第5話 いざドラゴンの国へ! しかし苦労しているようですね。

 そして再びドルクマン王国の城壁の外に集まるみんなである。

「それではドラゴンの国へ出発します! 私にはロキ様とレイム様が乗ってください。ファテマ様とアイリス様は私に付いて来て下さいね。」

 ビッツはそう言って再びドラゴンの姿になった。その後ファテマもユニコーンの姿になりアイリスを乗せた。


 ひたすら空の旅を続けて、すっかり日も暮れて周りの様子が分かりにくくなっていた。そんな中、まずは初日のチェックポイントとなるドラゴンお勧めの野宿ポイントに来た。ほどよい広さのある岩場の河原である。

「ここは魚も豊富で川にある岩も大きくて私もドラゴンの状態で寝られるので重宝しているんですよ!」

 ビッツはドヤッとしている。


「なるほど。とても心地の良いことはわかったよ。でもこんな真っ暗でどうやって魚取るんだよ! 確かに魔法を色々と駆使すればいけるかもしれんが、そもそもとしてそんな夜釣りのテクニックがオレらにあると思うなよ!」

 比呂貴がキレ気味にビッツに言う。

「もっ、申し訳ありません。ドラゴン的には特に二、三日くらい何も食事をしなくても大丈夫なのでそこまで深く考えていませんでした。」

 ビッツは苦笑いで答えた。


「やっぱりこんな落ちかよ!

 まあこうなるんじゃないかなぁ。なんて思ってたよ。余分に食糧買っておいて良かったよ。魚は明日にするとして、今日は簡単なものになっちゃうけどオレが作っちゃうね。」

 比呂貴は呆れながらそう言って、そして調理を始めた。

「おおおぉ。ロキの料理か! これは久々じゃのう!」

 ファテマの表情がパッと明るくなった。


 比呂貴の調理テクは昔に比べて格段に上がっている。食材を切ったり、火を起こすのは魔法で行えるからである。まるでマジックショーを行っているかのようにして料理をするのである。これにはファテマもアイリスも大喜びである。

 食事を済ませたら、流石に一日中の空の旅で疲れたのかビッツを除き、みんな寝てしまった。ビッツもみんなを見届けながらも就寝についた。


 翌日、比呂貴とファテマは以前河原でやったように雷と風の魔法を駆使して魚を取っていた。そしてみんなで朝食を済ませて再び空の旅へ出た。


 その後もひたすら飛行して二日目のビッツお勧めのチェックポイントに到着した。というか小さいが小屋のようである。これはもはや野宿では無い。しかし、深い森林地帯の真ん中に小さいがスペースを確保して小屋を建てている。周りに道は無くて陸路で来るのは不可能である。空路前提であった。


「これ、めっちゃ小屋やん! もはや野宿では無いよね?」

 比呂貴は謎の関西弁風な感じでビッツにツッコむ。

「はい。そうなんですよ。いやね、この辺ってどっからどうやって来たとしても野宿になることが多かったんですよ。なので、諜報員のみんなで作っちゃいました!」

 そう言ってビッツはテヘっとしている。


 部屋の中は二段式ベッドがふたつあり四人が寝れるようになっている。そしてキッチンらしき水回りがありトイレもある。水回りと言っても蛇口を捻れば水が出てくる水道はないが、しかし、設備としてはかなりしっかりとしているようである。

 そして比呂貴はビッツに尋ねる。

「設備はしっかりしているのはわかった。で、お腹も減ったからご飯にしたいんだけど、自給でいけるって言ってたよね? どこにあるの?」

「ああ、この辺は一年中温暖なところで外に行けば木の実や果物がたくさん成っていますよ!」

「え? こんな真っ暗でどうやって探せと?」

「………!? どうすれば良いんでしょうね?」

 ビッツが真顔で答える。


「えっと、昨日オレに散々言われたよね? こんな展開にはしちゃいけないって思わなかったわけ?」

 比呂貴はなんとかツッコミを入れたが、もはや呆れて感情は無く無表情である。

「すっ、すいませんですーーー!」

 ビッツはそう言いてスライディング土下座をかましたのである。


「まあ、こうなるのはなんとなくわかっていたんだけどね。ってことで、ここはレイムの出番だよな。レイムさんはサキュバスだし夜目は効くよね?」

「え? 確かに夜は問題ないけどダメだよ。怖いもん!」

 レイムは首を左右に振って答える。


「ちょっ、まさかお化けが怖い! なんて言い出さないよな?」

「失礼ね! 流石にお化けくらいは大丈夫よ。よほど凶悪な奴じゃ無いとね。私って魔族だしその上位の存在だからね。」

「え? だったら何が怖いんだよ?」


「夜目が聞くモンスターとか獣に決まってんじゃん! 例えばフクロウとかでもあいつらめっちゃすごいスピードで突っ込んでくるんだよ? めっちゃくちゃ怖いんだよ?

 だからダメに決まってんじゃん。」

 レイムは何を当たり前なこと聞いているんだと言わんばかりの表情である。


「………。

 そっか、お前も間違いなくポンコツだったわ。ビッツとは方向性が違うだけで。」

 比呂貴は呆れながら答える。そんな中、ファテマが言う。

「しかし、ビッツの言う通りかもしれんな。いろんな甘い香りがここまでするぞ。明日の朝は新鮮な果物が食べれそうじゃのう。」


「うん。明日の朝はそれを楽しみにするとしても今だよ! まあさっきも言ったけど、この展開は予想していたから、実のところ昨日の魚を燻製にしていたんだよね。今日はそれを調理して食べましょうかね。

 ほんと、これが危険予測ってやつだよ。まったくもう。」

「はい。勉強になります。」

 ビッツは心の底から関心の意を表している。


 そして比呂貴はまたまた簡単に食事を作ってみんなで食べていた。そんな中比呂貴はファテマに言う。

「ところでファテマさん! ファテマとアイリスはずっと二人だけどぶっちゃけ飽きない?

 せっかくこうやってドラゴンがいるんだから乗ってみようと思わない? かなり爽快で気持ちが良いよ!」

「あ、ぜひぜひ! 私、これでも空を飛ぶのはうまいと思ってるんですよ!」

 ビッツも快く言ってくれている。


「うーん。他の誰かに乗って空を飛ぶなんてこと、まったくもって想像もしたことなかったわい。しかも乗るのがドラゴンじゃぞ? 抵抗しかないんじゃが………。」

 ファテマの表情はもはや嫌なことを隠していないようである。それほど嫌そうに答えた。

「そ、そうですよね。ファテマ様はドラゴンが嫌いですもんね。すいません。出過ぎたことを言ってしまいました。」

 ビッツはドラゴンだというのに棄てられた子犬のようにしょんぼりとしてしまった。


「ってかビッツよ。振っておいてなんだが、そもそも四人を乗せて飛ぶことなんてできるのかよ?」

 比呂貴はふと思い立って質問をする。落ちが無いかしっかり確認である。

「もちろんバランスを取るためにスピードは落ちてしまいますがいけますね。それに四人と言っても二人は子供サイズですので大丈夫です。」

 ビッツは今度、期待の眼差しで子犬が上目遣いをするかのようにファテマとアイリスを見た。


「ええい。わかったわい! 乗ればいいんじゃろ? じゃが、午前中だけじゃぞ? しかし、なぜこのようなことになるんじゃ。まさしくロキマジックじゃわい!

 アイリも良いな?」

 ファテマは半ばやけになって言った。そしてアイリスにも同意を促す。アイリスはとてもとてもさらに加えてとても嫌そうにしていたがこくりと頷いた。


 翌朝。みんなは果物を取り朝食を済ませて出発する。前日話した通り、みんなでビッツに乗ってである。ずっと乗るかと思っていたが、ここは約束通り午前中だけで昼からはいつものメンバーで飛行していた。


 そして目的地に着いた。今回も森林地帯で、その中にあるそこそこ大きな湖であった。魚も泳いでいるのがチラチラと見えるし、木の実や食用の野草もたくさん生息しているようである。

 例の如く外は暗くて食事の準備はまったくもって存在してない状態である。魚の燻製の残りと前日にロキは果物をドライフルーツにしていたのでそれらを食した。

「この時期のこの辺は結構冷えます。私はドラゴンのままいますので皆さん密着して寝て下さいね!

 そして、明日の夕方までにはいよいよドラゴンの国へ到着ですよ!」

 ビッツはそう言ってみんなを呼び寄せる。


「レイムよ。今日はお主にぜひとも謝りたいと思っておる。」

 ビッツを中心に寄り添っているみんな。そんな中、おもむろにファテマが切り出した。

「えっ、なになに!? 急にどうしちゃったの? ファテマちゃん?」

 レイムは急のことで逆にビビッてしまいながらファテマに尋ね返す。


「いやな、今日、儂、ビッツに乗って空を飛んだわけじゃが、ぶっちゃけ言うとめちゃくちゃ怖かったよ。他人(ヒト)の運転ってめちゃくちゃ怖いもんじゃな。

 それなのに儂ときたらシルフィードと呼ばれて調子に乗ってめちゃくちゃ飛び回っておったわ。そりゃあレイムも怖かったであろう。これからはもっと気を付けて飛ぶようにするからのう。」

 ファテマはビクビクと怯えながら言っていた。

「ファテマちゃん!」

 そう言ってレイムは足まで絡めてファテマのことを抱きしめたのである。がんじがらめに抱き着かれているファテマだが、腕だけ出してレイムの頭を撫でていた。


 そして今度はアイリスがしゃべる。

「ところでロキ、ドラゴンとはどんな話をするの?」

「え? まあ、とりあえずは単刀直入にオレらに手を出すなってことは言うつもりだけどね。」

 比呂貴は普通に答える。


 しかし、アイリスはこれだけでは引き下がらない。まだまだ尋ねてくる。

「どうせロキのことなんだし、他にもいろいろとあるんでしょ?

『交渉』とか『権謀術数』とかいろいろとあるじゃん!」

「いやー、そう言われても現時点でホワイトドラゴンのことはまったくわからないしね。ビッツはぜんぜん参考になりそうにないし。事前交渉もないから一から会話していくことになるかな。」

 さらにロキは答える。アイリスは興味津々で聞いている。


『来た! アイリスのなぜなぜどうしてモードが発動したぞ! 最近は特にふたりになるといろいろと聞いてくる。

 でもこれ自体は悪い事じゃないよね。アイリスがしっかりとした自我を持ってそれで成長したいという気持ちの表れだと思っている。そんなアイリスを無下にはしたくないものだ。』


 比呂貴はそう思いながらもう少し話を続けた。

「ちょっと話が逸れるかもしれないけど、会議をする上での注意というかそういうのはあるよ。ドラゴンたちがどういう風に話を進めてくるかとかね。」

「うんうん。それで?」

 アイリスは待ってましたと言わんばかりに目をキラキラにしている。


「こちらとしては『ちょっかい出すな』というのが議題なわけだけど、話し合いをしていくとどんどん話が逸れることがあるんだよね。それも頻繁に。

 でもまあ、議題に沿って話が逸れていくなら良いんだけど、それってその議題に足りていない話題ってことだからね。でもね、本当にぜんぜん違う話を差し込んでくることもあるんだよ。」

「え? どういうこと? 議題をちゃんと確認しているのに?」

 比呂貴の説明にアイリスが不思議そうに尋ねる。


「そそ、ホントに不思議なんだけどね。

 でも、敵対する場合は敢えて話を逸らしたり、言葉の揚げ足を取ったりするんだよ。そういう風に演出をしてきたら、逆に相手は自分たちを快く思っていないと判断して会話を進めていく必要があるよね。

 平和的に話を進められれば良いけど、まずはホワイトドラゴンたちが自分たちをどのように思っているかを図りたいと思っているよ。」

「へえ。なるほど。確かにそうだよね。私もちょっと気を付けて聞いてみることにするよ!」

 アイリスは語気荒めで答えた。



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