第8話 ブラックドラゴンの登場だぞ!
背丈はファテマほどで、真っ黒のローブを着ていて少年(?)のようである。しかし、中性的な感じである。声はとても良く通るのだが、これも男性とも女性とも言えない中性的な声だった。
「うわぁ! 可愛い!」
アイリスが思わず声を漏らした。
「る、ルカス様。」
ピュールはその少年をルカスと呼んだ。
「ちょっと今は大事な話をしているんだよ? 子供は帰りましょうね。でも、とっても可愛いけど。」
アイリスはニコニコ顔で答えた。
『まさかの初めて知るアイリスのショタ属性! 人族以外で小さい男の子は平気なんだね。っていうか好きなんだね。』
比呂貴は心で突っ込んでいたがルカスが声をあげる。
「我はブラックドラゴンぞ! 闇を司り、平静と浄化を司るこの世で唯一のブラックドラゴン。魔族も恐れる我ぞ?」
そう言ってルカスは人の姿からドラゴンの姿になろうとした。
漆黒の全身。本体の二倍はあるであろう禍々しくもある漆黒の翼。そして何もかもを噛み砕いてしまいそうな鋭い牙が口から少し覗いている。
ガオーーと言わんばかりに現れたのだが、なんと、大きさが、
バスケットボールほどなのだ!
まあ、広い会議室とは言え、ドラゴンが普通に具現化すれば部屋を破壊してしまう。それを考えての大きさなのだろうが、その大きさゆえに余計に可愛らしさが十倍増しになっているようである。先日アイリスが描いたデフォルメされたドラゴンそのものだった。
そしてルカスは空を飛びアイリスの前に来た。
「これでどうじゃぞ? 我がブラックドラゴンであることがわかったぞ?」
しかし、こんな可愛い状態のドラゴンがこんな距離に来てしまったらどうなるのかは容易に想像が付くであろう。
「わぁ。ちっちゃいドラゴン可愛い! 少年のも可愛かったけど、こっちのほうがもっと可愛い! 確かにドラゴンは嫌いなんだけどこれはめっちゃ可愛い! うわぁ。どうしよう。めっちゃ可愛い!」
アイリスは意味不明に可愛いを連発しながらルカスをガシッと掴んで抱きしめた。そして凄くほうずりをしている。
「ふむ。儂もドラゴンは嫌いじゃがこれはとても愛嬌があって良いのう。」
今度はファテマも乗り出してきてルカスをもみくちゃにし始めた。
「わっ、私はアイリスちゃんの方が可愛いと思うけどね。ってかアイリスちゃん一筋なんだからね!」
レイムはそう言いながらもルカスをおもちゃにし始めた。
女子三人にもみくちゃにされるルカス。大人気であった。
「えええい! いい加減やめんか!」
ルカスはそう言って三人を振り切り、ドラゴン側の席に飛んで行った。その後人に変身しなおした。
「もう、ひどい目にあったぞ! みんなドラゴンを嫌悪しているって聞いていたからドラゴンに変身してみたというのに。
本当にどういうことぞ?」
さらに呆れた感じで一言添えるルカスであった。
「ルカス様。ご無沙汰しております。そしてどのようなご要件でしょうか?」
ピュールはルカスに質問をした。
「どうもこうも無いぞ?
お宅の使いのドラゴンからロキと会談をするっていうから面白そう………、えっと、何事かと思ってきたんじゃぞ。そして会談を聞いておったのだぞ?
そしたら何やら微妙な空気になってきたら我も参加したという事ぞ!」
「そ、それはご心配を掛けて申し訳ありません。」
「ふむ。それは別に良い。
っていうかピュールよ。この手の人たちには正直に正確に物事を伝えないとダメぞ。相手さんが少しでも『違う』って感じたら、事実がどうであれこっちが不利になってそれで被害を被るぞ?
あまつさえ、ハーフの子にまで突っ込まれるとは。今まで帝国の人族と何をやってきたんだぞ?」
「面目次第もありません。」
ピュールはバツが悪そうに謝った。
そんなピュールを一瞥し、さらにルカスは話を続ける。
「確かにそこのハーフのお嬢さんの言う通りぞ。
ここ数千年は平和な時代が続いたからね。ドラゴンだけじゃなくていろんな種族が数を増やしておるぞ。そんな中、やっぱりドラゴンとしても数が多くなっておるから全員を従わせるなんて言うことは我でも不可能ぞ。逆に我もどうするか聞きたかったくらいぞ。」
そう言ってルカスは一度ドラゴン側の席を見る。ピュールたちは小さくなっているようであった。
そしてルカスは比呂貴たちに向かって宣言する。
「ロキ達には申し訳ないことになるんだけど、ブラックドラゴンたるルカスの権限に於いて今までの会談内容はいったん白紙に戻させてもらうぞ。そしてさらにルカスの名に於いてドラゴン会議の開催を宣言します。
一応、我なら各属性のドラゴンを呼びつけることができるからね。なのでロキ達もそこで存分に言いたいことを言ってくれたらいいぞ。まあ、会談の結論までは保証できないけどぞ。」
「なっ!?
ドラゴン会議ですか? それは………、そんなお手間を取らせるわけにはいきません。」
ピュールはルカスに進言する。
「まあ、自分たちの不始末的な感じなものを我が拭う(ぬぐう)形になるからね。こんな形のドラゴン会議はピュールにとっては不本意かもしれないぞ。
でも、さっきピュールも言ってたけど、我もロキは要注意人物なんだぞ。だからちゃんと決着をつけないといけないんだぞ。」
「………はい。ルカス様がそこまでおっしゃるのであれば承知しました。
我々の力が及ばず申し訳ありません。よろしくお願いします。」
ルカスの言葉にピュールは渋々承知したのである。
さてドラゴン会議か? といった雰囲気になりつつある中、ここでもアイリスが疑問を投げ掛ける。
「えっと、ちなみにそのドラゴン会議なんですが、私たちも出る必要あるんですか? 私たちはすでに要件は全部伝えましたので、あとはそっちで話し合ってもらいたいんですけど。そのドラゴン会議というので。」
これに対しては比呂貴が回答する。
「アイリス!
確かにアイリスの言う通りでこちらからの要件は全部伝えたし、あとはそっちでやってもらうのは当然の筋だと思う。
でもね、ドラゴン会議は出席しようよ! こんな機会めったにないよ? っていうか、単純に面白そうじゃん!」
「えええっ!?
でもまあロキがそう言うのなら。それに確かに色々と勉強になりそうね。分かりました。私たちもドラゴン会議に出席させてください。」
アイリスも納得して了承した。そして最後にピュールがこの会議を締める。
「ドラゴン会議の開催は五日後とします。
それまではロキ様たちは客人としておもてなしさせて頂きます。娯楽はまったくありませんが、自然の観光スポットはいくつかございます。よろしければビッツに申し出て下さい。他にも入り用がありましたら遠慮なくビッツに申し付けください。」
ピュールの言葉でホワイトドラゴンとの会談は終了した。まあ、第二弾が予定されてしまったので第一弾が終了というのが正確なところかもしれない。
ピュール達、ホワイトドラゴンはさっさと会議室を出て行ったが、ブラックドラゴンのルカスはアイリスのところへやって来た。
「さっきの指摘は中々だったぞ。流石はエルフだぞ。で、そんな君にひとつ言っておくよ。ちょっと酷い事を言うかもだけど。」
「えっと、その前にちょっとお願いがあるんだけど。
さっきから私のことを君とかお嬢さんみたいな感じで言っているけど、私はアイリスだよ。出来れば覚えて欲しいな!
ルカスは可愛いからね! 可愛い子にはちゃんと名前で呼んで貰いたいな。」
アイリスはそう言って笑顔で自己紹介をした。
「あ、これは失礼したぞ。
では改めてアイリスに言っておくぞ。さっきも言ったけどかなり酷い事を言うかもだけど頭の片隅にでも入れて置いたらと思うぞ。
アイリスの生まれだけど、エルフとユニコーンのハーフで本来はそんなハーフは出来ないぞ。ユニコーン族は神に近い存在だしね。それがこうやって交配が成立しちゃったんだ。これは本当に奇跡のようなスゴイ事だぞ。我としても気にする必要があるくらいにね。
でも恐らくは祝福というよりも呪いに近いような状況が今までもこれからも理不尽に起こると思っておいた方が良いぞ。ドラゴン族に狙われるとかそのひとつかもだぞ。
アイリスが魔族なら我の能力で無に帰す(きす)こともできたけどそれも無理な話だぞ。もしかしたらロキの出現も奇跡なんだけど、アイリスにとっての救済処置になっている可能性があるね。仲良くしたほうが良いぞ。
まっ、そういうことなんで、ぶっちゃけ人生はその理不尽も楽しむくらいの勢いでいかないと、とてもじゃないけど生きていけないぞ。」
淡々と告げるルカスであった。
アイリスとしては確かにエルフ族とユニコーン族のいざこざの中心人物であったり、完全属性のためにドラゴンに追われることになったり、その結果両親をも失った。確かに生きるのが大変だと感じだことは多々あった。ブラックドラゴンのルカスの言うことには説得力がありとても心に響き突き刺さる。
しかし今は大好きなお姉ちゃんであるファテマとの確執も無くなり、そればかりかロキやレイムと出会い楽しい冒険を進めている。今は笑顔も多くなり幸せすら感じているほどである。
ルカスは次にレイムのところに来た。
「で、君がレイムだぞ? お母さんはアメジストさんだよね?」
「うん。そうだけど。ママのこと知ってるの?」
レイムは答える。
「そうだぞ。実はアメジストさんとはちょくちょく会っているんだよね。前回会ったのはちょうど君が生まれた時だ。だから覚えてたんだぞ。
いやー、アメジストさんには昔から散々な目………、いやいや、とてもお世話になっていてね。ブラックドラゴンの特異スキルを習得するきっかけになってくれたからとても感謝しているんだけどね。
でもやっぱり大変だったぞ………。」
ルカスは懐かしくも遠い目で昔のことを思い出していたようである。
「ハハハ。確かにママはめちゃくちゃな性格だしね。っていうか存在自体がめちゃくちゃだし。それはご愁傷さまとしか言いようが無いわね。」
レイムは引きつった笑顔で答えた。
「でも、レイムもかなり有名になってきたからね。アメジストさんも喜んでるんじゃないのか?」
「いや、わかんない。ママとは十一歳の誕生日から会ってないからね。まあ、特段こちらから会いに行こうとは思わないけど。」
「ハハハ。レイムが有名になっていることも知らないのかもね。アメジストさんらしいぞ。」
話がひと段落付きそうな感じのところで比呂貴がやってきて、そしてルカスを抱き上げた。
「なっ、急に何をするぞ!?」
そう言ってルカスはジタバタと抵抗する。比呂貴はそんなルカスを気にせずにニヤつきながら話を持ち掛けた。
「ねえ。オレもルカスにいろいろと話を聞きたいんだけど!」
「なっ! 嫌な予感しかしないぞ?」
「ええ。いいじゃん。ちょっとくらい!
にしてもアイリスが特に推してたけど、確かにルカスって可愛いよね。ルカスは女の子? それとも男?」
「ええい! 離さんか! ちなみに両方とも違うぞ!」
「え? 両性具有者ってこと?」
「いや、それも違うぞ。」
ルカスがジタバタしているので比呂貴はいい加減下ろした。
そしてルカスはなんだかんだ言いながらも答えてくれた。
「ブラックドラゴンはこの世界に一体のみぞ。なので寿命という概念が希薄で、力を使い果たしたらいったん無に帰りそして再生するんじゃぞ。だから性別とかも無いぞ。
ちなみに我は三百年くらい前に再生しておるぞ。再生した時には能力がいったんすべて無くなるんじゃが、さっきレイムに言っていたようにレイムの母親にスキル開放に関していろいろと手伝ってくれたわけぞ。」
「おおおぉ! フェニックスみたいだね。めちゃかっこいいやん!」
「そろそろ良いかのう? これからドラゴン達を呼びにいかないといけないから忙しいんだぞ?」
「あ、ごめんごめん! じゃあ、もうひとつだけお願い! ルカスはドラゴンの王ってことなの?」
「うーん、それもちょっと違うぞ。
そもそもブラックドラゴンの能力というか役目というのに魔族の暴走を止めるというのがある。
そのために我は魔族の攻撃を無効化するスキルがある。さらに魔族などの闇のモノを無に帰すこともスキルのひとつじゃぞ。しかし、相手が元気じゃと無に帰すこともできんからな。なので他の属性のドラゴンや魔王の一部と組んで世の平定を管理するんだぞ。」
「おおお! キャンセリングスキル!
それでさっき言ってた、闇を司り、平静と浄化を司るってことなんだね! おおお。めっちゃかっこいいやん!」
「ふふん! そうだぞ!
なので他の属性のドラゴンからは自然と持ち上げられる存在となるわけだぞ。わかったであろう?
それでは、我はそろそろ行くぞ。忙しいからな!」
「うん。ありがとう! とっても勉強になったよ。またゆっくり話を聞かせて欲しい!」
比呂貴の言葉を聞き流しながらルカスも会議室を後にした。比呂貴たちも会議室を後にして宿屋へ向かった。
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