第4話 なにやら怪しいやつがいるようです。イケメンだけど。

 翌日。これまた比呂貴たち一行は冒険者登録所に向かおうとしていた。

「とりあえず、予定が無いから毎日冒険者登録所に来ていたけど、流石に今日も音沙汰無しだったら一回ダンのところに戻るのもありだよな。」

 比呂貴は歩きながらみんなに言った。みんなも何となく頷いていた。

 そんな時に一人の男が比呂貴の前に現れた。真っ白なローブにフード。見た目だけだと魔法使いのようであった。そして比呂貴たちに話しかけてきた。


「ロキ様。」

「え? オレ?」

「はい。そうです。ロキ様です。」

「はい。なんですか? っていうか、あんた誰? かなりイケメンだなあ。オレ、イケメン嫌いなんだよなあ。」

 無粋に話しかける人、見た目などはとても清潔そうであるが、もともとイケメンが嫌いな比呂貴は無粋に話しかけてくる男にちょっとムッとしていた。


「あ、大変失礼致しました。」

 白のローブの男は深々と頭を下げた。非礼をすぐに詫びる。そこまで失礼な人では無さそうである。そして男は話を続けた。

「私の名前は『ビッツ』と申します。とりあえず立ち話もなんですし、カフェで話を聞いて頂けませんか?

 皆さんも一緒にお願いします。もちろん皆さんの分のカフェ代は私が負担させて貰いますので。」


「ええ? どうすっかなあ。」

 明らかに嫌そうにする比呂貴である。

「あんた、本当に欲望に忠実よね。モフモフと幼女以外には容赦無いわよね。」

 レイムはジト目というよりは、いつも通りゴミを見る目で比呂貴にツッコミを入れる。

「まあ、確かに怪しい奴じゃが、こうやってドラゴンスレイヤーのロキに直談判をしようとしとるのじゃ。その心意気に免じて話くらいは聞いてやれば良いと思うがな。」

 ファテマが比呂貴を見ながら言う。


「うーん。じゃあ、ファテマさんに免じて話を聞きますかね。いやはや、ホントにファテマさんは優しいな。マジもんで聖母だよ。」

 比呂貴はそう言って、みんなと一緒にカフェに行くのである。


「皆さま、お忙しいところありがとうございます。改めまして、私は『ビッツ』と言います。よろしくお願いします。」

 ビッツと名乗った男は丁寧に自己紹介をしてくれた。

「で、何の用なの?」

 比呂貴はムスッとしながら答える。明らかに態度が悪い。比呂貴のイケメン嫌いは相当のモノである。だんだんと比呂貴の方が悪人になってきているようである。


 そんな態度の悪い比呂貴をよそにそれでもへこたれず丁寧に応対するビッツである。

「えっと、ドラゴンの国へ行くためのクエストを提示されていたかと思います。その件になります。」

「え? クエスト受けてくれるの? ってか、こんな直で話に来るのはルール違反じゃないの?」

「いえいえ、ちょっと違います。そのクエストは取り下げて下さい。」

 ビッツは笑顔で言う。


「!?」

 一同はみんなフリーズしてしまう。


「あ、えっと、すいません。話がうまく説明できてないですよね。私がドラゴンの国へ連れて行ってあげます。」


「?????」

 一同はさらにハテナマークでいっぱいとなっている。


「あああ、なんかごめんなさい。本当にごめんなさい。私説明が下手で………。

 えっと、私、実はホワイトドラゴンなんです。国のリーダーとも確認が取れました。リーダーがお会いしたいということなので私が使いとしてきたわけです。ホワイトドラゴンの国へご招待致します。なので、クエストの提示は取り下げて下さいということです。」


「なるほど!」

 みんなは口を揃えて答える。


「だったら最初からそう言ってよ。ぜんぜん意味が分からんかったわ!」

 比呂貴が普通にツッコミを入れる。

「ああ、本当にごめんなさい。私、みんなから説明が下手だってよく言われるんです。自分でもそれなりに自覚はあります。」

 ビッツはバツが悪そうに答えた。


「まあ、話は分かったけど、でも本当にホワイトドラゴンなの? 見た目、めっちゃ人間じゃん。ファテマさん。その辺の気配とかはどうよ?」

 比呂貴はそう言ってファテマに尋ねた。

「いや、見た目もそうじゃし、気配や圧みたいなものも人族そのものじゃな。」

 ファテマも怪訝(けげん)そうに答える。


「それはそう、あれです。

 私の場合は、皆さんのようにヒト化というよりは、魔法で完全に人族に変身しているのですよ。だからちょっとやそっとのことじゃあバレませんよ。」

 そう言ってビッツは若干ドヤッとしている。


「へえ。まだ若干信じてないところはあるけど、ちなみにドラゴンの国へはどうやって行くの?

 めっちゃ遠いんでしょ? なんか準備してくれてるわけ?」

 比呂貴も怪訝な雰囲気で言った。

 みんなからの不信感を目の当たりにしているが、それでもビッツは丁寧に答えてくれた。アイアンハートの持ち主のようである。

「えっと、すいません。特に乗り物は準備していません。

 ファテマ様はシルフィードのふたつ名もあり、空を自由に飛べると聞いています。私もドラゴンの姿に戻れば空を飛べます。空からであれば無理の無いスピードでも四日程度あれば着きます。途中、私おすすめの野宿ポイントなんかもありますので!


 陸路で行くとどれだけ早くても十五日は掛かりますし、何よりお金がものすごくかかります。なのでそれに比べたら空路はぶっちゃけ無料ですので断然お勧めです!」


「ふーん。なるほどね。

 でもあれだなあ。とりあえずは本当にホワイトドラゴンなのかどうかを確認してからかな? 今の状態じゃあどこまで本当なのかわからないからね。」

 比呂貴が一言いう。

「なるほど。確かに皆さまが疑ってしまうのも無理はありませんね。まあ、ここではなんですので、城門の外でお見せしましょうぞ!」

 ビッツは席を立ちあがりながらコブシを握り答えた。すると、



 ゴン!

 がっしゃーーん!



「アイタタタ!」

 ビッツは席を立つときに膝を机にぶつけたようである。机の隅にあったティーカップは床に落ちて割れてしまった。

「わあ、すいませんすいません。」

 ビッツは割れたティーカップを拾い集めようと思いそちらへ向かおうとする。しかし、


「あっ!?」


 特に何も無いのに自分の足に絡まって、そしてそのままレイムの方へ倒れていく。


『ムニュ。』


 キャッチしたのはレイムの胸であった。


「ふう。助かりました。ありがとうございます。レイム様。」

 そして何事もなかったかのようにスルーして起き上がろうとするビッツ。

「ちょっと、何が助かりました。だよ! この変態!」


『バシッ!』


 レイムから壮大にビンタを食らうビッツであった。


『これ、レイムだったから受け止めてくれたけど、アイリスの方へ倒れていたら間違いなく華麗にスルーで地面に激突だったな。しっかし、さわやかイケメンなのにこんな第一印象最悪なのも珍しいな。』

 比呂貴は苦笑いで思っていた。


 一同はとりあえず外へ出て、ビッツは会計のために店に残っていた。ちなみに会計の際というと、お店の人は特に弁償は必要ないと言って貰っていたのだが、ビッツはどうしても弁償したいということで少し多めの会計をしていたのである。


 比呂貴たちはビッツの会計を外で待っており、そしてビッツがやってきた。

「それでは行きましょうか!」

 ビッツは元気よく発言してそして一歩を踏み出そうとしたところである。


「ふぁっ!?」


 ビッツはなぜか何も無いところなのにバランスを崩して顔から地面に激突をした。その際に少し変身が解けたのか尻尾が見えていた。


 そんな光景を見て比呂貴は思う。

『なっ、なんなんだ? カフェを出るところに段差遭ったのにそっちは大丈夫で、今は何にも無いところで転んで、転び方も顔面から激突とかどんなアニメだよ!

 しっかし、超爽やかイケメンなのにおっちょこちょいというか、まさにマンガやアニメで見るテンプレ設定そのまんまの奴だな。お陰でぜんぜん締らないというか………。


 みんなから、というかむしろオレからクソ味噌な扱いも受けてなお礼儀正しく振舞おうと頑張っているしイケメンなのに報われないヤツだしね。これもひとつの残念系の形ということか。こういうヤツだとちょっと優しくしてやりたくなっちゃうな。

 あれ? そういやこのキャラパターンは!?』


 そして比呂貴はレイムの方を見てボソッと呟く。

「レイムさん。」

「ん!?」

「なんか、ビッツとキャラが被ってますけど大丈夫ですかね?」

「なっ! こんなのと一緒にしないでよ!」

「いや、でもポンコツはレイムさんの専売特許で唯一無二のアイデンティティーじゃん!」


「そうそう、私のアイデンティティーなんだよ。ポンコツは! って、どさくさにポンコツ言うな!

 あ、いや、でも最近はポンコツ可愛いという声も多数あるのも事実。この路線もありかなって検討もしていた………。

 だとするとこいつはやっぱり邪魔か!?」

 レイムがブツブツと呟く。最後の方は真剣にというか切実になっていた。

「えっと、誰もポンコツ可愛いだなんて言ってないけどな。」

 比呂貴がツッコミを入れていたがレイムには聞こえなかったようである。


 そんなことを言いながらも一同はドルクマン王国の城壁の外に来た。

「さてさて、それでは変身を解きますよ! これでもドラゴンの姿は自分でもイケてるって思ってるんですよ。」

 そう言いながらビッツは魔法を解き、本来のドラゴンの姿に戻ったのであった。

「おおおぉ! やっぱりドラゴンはカッコいいなあ!」

 比呂貴は思わず声を漏らした。

 身体の頭から尻尾の先まで真っ白。白さ具合ではファテマさんといい勝負。しかし、シルエットがやっぱりドラゴン。迫力があるカッコよさである。


「どうですか? これで信じて貰えましたかね?」

 ビッツはドラゴンの姿のままみんなに語りかける。

「いやまあ、実はさっきビッツがこけた時に尻尾が見えたからね。ああ、そうなんだろうなって思ったから。」

 比呂貴はネタばれされた手品を見ているように答えた。


「あれ? みなさん反応が薄いですね? ドラゴンですよ? カッコよくないですか?」

 そしてビッツは自分ではカッコいいと思っているのであろう謎のポーズを何通りも試している。

 確かにシルエットはドラゴンでとてもカッコいい。しかし、しゃべっている内容は超小物感で溢れている。


「と、言われてもなあ。儂らドラゴンには散々な目にあわされておるからのう。」

 ファテマがボソリと呟く。アイリスも何やら複雑な表情でファテマに寄り添っている。レイムはまた別の意味で敵対心をむき出しである。

「えええ? 私はそんなことはしませんよ!」

 ちょっと泣きべそのビッツであった。


『うわぁ。オレとしてはドラゴンだしドラゴンの姿も人間の姿もイケメンだし、これはモテるからやだなあとか思ってたけど、必ずしもイケメンだからといってモテるわけじゃないんだな。オレ、もっと頑張れるかもしれない。』

 比呂貴はビッツを見て謎の自信を付けた。と思ったのだがふと気付く。


『いやマテ! 騙されるな!

 これはイケメンの問題では無いぞ。ビッツとここにいる三人の女子の問題だ! ビッツはドラゴンだし当然のことながらファテマとアイリスは良い気持ちにはならない。レイムとしてはキャラ被りを警戒している。


 それにここにいる三人。そもそもとしてイケメンに興味無さそうだ。ファテマさんは聖母だしぶっちゃけ誰にでも優しいし、好きな男性のタイプは? って聞いても好きになったヤツがタイプじゃ! とか言いそうだし。

 アイリスは基本的に男嫌いだし、そもそもファテマ以外は興味ないし、レイムは………? まあ、いいかな。


 ってことでやっぱりイケメンとかの問題ではないな。あと、ドラゴンでイケメンなのにこれほどモテないビッツ。逆に哀れになってきたな。ってことでやっぱりちょっとは優しくしてやらないとな。』


 比呂貴の長い妄想があったが、比呂貴一行はビッツと空路にてドラゴンの国へ向かうことにしたのである。

 まずはドルクマン王国で依頼の取り下げや食料などを買い込んでだ。ビッツが言うには一応野宿ポイントでは自給にて食料を調達できるらしいが、まあ備えあればなんとやらである。少なくともお昼ご飯は必要である。


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