21 当然、納得いきません!?


「納得いきませんわ!」


 イゼリア嬢がアイスブルーの瞳に怒りをにじませて、抗議の声を上げる。


 コンテストの結果が発表されてすぐ。

 控え室に残っているのは、一位を取った俺と、二位のイゼリア嬢、そして生徒会役員のリオンハルトディオス、ヴェリアスの五人だけだ。


「オルレーヌさんの一位は、本人の技量によるものではなく、リオンハルト様の人気で獲得したものですわ! わたくし、納得いたしかねます!」


ああ……っ! イゼリア嬢は怒っていても麗しいなぁ……、って! 見惚みほれている場合じゃなくて!


 イゼリアの抗議に、俺も大きく頷いて同意した。


「イゼリア嬢がおっしゃる通りです! 私に投票された点は、明らかに私の力で得たものではありません! どうか、イゼリア嬢を一位に、私を二位にしてください!」


 もともとの俺の計画では、俺は二位でイゼリア嬢に一位になってもらうつもりだったのに……!


 ほら! イゼリア嬢にすごい目で睨まれてるだろ――っ! 好感度下がりまくりだよっ!


 違うんです、イゼリア嬢! 俺は決してイゼリア嬢に勝つつもりなんて……っ!

 ああ、でも、たとえ睨まれてても、イゼリア嬢が俺を見てくれているという事実だけでときめく……っ!


「イゼリア君の言うことも一理あります。が……、勝負は時の運という言葉もあるでしょう」


 不意に割って入った穏やかな声に、全員が控え室のドアを振り返る。

 そこに立っていたのは理事長――姉貴だった。


「エイプル先生が怪我をしてしまったのは、オルレーヌ君のせいではないでしょう? リオンハルト君が相手役を申し出たのも、オルレーヌ君から言い出したことではありません。勝負には、知力、体力、時の運が必要だと言われます。オルレーヌ君は、時の運を見事に掴んだ……。これでは、納得いきませんか?」


「理事長がおっしゃることは理解できますわ……」


 イケメン紳士に穏やかに微笑んで問われ、イゼリア嬢が不承不承という様子で頷く。


 惑わされないでーっ! それ、外見はイケメン紳士でも、中身は腐ってるからっ!

 俺は! 俺はイゼリア嬢の『春の乙女』が見たいんだよぉ~!


 コンテストで一位を取った女生徒は『春の乙女』役として、マリアンヌ祭の主役となるのである。


 最推しのイベント限定コスチュームだぞっ!? そんなの、何があろうと見たいに決まってるだろ――っ!


 血涙を流しそうな勢いで姉貴を睨みつけると、姉貴はにっこりと微笑んで両手をぱんと打ち合わせた。


「とはいえ、イゼリア君が感情的に納得できないのもわかります。どうでしょう。ここは、二人ともが『春の乙女』を務めるというのは」


「『春の乙女』を二人ともに……、ですか?」

 ディオスが呆気にとられたように問い返す。次いで口を開いたのはヴェリアスだ。


「そりゃあ、そうできれば一番無難でしょうけど……。『春の乙女』が二人だなんて、聞いたことがないですよ」


「だが、『春の乙女』が一人でなければならないという決まりもないだろう?」


 ヴェリアスに、理事長が悪戯いたずらっぽく微笑む。


「それに、ハルシエル君にもイゼリア君にも、生徒会入りしてもらうからね。言っただろう? 今年から、役員を一人増員すると。ハルシエル君とイゼリア君の両方に生徒会に入ってもらう。なら、お目見えを兼ねた『春の乙女』も、二人に担当してもらった方がいいんじゃないかね」


 言葉を切った姉貴が、リオンハルトを見やる。


「リオンハルト君。生徒会長であるきみは、どう考える?」


「わたしは――」


 リオンハルトの視線が、イゼリア嬢、次いで俺に向けられる。イゼリア嬢が期待を込めたまなざしでリオンハルトを見上げる。俺も同じ気持ちだ。


 碧い瞳を真っ直ぐに見つめ返すと、リオンハルトがふわりと微笑んだ。


「わたしも理事長と同じ意見です。あでやかな花が二輪も咲きほこれば、マリアンヌ祭もさぞ華やかなことでしょう」


「では、決まりだね。大丈夫、こうなる可能性を見越して、衣装も二人分用意してあるから、ハルシエル君達は準備をお願いするよ。現生徒会役人の三人には、男子の方の新役員を紹介しよう、さきほど、男子の方も投票の結果が出たからね」


「誰が選ばれたんですか?」

 尋ねたのはディオスだ。


「クレイユ君とエキュー君の二人だよ」

 姉貴の答えに、全員に「ああ」と納得の空気が流れる。


 だよな。『キラ☆恋』を知ってる俺じゃなくても、あの二人が選ばれるのは予想がつくよな……。


「さあ、乙女の着替えを邪魔してはいけないよ。わたし達は席を外そう」


 姉貴がぱんぱんと手を叩くと、戸口からメイドさんが四、五人入ってくる。

 それぞれ、淡いピンクのドレスや、花がいっぱいに盛られたかご、花がふんだんにあしらわれた髪飾りなどを手に持っていた。


「さあ、クレイユ君とエキュー君を迎えに行こうか!」


 告げる姉貴は満面の笑顔だ。


 あー、うん。推しキャラ達が一堂に会するんだもんな。気持ちはわかる……。


 けど、中身が洩れないように気をつけろよ!? 顔がにやけすぎてて、すでにちょっと外面そとづらがれかけてるからな!?


 イゼリア嬢のドレス姿を見れるとわかった俺の顔も大差ないんだろうけどさ……。

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