゃんと一緒の組がいいな~♪」
はーい、と
が、俺はヴェリアスとだけは嫌だ! 絶対にイゼリア嬢と同じ組がいい! それで、イゼリア嬢に応援されたり、応援を送ったりしあうんだ!
「うーん。わたしなりに考えてみたんだが……」
優雅にティーカップを傾けた姉貴が苦笑する。
「ちょっとバランスが悪いかもしれないけれど、二年生はディオス君とヴェリアス君が組んで、リオンハルト君とは別チーム。伝統的に生徒会長が『星組』の団長を務めることになっているから、リオンハルト君が星組で、ディオス君、ヴェリアス君が花組だね。新入生の四人は、くじ引きで組を決めるというのはどうだろう?」
俺としては、姉貴に魂を売ってでも、イゼリア嬢と同じ組になりたかった。
が、姉貴に断られてしまったのだ。「理事長権限を使っても、たった二人の女子生徒を同じ組にするのは無理がある」と。
常識的に考えるのなら、リオンハルト達はハルシエルとイゼリア嬢をそれぞれの組に分けようとするだろう。だが、それでは俺はイゼリア嬢と絶対に同じ組になれない。
哀しむ俺に姉貴が提案したのが「くじ引き」だ。
くじ引きならば、俺とイゼリア嬢が同じ組になったって、偶然ということで済ませられる。
……もちろん、一緒になれない可能性だって大いにあるが。
姉貴の提案にリオンハルト達がどう反応するかと、内心ひやひやしながら見守っていると、優雅にティーカップを傾けていたリオンハルトが、ソーサーにカップを戻して頷いた。
「確かに。理事長がおっしゃる通りに分けるのが無難かと」
リオンハルトの言葉に、他の面々も頷く。
俺は心の中でほっ、と息をついた。
よし! これで、後は俺がイゼリア嬢と同じ組のくじを引くだけだぜ!
くじ引きの神様! どうか俺とイゼリア嬢を同じ組にしてくださいっ!
「じゃあ、シノ君。早速くじを」
姉貴が後ろに控えるシノさんに指示を出す。あらかじめ用意していたらしい。
「かしこまりました」
と頷いたシノさんが、そばの棚に盆を置き、代わりに小さな箱を手に取る。イゼリア嬢たち三人が順番にくじを引き。
「どうぞ」
腰を軽くかがめたシノさんが、にっこりと微笑んで俺に箱を差し出した。
大人っぽい笑顔に、思わずどきりとしてしまう。外面だけはイケメンの姉貴と並んでも、
俺が最後なので、箱の中には当然、一枚しか残っていない。折りたたまれた紙を、祈りを込めてそっと引き抜き。
「では、一斉に発表しようか」
姉貴の声に、俺はそっと折りたたまれた紙を開く。そこには「花組」と書かれていた。
どうか! どうかイゼリア嬢と同じ組になりますようにと、祈りながら書かれた言葉を読み上げる。
「私は花組です」
「わたくしは星組ですわ」
「星組です」
「僕は花組です!」
同時に響く四人の声。
イゼリア嬢の高く麗しい声が、「星組」と告げた瞬間、俺はがっくりとうなだれた。
イゼリア嬢と……! イゼリア嬢ときゃっきゃうふふと声援を送り合う夢が―――っ!
いや、きゃっきゃうふふは無理だろうけど! でも、同じ組になったら、内心はともかく、建前でも応援してくれるだろっ!?
それでもいいから、同じ組になりたかった……っ!
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