第6話 会談に臨む前の心構え的なやつです
翌朝、朝食をとる。ちなみに食事の時はファテマもビッツも人間の姿である。そして比呂貴はビッツにスケジュール感を尋ねる。
「ところでビッツよ。予定では今日ドラゴンの国に到着するんだよな?」
「はい。よほどのことが無い限り今日着きますね。」
「何時くらいに着くんだ? 今日ホワイトドラゴンのリーダーという方に会えるのか?」
「えっと、ドラゴンの国には夕方に到着すると思います。今日リーダーに会えるのかどうかは………。」
「ビッツよ。わからない、決まっていないのであればちゃんと正直に言っていいからね。別にそれについては怒らないから。
逆にわからない、決まってないのに知ったかぶりで言われる方が迷惑だし怒るよ?」
比呂貴はジト目で無機質な表情でビッツに言う。
「えっと、わかりません。」
ビッツはバツが悪そうに答えた。
「よろしい。ちなみにその『わからない』だけど、単にいつにするかを決めてないだけだよね?」
「はい。そうです。そこまでの話はしてませんでした。」
「じゃあ、リーダーとの会議は明日の朝からにしようよ。国に着いたらリーダーにもそう言っておいて!」
「はい。わかりました!」
ビッツは元気よく返事してくれた。
そして、すかさず比呂貴はアイリスに対してちょいちょいと肩を叩く。
「ん!?」
アイリスはファテマのところへ行こうとしていたが、比呂貴に気付いて振り向いた。
「ねえ、アイリス。なんでオレがこんな細かいところまで聞いたかわかる?」
「え? スケジュール感の確認って言ってたじゃん?」
「そそ。スケジュール感の確認。これは間違いじゃない。でもただスケジュール感を確認しているだけじゃないんだよね。」
「え? どういうこと?」
「もうすでに会談は始まっているっていうことだな。
会談は一種の戦争だと思っている。だから準備も周到に行う必要があるし、準備はもちろんのこと自陣に有利になるようにセッティングしていかないと意味が無いよね?」
「え? え?
確かに会談するからにはこちらの言うことが通れば良いと思うけど、それがスケジュールの確認と何か関係あるの? ぜんぜん関係無いと思うけど?」
アイリスの頭にハテナマークがいっぱい浮かんでいるように見えた。
「ロキ様、そろそろ出発しますよ!」
ビッツはすでにドラゴンの姿になり比呂貴を呼び立てた。
「あっ、ごめんごめん! 今日はちょっとアイリスと内緒の話があるからファテマと一緒に行くよ。」
ロキはビッツに言った。
「え? ちょっとロキ、それはズルいよ! 私もアイリスちゃんと行きたい!」
もちろんのことレイムが絡んでくるがそれは雑にスルーする。
そしてファテマとアイリスと比呂貴の三人での空の旅となる。アイリスが前でファテマに捕まり、比呂貴は後ろでアイリスに抱き着いている感じである。
空に上がったらそれなりのスピードなので、比呂貴とアイリスは耳打ちをしながら会話をすることになる。これはかなりイチャイチャ恋人感が出て比呂貴としてはかなりラッキーだったがこれをアイリスに悟られるとドン引きされそうである。あと、レイムが悔しがりそうだ。
「で、さっきの続きだけど、昨日言ったことは、それはそれで実際に会談が始まったらやることなんだけど流石にビッツがいたからね。全部が全部ネタバレするわけにはいかないからね。」
まずは比呂貴がアイリスに耳打ちする。
「あっ。確かにそうだね。」
アイリスはハニカミながら比呂貴に耳打ちする。
「で、実際にあのスケジュール感の確認をした会話でもいくつかわかることがある。
会談をやるわけだから、少しでも有利に主導権を持って進めたいって思うのは普通だよね?
だったら、スケジュール感もキッチリと決めてくるのがセオリーだよ。会場の準備、議題について内々で検討するとかいろいろとやることあるはずだしね。心の準備だってそうだよ。
しかし、それをやってないってことだよ。しかも人を呼びつけて置いてだよ。まあ、実際に何の話をするのかはわからんのだけど、そういうところを意識する能力があるのかないのかがはっきりしない。もしかしたら無いのかもしれないというわけだ。」
比呂貴はここでいったん話を止めてアイリスの様子を伺った。アイリスはフンフンという感じで聞いている。キラキラと目を輝かせている。この様子だとちゃんと話についてきているようである。そして比呂貴は話を続ける。
「なので、オレはちょっと仕掛けてみたんだよね。会談は明日の朝にやりませんかってね。」
アイリスは引き続き興味MAXで聞いているようだ。軽く肘打ちしてきて早く続きをするように催促された。比呂貴は笑顔になって話を続ける。
「おそらく明日の朝に会談が開催されると思うけど、でも、こっちとして会談は明日の朝にしようと言っているのに、相手が時間をずらして来たらそれはこちらの要求通りにさせない意図を疑うことができる。さらに今夜にやりますとか言って来たら余計だよね。」
比呂貴はここまで話すと、今までハテナマークで覆われていたアイリスの雰囲気が一気にビックリマークに変わったように感じた。
そんなアイリスを感じながら比呂貴はさらに話を進める。
「まあ、ここまで話しておいてなんだけど、ぶっちゃけドラゴンたちはなんも考えてないだけかもしれないね。
考えてないのは、向こうがそういう知略的なことをする能力が無いのか、もしくはもともとドラゴンだし、会談とか交渉とか言いながらも結局のところは自分たちのドラゴンという立場を活かして相手に命令をするだけかもしれないよね。まあ、ドラゴンからしたら相手はたかだか人間だしね。はっきり言って雑魚だよ。
と、スケジュール感を確認しただけでこれだけのことを考えることができるんだよね。どう? アイリスは?」
この比呂貴の問いかけにアイリスは肘打ちで答えた。さらに数発両腕で肘打ちが飛んできた。
比呂貴はニヤニヤしながらさらに耳打ちをする。
「まあ、これはあくまでもビッツと会話をしただけのことだから、実際はリーダーの方と話をしてみないとわからないけどね。でもビッツもそうだけど、会話をすればある程度は相手の知略スキルってのは感じることが出来るから。
そして、事前にスケジュール感の確認を仕掛けて、これらを考えてから会談に臨むのとそうじゃないのとでは大違いになってくるわけだ。
とまあ、こんな感じ。」
「くやしーー! ムカつく!」
悪態をつくアイリスだが、比呂貴寄りに体重を預けてきて瞳はキラキラで見つめている。さらにアイリスは比呂貴に耳打ちをする。
「でもロキの言うことはわかるよ。ホントに言う通りだと思うよ!
やっぱり凄いなあ。歳で言ったら私よりぜんぜん年下なのになんでそこまで考えられるの? 魔法もスゴイのたくさん使えるし。悔しい! でも凄い!」
そんなことを言っているアイリスを比呂貴はとても愛おしく思う。ちょっと強めにギュッと抱きしめてアイリスに耳打ちする。
「大丈夫。アイリスは魔法も知略的なことも出来るようになるよ。
悔しいと思うのは成長したい表れだと思うし、今の話を凄いって感じられるなら知略的な素質も十分あるよ。流石はエルフの血もあるだけあるね!
だって、今の話、レイムに言ったところで、なにくだらないこと考えてるの? って一蹴されるだけだもんね。」
「フフフ。レイムならありえるね。
………私もなれるかな?」
アイリスはボソッと言う。それに比呂貴は笑顔で答えた。
そしていざドラゴンの国に到着した。すでに日が沈みかけていて夕方である。
国と言っても人間サイズの建物が多数あり村のようになっていた。ビッツと同じようなローブを来た人と何人かすれ違った。どうやらここではみんな人間に変身して生活しているようである。
ビッツはとりあえずだと思われるが、宿泊施設の一室に案内された。
「皆さま、長旅お疲れ様です!
そしてすいません。とりあえずこちらでお待ち下さい。私はリーダーへ到着の報告に行ってきます。私が戻ったら食事にしましょうね。」
ビッツはそう言って宿泊施設から出て行った。
四人としてはようやくちゃんとしたところでの一息であった。
「ふう。なんだかんだでかなり疲れたよね。でも今日はちゃんとした布団で寝れそうだな。」
比呂貴は椅子に寄り掛かりながら言った。
「ってかロキ! さっきはアイリスちゃんと何話してたのよ! めっちゃ仲良さそうで羨ましい、じゃなかった。ムカつくというか、っていうか、私もアイリスちゃんとイチャイチャしたいよー!」
レイムはもはや何を言っているのかわからない言葉を発していた。
これにはアイリスが答えた。
「まあ、ポンコツのレイムには難しい話だわ。」
それはもう流れるようにスルーして答えるアイリスであった。
「えーん。ファテマちゃん! アイリスちゃんがいじめるぅ!」
レイムはそう言ってファテマに抱き着いた。
「よしよし。レイムは良い子じゃぞ!
あと、話は儂も聞いておったが、わかるようなわからんような話じゃったから気にするでない。」
ファテマはレイムの頭を撫でながら答えた。
そしてみんなは疲れからか言葉数も少なく一時間ほど待ったであろうか。そしてビッツが戻って来た。
「皆さんすいません! 大変お待たせしました!」
「おかえり! で、これからはどうなるの?」
比呂貴がビッツを迎えつつも質問をする。
「はい。まずは会談の件ですが、リーダーに言いましたよ! それで明日の朝からということで了承しましたと言うことです。」
「おお! なるほど。それはありがたい!」
「あとは、本日はお疲れだと思いますのでゆっくりとお休みくださいということです。」
ビッツの言葉にアイリスは比呂貴にアイコンタクトを送る。それに気付いた比呂貴も笑顔で頷く。
そしてレイムがしびれを切らして言う。
「ねえ、そろそろご飯食べたいんだけど。お腹べこりんだよう!」
「はい! 食事もご用意しておりますよ。豪華な食事というわけにはいきませんが………。」
「いいよいいよ! 早く食べに行こうよ!」
「うむ。そうじゃな。儂もずっと空を駆けておったから腹ペコじゃわい!」
レイムとファテマは仲良く催促する。
そして一同は食事のために別の建物に行って食事を取った。そしてもと居た宿泊施設に戻って来た。
そしてビッツが説明を始めた。
「食事はどうでしたか? 口に合いましたかね?」
「うん。とっても美味かったよ! この辺、結構寒いよね? そんな中、かなり温まったし、癒される料理だったよ。」
比呂貴は答える。一同はみんな頷いた。
「いやー、それは良かったです! 私も見た目の豪華さはぜんぜんないんですけど、あのメニュー好きなんです。客人がいる時には一緒に食べられるんで嬉しいんですよね!
で、最後の説明をさせて貰いますね!
もう見たまんまですが、ここは宿泊施設です。客人専用となってます。合同ですが入浴施設もありますので旅の疲れを取って貰えればと思います。あ、でも今はロキ様たちだけですのでゆっくりしてくださいね。」
ビッツは説明をして満足そうにしていた。
「って、それだけかい! ホントに見たまんまの説明だけじゃんかよ!」
比呂貴はもはやお約束的にツッコミ担当となってしまっている。
「すいませんすいません。他になにか質問ありますか?」
「いくつか聞きたいけど、朝食はどうしたらいいの?」
「あああ、そうですよね。ぜんぜん説明が足りてなくてすいません!
朝食はロビーに人数分の軽食を置いておきますのでロビーで食べても良いですし、部屋で食べても大丈夫です!」
「なるほど。で、明日の会談は具体的には何時から? オレたちはどこへ行けばよい?」
「ぐはぁぁぁ。そうですよね。ぜんぜん説明ダメですね。私。
えっと、時間は十時からです。九時四十分に私がこちらに迎えに来ますので、それまでに準備をお願いしますね。
あ、ロキ様のリュックはとりあえずこの部屋に置いて貰って大丈夫です!」
「じゃあ最後、ビッツはどこに泊まるの?」
「あ、私ですか? せっかく国に帰って来たので自分の家に帰りますよ。両親もいますからね!」
「ああ、なるほど! そりゃあ、親にも顔みせておかないとな。了解。じゃあ、また明日よろしくな!」
「はい。お疲れ様です! また明日!」
ビッツは元気よく挨拶して施設を後にした。
「いやー、ホントにビッツは良い子だな。イケメンなのが惜しいよ。」
比呂貴はボソッと答える。
「はっ? 別にイケメンは関係ないでしょ? もうほんとモフモフと幼女以外には厳しいよ。」
レイムは冷たくツッコミを入れる。
「まあ、確かにドラゴンも色々じゃな。ビッツを見ておると、ドラゴンじゃからって何が何でも怯えなくて良いと錯覚してしまう。」
「あら? やっぱりファテマでもそう思っちゃう?」
ファテマの声に比呂貴が同調した。
「じゃあ、みんなお風呂に入って寝るとしますか?」
比呂貴問い掛けにみんなは頷いた。
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