第2話 ユニコーン王国からの使者

 翌日。

 いったん比呂貴とファテマがダンの宿屋のロビーにいた。そしてミカツとミソノが別の部屋よりやってきた。

「おはようございます。昨晩はゆっくりと出来ましたか?」

 ミソノが挨拶をしてくれた。これにファテマが答える。

「儂はもうぐっすり寝たからバッチリじゃぞ! ロキはどうじゃ?」

「うん。やっぱりダンの宿屋は違うね。久しぶりにゆっくり寝れたよ。

 で、昨日話しに上がったファテマへの要件の話だけど、これってオレらはいないほうが良いよね?」

 比呂貴はファテマの質問に答えつつもミカツ達に確認をした。


 比呂貴の言葉にミカツ達が返事するより前にファテマが反応した。

「ロキよ。何を言っておる。お前たちは家族も同然じゃぞ? お主ら抜きで話をするなんてありえんぞ?

 カツ兄ちゃん。そんな内緒にしないといけない話なのか? いくらカツ兄ちゃん達からの話でもみんなに秘密にしないといけない話ならちょっと考えるぞ?」


 ファテマが心配そうに言ったが、ミカツは諭すように答えてくれた。

「それはもちろん構いませんよ。内密の話でもありませんし、それにロキ殿にも一部聞いて貰いたい内容も含まれていますので。こちらからぜひとも聞いて頂きたいところです。」

「あ、そういうことならわかりました。みんなでお話を伺いましょう!

 でも、流石にこの時間帯のロビーを占拠してしまっては宿の営業の邪魔でしょうから場所は移しましょう。」


 そしてみんなを呼び出して話を聞くことにした。場所はダンに広めでワイガヤできるようなカフェレストランを紹介して貰った。

「で、ソノ姉ちゃん。話しというのはなんじゃ?」

 ファテマが質問をする。モフモフの尻尾も軽快に動いている。

「はい。本国の話になります。」

 ミソノが話題を切り出す。


「ん? 本国じゃと?」

「はい。現在ユニコーンの国は王国制を取っているのですが、王位継承について問題が起きているんです。

 その王国では七、八年前ほどに流行病がはびこり、国王の子どもふたりが倒れてしまいました。国王自体は流行病には掛からなかったのですが、ふたりの子供を失ったことにより、自分も病に臥せるようになってしまったのです。

 そして王位継承の話題が持ち上がっているのですが、王位継承権があるのが現在二人となってしまっています。国王から見たら甥と姪にあたるのですがひとりは王国にいます。そしてもう一人がファテマ様になるのです。」


 ミソノはここまで言うと、次はミカツが話の続きをした。

「そしてユニコーンの国にいるもうひとりの継承者はアポリウス様と言いますが、この方は色々と評判が悪くて国民からの支持が高くありません。

 そこでもう一人継承権のあるファテマ様が推される形になっているのです。ファテマ様においてはロキ殿とレッドドラゴンとの戦いでも大活躍をされて人族の国ではシルフィードと呼ばれてとても評判が高いからです。

 アポリウス様も自身が国王の器では無いことは充分にご理解をされていて、もし、ファテマ様が王位を継承する意思があるのなら喜んで辞退するとおっしゃってくれています。それで我々がファテマ様をお迎えに来たということなのです。」



 二人からの話がいったん終了する。

 とても衝撃的な話が飛び出し、ファテマを含めてみんな頭の中で処理が追いつかずにポカーンとしている。

 そんな中、比呂貴がボソッと呟く。

「えっと、あっと、ツッコミどころ満載で、なにをどっから突っ込んでいいのかわからんレベル………。」



 比呂貴のつぶやき以降、暫く沈黙が続いていたが、この沈黙を破ったのはレイムだった。

「えっと、ファテマちゃん。ファテマちゃんってお姫様だったの?」

「わっ、儂もその辺は良く知らんのじゃ………。

 確かにどこかの国から出てきて、別の国を作ったということは聞いたことがあるのじゃが、父上も母上もあまり元いた国のことは話してはくれなんだからな。

 ぶっちゃけあれじゃぞ? ドラゴンから逃げる時も元の国へ行かんかったのは別に気を使ってのことではないぞ? 単純に場所を知らぬだけなのじゃ。」

 ファテマは苦笑いで弁明する。


 続いて比呂貴がボソッと質問をする。

「うーーーん。で、ファテマさん的には王位を継ぐの?」

「いやいや、それはやめてくれ! 儂にとっては今の生活がすべてじゃ。アイリスやロキ、レイム以上に大切なもんは無い。それに、ろくに国のことを知らん儂が王位を継承するなんて相応しくないであろう。」

 ファテマがきっぱり言い放つ。このファテマの言葉に嬉しさを滲み出す三人であった。


「そうは言わず、一度よくよくお考え下さいファテマ様。」

 ミカツが困った表情で言った。

「いいや、王になんぞ、儂はならんぞ!

 そこまで言うのならカツ兄ちゃんが王をやれば良いんじゃ。確かカツ兄ちゃんも儂とは遠縁で王族じゃろう?」

「いえいえ、国にいなくて国王に相応しくないというのであれば、それは私とて同じことです。同じように新天地にいたわけですからね。それに私は王族と言っても王位継承権がありません。」

「うーん、それを言われるとそうかもしれんが………。」


 言い合いをしているミカツとファテマだったがミソノが間に入ってきた。

「まあ、どちらにしてもファテマ様。一度国へいらしてください。国王がぜひとも会いたいとおっしゃっております。

 それと、こちらも国王の勅命なのですが、ドラゴンスレイヤーのロキ殿も希望されるのであれば招待致します。」


 ユニコーン王国。これはもう興味しかわかない。比呂貴は少年のようなキラキラした瞳でファテマを見つめた。隣でレイムも興味津々で少女の瞳でファテマを見つめている。

 二人とも行ってみたいオーラが全開であった。

 ちなみにアイリスはあまり関心がないようである。ビッツは状況を伺っているようである。


「ふっ、ふたりともそのようにわかりやすくアピールするでないわ! まあ王位継承云々は置いておき、伯父上が儂に会いたいと言っておられるのならそれは行かねばなるまいな。」

 ファテマは意を決してユニコーン王国行きを決断した。

「やったー!」

 比呂貴とレイムはお互いにハイタッチをした。



「ちなみにですが、ユニコーン王国というのはどこにあるのですか? 我々ホワイトドラゴンの情報でもそんな国があることは把握しておりません。」

 ビッツがビッツらしからぬ、とてもまっとうな質問を投げ掛けた。比呂貴としてはこれが何かのフラグにならなければと心配になるほどであった。


 一瞬警戒するミカツであったが、しかし、答えないわけにもいかずにしぶしぶ回答する。ドラゴンに壊滅されたユニコーンである。そう簡単には割り切れないのは理解しないといけないのかもしれない。

「ここからですと、ちょうどノンリミットの裏側になりますね。ベアーテエンデル国とハイデルフォン帝国の間に森林地帯と運河地域があります。ノンリミットの山岳地帯からその森林に掛けて我々は住んでおります。」


「なるほど。あの辺ですか。確かにノンリミットにも森林地帯にも多数のモンスターや亜人が住んでいますね。

 さらに質問ですが、そこまではどのように行きますか? あ、おふたりはどうやってここまで来られれましたか?」

 ビッツはさらにグイグイと質問をねじ込んでくる。相手の心境お構いなしである。その辺はいつものバイタリティーあるビッツであった。


「我々はノンリミットに沿って空を飛行して来ました。だいたい三日くらいで到着しました。」

 ミソノが答えてくれた。

「なるほど。そうですよね。しかし、あのあたりとても強い突風が吹き荒れることがありますよね? 大丈夫でしたか?」

「ええ。確かに来るときも突風には遭いましたが、あの程度であれば我々は問題ありませんよ。厄介ですが、自身の風の魔法で打ち消すこともできます。」

 さらにミソノが答えてくれる。少しばかし表情が穏やかになっていたようである。


「ってか、ビッツ。なんでそこまで細かく質問してるんだよ。」

 比呂貴はグイグイいくビッツに尋ねた。

「いや、あの辺ってベアーテエンデル側を飛行すると人に見つかって攻撃を受けることがあります。だからと言ってノンリミットに近づくと風が入り組む場所なので突風が危険なんですよ。」

 ビッツは難しい顔をして答えていた。


「ふんふん。それで? 危険ってどれくらい?」

「え? あっ!

 人族を刺激したくないというのはホワイトドラゴンの総意です。なので攻撃は避けないといけないのはもちろんのことで、ノンリミットの突風はとても鋭く、ロキ様が使用するかまいたちのようになることもあるんです。ドラゴンであればあまり気にしませんが、ロキ様、レイム様、アイリス様だとどうかなと思うんです。あと単純に吹き飛ばされて落ちることも考慮が必要かなと。

 もちろんのこと私がロキ様とレイム様を乗せることになると思うのですが、ちゃんと安全に飛行できるかどうかを確認していたわけなんです!」


「おおおぉ、オレたちのことを心配してくれてたんだね! 説明は相変わらず段取り悪いけど、でもいろいろと配慮してくれて嬉しいじゃん!」

 比呂貴は笑顔でビッツに言った。

「なるほど。確かにビッツ殿の言うことも考慮が必要ですね。」

 ミカツが答えてくれた。


 検討が始まったが、まずは比呂貴が言った。

「まず、オレのことは特に気にしなくてもいいよ。多少のケガならすぐに治るから。レイムも大丈夫だよな?」

「え? なんで大丈夫って思うのよ?」

 レイムはとぼけていた。

「おいおい、ちゃんとした魔族なんだろ? 霊体成分多めにしておけば多少の突風ならすり抜けられるでしょ?」

「あっ、なるほど! ロキってば頭良いわね! あ、でもそうなると相当魔力が必要だわ。私消えちゃうかも………。」

「そこはオレにしがみついておけ! あ、オレもすり抜けるほど霊体成分多くしたら意味ないからな!」

「おおおぉ、なるほど!」

 相変わらずポンコツさを溢れんばかりに発揮しているレイムであった。


「最後はファテマとアイリスだけど、まあ、ファテマは自分が飛んでいるし、多少の突風も避けられると思うけど、アイリスまで気を付けられるかな?」

 比呂貴は聞きながらファテマとアイリスを見た。

「うーん。そうじゃな。確かに一人であれば少々のことは対処可能じゃが、何分あの辺は一度も行ったことが無いから不測の事態というのも考えられるのう。」

 ファテマは心配そうに答えた。


「それではアイリス様は我らのどちらかに乗って頂ければと。あの辺は何度も通っており、だいたい突風が吹くタイミングも理解しております。誰かを乗せていても対処は可能ですから。」

 ミカツが答えてくれた。

「あ、それだと行きはよいよいで帰りが困るんだけど?」

 比呂貴がミカツに言った。


「そこはご安心ください。帰りに関しても私たちが責任を持ってこちらまでお届けいたします。」

 今度はミソノが答えてくれた。

「じゃあ、問題は解決かな? 念のため、ノンリミットの近辺はゆっくり行きましょうね。

 あと、また数日間の空の旅になっちゃうから出発は三日後にしよっか?」

「ふむ。そうじゃな。ここんところイベント続きじゃから休養も必要じゃ。」

 比呂貴の提案にファテマが答える。

「はい。私たちもそれで問題ありません。」

 ミソノも答えてくれた。


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