第4話 二つの決意

 アポリウスとの食事会が終わった後は元の宿屋に戻ってきて、ミカツ、ミソノも含めてティータイムを取っていた。

 そしてミカツはファテマに言った。

「国王様、アポリウス様から女王戴冠について言われていましたね。それだけ期待が高いわけですが、ご決心はして頂けましたか?」

「そうじゃ! その件じゃが、伯父上もアポリウスも好き勝手に言いおって、儂は女王になんぞならんからな! 今もきっぱりと言っておくぞ!」

 ファテマはきっちりとはっきりと言い放つのであった。


 しかし、比呂貴、アイリス、レイムは神妙な表情になる。ビッツは引き続き様子を伺っている。

「お姉ちゃん。」

「ファテマちゃん。」

 アイリスとレイムはそれぞれ呼んだが、呼んだだけでその後は言葉を詰まらせる。


 そんな雰囲気の中で比呂貴は言う。

「ファテマさん。オレもかなり舐めて掛かってたんだけど、ここまで周囲の期待が大きいとは思わなかった。それにそもそもとしてファテマさんが女王になるのは正当性がとても高いよ。

 断るにしてもちゃんとしたみんなが納得をする理由を示さないとすんなりいかないような気がしてきたよ。」

「なっ!? 比呂貴までそのようなことを言いだすとは?」

 ファテマはびっくりと困惑の表情で言う。


 女王戴冠へのプレッシャーが一気に圧し掛かるのである



 すっかり空気感が重くなってしまったが、ファテマがミカツに尋ねる。

「ちなみにもし儂が女王になったとして、みんなとはどうなるんじゃ? もちろんこの国で暮らすことは問題無いんじゃろうな?」

「観光であれば問題無いのですが、居住となるといろいろと問題があると思われます………。

 しかし、このような状況です。特例を出すことは出来ると思います。国のみんなも納得してくれることでしょう。」

 ミカツが厳しい表情であるが答えてくれた。


「しかしながら、女王になると色々と公務が発生しますので今のように気軽に会うことは難しくなると思います。」

 ミソノは補足してくれた。

 次にファテマはアイリスに確認をする。

「アイリよ。もし儂が女王になったとしてお主はどうするんじゃ?」



 このファテマの質問が出た時、周りの空気、雰囲気はこわばったものになる。そんな状況の中でアイリスは自分の気持ちを語り始めるのである。



「私は………。」

 アイリスはここでいったん言葉を飲み込む。一呼吸を付いて再び口を開く。

「私は実のところ、お姉ちゃんが女王にって話が出た時から今の状況も考えてたんだよ。それでね、答えはすぐに出たよ。あっけなくね。


 お姉ちゃんが女王になってロキと離れ離れになるケースだけど、結論から言うと私はロキに付いて行くよ。恐らくレイムもセットだと思うんだけど。

 もしお姉ちゃんが女王になろうとも、私と離れ離れになってどこにいたとしてもお姉ちゃんは私のお姉ちゃんだもん。これは決して外から切り崩されることがない絆だもん。大好きなお姉ちゃんはどうやっても変わらないし変えられないよ。


 でも、ロキとレイムは違う!

 二人に関しては私も一緒に育まないといけない絆だもん。もしここで離れることになったら絆は切れることは無くてもどんどんと薄くなっちゃう。だから離れるわけにはいかない。ルカスもそんなこと言っていたよね?

 なんか難しい事言っちゃったけど、そもそもとして私はロキもレイムも大好きだからずっと一緒にいたいんだよ!」

 アイリスは力強く、それでいてとても穏やかにみんなに言った。


「あ、アイリスちゃーーーーーん!」

 レイムは涙ぐみながらアイリスに飛びかかっていった。そして相変わらずスルーされ椅子に激突していた。

「アイリスちゃんってば相変わらずヒドい! でも嬉しいよ! 私も大好きだよ。アイリスちゃん!」

 レイムは頭にこぶを付けながら笑顔で言った。


 レイムの一人漫才でちょっと場が和んでいた中でミソノがアイリスに言う。

「アイリス様は変わられましたね。棘が無くなったと思います。

 アイリス様も母親似で美形なのですが、性格が固くて表情も鋭く美形な分、余計に怖さが目立っておりました。しかし今は母親のほんわかした雰囲気がとても似てきたと思います。可愛らしいところも似てきましたね。」


「むむっ。ミカツさんってそんな風に思ってたんですね。でもまあ、今ならしょうがないって思います。

 でも、わたしもお母さんが大好きなのでそんな風に言って貰えてうれしいです。ありがとうございます。」

 アイリスはちょっと怒った顔をしながらも、その後は穏やかな表情でミソノに答えた。


 そしてミカツも答えた。

「私も同感です。実は、ダン殿の宿で挨拶をさせて頂きましたが、てっきりスルーされると思っていたのです。しかし、返事があったので少しびっくりしてしまいました。今もこうしてご自身の意思をもってファテマ様に発言されているのも昔では考えられませんでした。

 こんなことを言っては少し失礼かもしれませんけどね。不快にさせたのなら申し訳ありません。」


「なっ? ミカツさんまで! でもまあ、ここは甘んじて受けましょう。

 でもまあ、ここまで変われたのはロキとレイムのお陰だもん。ちょっとさっきの話に戻っちゃうけど、だからこそロキとレイムと一緒に居なきゃいけないと思う。私は。」

 アイリスは引き続き穏やかに答える。


 最後にファテマがアイリスに言う。

「ううう。アイリよ。こんなにも頼もしく成長しよって嬉しいぞ!

 しかし、お姉ちゃんとしてはちょっと寂しくもあるよ。複雑な心境じゃわい!」

 そう言ってファテマは涙を見せるが、恥ずかしくなり反対側に向いた。

「お姉ちゃん!」

 アイリスはそんなファテマを後ろから抱きしめた。


 比呂貴とビッツはこの光景を見ながら静かに号泣していた。



 そして翌日。

 ファテマが比呂貴のところへやってくる。

「ロキよ。ちょっとふたりで話さぬか?」

「ファ、ファテマさん。どうしちゃったの? まさに顔面蒼白ってこのことじゃん! みたいになっちゃってるけど。でもまあ、ある程度は察しが付くけどね。」


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