第6話 お約束の後日談!
時は遡り、ファテマが国王とアポリウスに謁見した翌日のことである。
「ロキよ。ちょっとふたりで話さぬか?」
「ファ、ファテマさん。どうしちゃったの? まさに顔面蒼白ってこのことじゃん! みたいになっちゃってるけど。でもまあ、ある程度は察しが付くけどね。」
そして二人はみんなに気付かれないように外へ出て話し始めた。
「で、どうしたの? って言うのは愚問だね。王位継承の話だよね?」
比呂貴が苦笑い状態でファテマに聞く。
「ふむ。その通りじゃよ。儂はどうしたら良いのじゃろうか? アイリスもあんなことを言っておったのでなんか儂は女王になるべきなのかと思い始めたわい。」
とてもしょんぼりした状態のファテマであった。
「えええ! ダメだよ! ファテマさんがいないとオレのモフモフの癒しが無くなっちゃうよ!
って、モフモフだけじゃないよ。もうオレの家族同然なんだから一緒にいないと困るよ。ってか、アイリスもあんなことは言っていたけど、まだファテマの存在は必要だよ。」
「ロキよ。ありがとう。そう言って貰えてすこし元気が出たよ。」
「ってか、女王になりたいんじゃないよね?」
「もちろんじゃ! 女王になんぞなりたくはない。しかし、ロキも言っておったろうが。正当性があるとかないとか。」
「もう、ほんとファテマは真面目だな。まあ、そんなファテマさんだからオレもみんなも好きなんだけどね。
でもオレらふたりだけで話していたも埒が付かないよ。ミカツさんとミソノさんも一緒に話そうよ。」
そして比呂貴とファテマは国王がいる屋敷に向かった。そして門番にミカツとミソノを呼んでもらう様に依頼した。
もしかしたら門前払いになるかもと心配したが、そんなことは無くて門番の一人に屋敷内にある会議室のような部屋に通されてそれで待つように言われた。そして待つこと数分。ミカツがやってきた。
「ファテマ様。お待たせしました。急にどうかされましたか?
あっ! ようやく女王戴冠を決意して頂けましたか?」
ミカツは部屋に入ってきたと思いきや早速女王の話である。
「確かにその件ではあるがな!」
ファテマは不機嫌に吐き散らすように言った。その後、比呂貴はミカツに質問する。
「まずは王位継承のルールを教えてもらえませんか?
それと、ファテマは女王にはなりたくないと言っています。もちろん私たちもファテマは必要なんですよ。だからこの件は基本的には諦めて貰いたいと思ってます。ただ、そうは言っても強引に拒否もしたく無いわけで話し合いをしたいと思ってるんです。」
「そうですか。とても残念ですが仕方がありませんね。
ミソノもこの後来る予定なのでこの話はその時にしましょう。それまではちょっと昔話でも致しましょうかね。ファテマ様の父親の件も含まれますので聞く価値はあると思います。まあ、私の知る限りですけどね。それにこの話を聞いて貰えれば少しはこの国についてもちょっとは気にして貰えると思いますので。」
比呂貴とファテマはお互いを見合っていたが、大人しくミカツの話を聞くことにした。
ファテマは当然のことこのユニコーンの国のことは知らない。それは新天地での生まれだから当然である。
ミカツ、ミソノは今のアイリスくらいの歳に新天地へと向かった。それでユニコーンの国のことは覚えており、それでドラゴンの襲撃の際にも逃げ延びてこのユニコーンの国に向かったのであった。
ファテマの父親は当時の国王から見たら子であり、三人兄弟の末っ子であった。武芸に秀でており、また部隊の統率にも優れていて国に他種族が進行してきたときもミカツの父親と共に撃退していたのであった。カリスマ性も高かったので国の中でもとても人気が高かった。
余談になるが、そんなファテマの父親をまるで赤子のように撃破したアイリスの父親のダークエルフは流石に知略的に戦闘能力が高いと言えるであろう。
反面、ファテマの父親は内政面での統治能力は低いと自己評価を出しており、王位継承権は早くから放棄を明言していたのである。そして兄ふたりは激しく王位継承を争っており、ふたりの兄からは自身につくように言われていたりもした。また部下からは今からでも王位継承に参加するべきとの声も挙がっていた。その部下にはもちろんミカツの父親も含まれる。
そんな状況に嫌気が差して国を出ることを決心したのである。良く権力闘争に敗れた者は森の方に棲むことが多かったが、そうではなく、完全に新天地での生活を選んだのであった。そこには百ほどのユニコーンが付いて行き、その中にはミカツとミソノ、その父親もいたのである。そして以前にファテマが話してくれた内容へと続くのである。
その後、国王は長男が戴冠したのであった。
時は流れて、以前ミカツが説明してくれた通り、ユニコーンの国にて病が流行した。国王にはふたりの子どもがいたが、その子が孫を授かる前にふたりとも病で倒れてしまう。国王は流行病にはならなかったが心労により、別の病に伏せるようになってしまった。そして国王も含めてみんなが次の国王について話が沸き上がるのであった。
現在王位継承権のあるのは国王から見た甥と姪にあたるアポリウスとファテマのみになってしまっていたのである。
アポリウスに関してはすでに本人も言っている通り、ギャンブルに女遊びで王位継承に相応しくないと自覚している。そしてファテマが知らないだけで、国内ではファテマの存在は知っている。そんなファテマがドラゴンから逃げ延びて、さらに人族の国からシルフィードと呼ばれて大活躍をしているというのであるのだ。国内からは次期女王にという声が沸き上がるのは当然の結果であった。
「とまあ、こんな背景があるのですがどうでしょうか?」
ミカツは話を終えてファテマに尋ねる。話の間にミソノも部屋に来ていた。
「うーん。どうかと言われてものう。やっぱり儂にはロキやアイリ以上に愛着も湧かんぞ?」
ファテマはなんとも言えない表情で答えた。
一瞬、間が空いてしまうが比呂貴がみんなに言う。
「何度も繰り返しになりますが、ファテマは自分たちにも必要です。それにファテマ自身も女王は望んでいません。なので辞退させて頂きたいのですが、しかし、ここはファテマともとても所縁の深い場所でもあります。なのであまり強引な方法での拒否は避けたいのもあります。
まずは王位継承のルールについて教えてもらっていいですかね? そこに辞退のヒントがあるかもしれません。」
「わかりました。それでは王位継承のルールを説明させて貰います。」
ミソノは残念そうに渋々説明を始めた。
王位継承のルール
現国王の直系の子どもが優先される。
1子 2孫 3甥または姪
一度王位が譲渡されると、継承権はその国王からのカウントになり、国王からみた兄弟、叔父、叔母などは王位継承権が消滅して、ただの王族となる。
慣例としては、現国王が在任の時に子供たちが決める。その際に兄弟で壮絶な継承争いが発生することもあるらしい。現国王と兄弟がそうであったように。
子がいない場合、孫がいればそちらが優先されることもあるが、甥や姪などから継承する候補者を決めていく。この場合は他の王族や国民からの意見が反映される。ようは推されて国王になるということだ。
ミソノが説明をしてくれた。そして比呂貴は確認をする。
「なるほど。今は国王の子どもが居なくなってしまったので、アポリウスさんとファテマに国王の継承権が残っているってわけですね。それで評判が良くないアポリウスよりもドルクマンで活躍をしているファテマが女王に推されているということだ。」
この言葉にミカツとミソノは頷く。
「ちなみにですが、継承権が直系の子に優先されるというのであれば、国王に子がいない場合はどうなるんですか?
もちろん、甥などもいない場合ですが。」
比呂貴の質問に今度はミカツが答えてくれる。
「それはかなりのレアケースで例外措置になりますね。私も資料で読んだことがあるだけなのですが、過去に数回そのようなことがあったらしいです。その場合は、現国王が王族の中から次期国王を指名して譲位したということです。」
「ほほう。例外措置ですか? 王族の中から? そうですか。ああ、そうですか。」
そして比呂貴はニヤリと笑みを浮かべる。そしてさらに話を続ける。
「まず確認したいのですが、アポリウスさんには子供はいますか?」
「いえ、今はおりません。」
ミカツが答えてくれる。返事を待っていた比呂貴はさらに話を続ける。
「ほうほう。それでいて、ミカツさんもミソノさんも王族なんですよね?」
この問いにはファテマが答えてくれた。
「ふむ。そうじゃ。確か、儂から見て曾祖父の血筋じゃったかな? 王族の中でも側近中の側近じゃ。で、察しの悪い儂でも流石にここまでくればロキの考えがなんとなくわかって来たぞ。」
そう言ってファテマもニヤニヤとし始める。先ほどの顔面蒼白からは一変していた。
ミカツもミソノもなんとなく嫌な予感を感じながらその場の様子を伺っていた。そして比呂貴が説明を始める。
「ええ、では僭越ながら説明をさせて頂きますね。というか、この状況だと皆まで言うなって雰囲気だけどね。
想像通り、ファテマさんは戴冠して王位を継承したら良いと思います。これでみんな納得するでしょう。それにファテマさんも義理を果たすことになるよね。で、ファテマさんには子供がいないからそれを理由にミカツさんかミソノさんに王位を譲渡すれば良い。例外措置を使ってね。」
「うーん。そうなりますよね………。
いや、しかし例外措置というのは例外だから使用するのであって、こういうことには通常使用しないものです。」
ミカツがジト汗を掻きながら言った。
「いやいや、でもやっぱり女王にはなりたくないファテマさんに無理やりやらせるのもどうかと思うよ。それにアイリスにはファテマさんが必要だもん。もちろんオレやレイムにもね。」
比呂貴はさらに攻勢を掛ける。
ここでファテマが語気を強めてみんなに語り掛ける。
「カツ兄ちゃん!
儂が戴冠した後に、カツ兄ちゃんに王位を譲渡するから心つもりをしておれよ。嫌とは言わせぬ。
ここ数日ではあるが、国の雰囲気は見させて貰ったぞ。カツ兄ちゃん達の人気は相当なものじゃった。それにこの数カ月でも何度かモンスターからの侵攻を撃退しておるのじゃろう? 父上のふたつ名で『軍神』の再来か! と周りも騒いでおるではないか。
やはり儂はこの国の生まれでは無いし良くも知らんし女王には相応しくないと考える。それで、人気の高いカツ兄ちゃんが国王をやればみんなも納得するじゃろうて。ソノ姉ちゃんもぜひともカツ兄ちゃんを支えてやって欲しい。」
このファテマの説明に対し、ミカツとミソノはお互いを見張る。そしてミカツが意を決してファテマに告げるのである。
「ファテマ様にそこまで言われるのであれば承知しました。王位譲渡の件、謹んでお受け致します。
どうやら意を決したのは私の方でしたね。」
「とりあえずこの件は内密にしましょう。どこで邪魔が入るかわかりませんからね。」
比呂貴が最後に念を押した。
その後は見ての通りであった。
「とまあ、こんなところでした。」
比呂貴はみんなに説明をして、終わったところでコーヒーをすすった。
「いやー、でもカツ兄ちゃんに王位を譲渡するのに手こずってしまってのう。半年も掛かってしまったわい!」
ちょっと疲れた表情を見せるファテマだった。そして比呂貴が一言。
「いやいや、事務作業とか手続きとかは色々とあるから時間が掛かるもんでしょう。」
アイリスはファテマに抱き着きながら比呂貴に言う。
「ってか、そんな話し合いしていたんだ。私もそういうの参加したかったよ!」
「オレの国には敵を騙すには味方からというありがたい言葉がありましてね。えっと、あっと………。
ごめんなさい!」
比呂貴は九十度のお辞儀をした。
「まあ、そんなことよりもじゃ。どこか旅へ行くのじゃろう? ちょうど儂もそんな気分じゃ。どこへでも行こうぞ!
でもまずは、ようやく女王の責務から解放されたんじゃ。今日は飲み明かしたいぞ。みんな付きおうてくれるよな?」
ファテマは二人にもみくちゃにされながらも言う。
「もう。お姉ちゃんったら!」
「ファテマちゃん! 私はとことんまで付き合うわよ!」
そう言って二人はさらにファテマをもみくちゃにするのである。
まあ、翌日は一日中ベットとトイレを往復していたのは察するところであろう。
その後、みんなは帝国やドワーフの国へ行ったり、ミダマの居城へ招待されたり、まだ見ない場所へ冒険に行ったりする。特に帝国では事件に巻き込まれることもあるが、それはまた別のお話でするということで、今回の比呂貴、ファテマ、アイリス、レイム、そして新参のビッツの話はいったん終了です。
中二おっさん比呂貴の異世界伝説 Tさん @T-SAN
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