ドラゴンの国へ行きますよ!編

第1話 クエストをだしてみよう!

 ドルクマン王国の西の宿屋街。ここにみんな宿泊していた。

「うーん。良く寝たなあ。昨日は遅くまで散々暴れたからなあ!

 って、最近イベントをこなした後はいつもこれだな。ハハハ。」

 時間は十時半くらいであろうか? 朝食には遅く、昼食には早い中途半端な時間である。

 ファミリータイプの部屋を借り、みんな一つの部屋にいた。本当はチェックアウトの時間は過ぎており清掃に入りたいということだったが、そこはファテマたちがカネの力と清掃は不要でもう一泊するということで何とかしていた。


「あれ? みんなお揃いで?」

 比呂貴がとぼけながら言う。

「お揃いもなんも、もう十時半じゃしのう。みんなすっかり起きておるわ! この寝坊助めが!」

 ファテマがそんな比呂貴に声を掛ける。もちろんジト目である。

「ひゃん。ごめんなさい。」

 比呂貴はとりあえず謝っておいた。


 そして比呂貴とファテマは話を続ける。

「で、ここはドルクマン王国の宿屋ってことでOK?」

「オーケーじゃ! ホントにとぼけよってからに。」

 引き続きファテマは答えてくれる。

「それはごめん。

 でもでも昨日のオレ、結構頑張ったと思うのにその反応はツライム………。」


「うむ。昨日の件は感謝しておる。本当にありがとうな。お陰で何事もなくピンピンしておるわ。アイリもそんな感じだ。」

「うん。私もぜんぜん平気。ロキ、ありがとうね!」

 ファテマとアイリスは遅くなったが笑顔でお礼を告げた。さらにファテマのモフモフの尻尾もフワッフワで軽快に左右に揺れていた。そのふたりの笑顔とモフモフ尻尾を見ただけで比呂貴も笑顔になり報われた。


 さらにファテマが言う。

「ロキが休んでいる時にレイムからいきさつはだいたい聞いておるよ。モンルード公爵の陰謀の話とか、魔族のミダマとの戦闘とか、それに北のドラゴンの国に行くとかな。」

「そそ! そうなんだよ!

 ドラゴンのことを聞くならドラゴンにってことになってね。それでドラゴンの国に行ってみようかと思うんだよね。

 どうかな?」

「まあ、もともとレッドドラゴンの住処を探しているんじゃし、それは良いと思うぞ。

 だが、昔の我らだとドラゴンの国へ行こうなどという発想が無くてな。まあ、これも今さらなのじゃが………。」

 ファテマが遠い目をしながら答えてくれた。


「アハハハ。確かにオレもファテマと初めてあった時、ドラゴンに追われてて肝っ玉冷え冷えに縮んだけどね!

 でもなあ、結局のところそのドラゴンの国へどうやって行っていいかわからんのだよな。」

 比呂貴が神妙な顔になる。そこへレイムが話に割ってきた。

「だったらさあ、冒険者登録所でクエストを出せばいいんじゃないかな? ドラゴンの国に行くためのね。せっかくドルクマン王国にいるんだしさ!」



「!?!?!?!」



 レイムの言葉に一同みな固まるのである。そんな固まりの中で比呂貴が言う。

「なっ!? レイム! おまえ、それをもっと早く言えよ!!!」

「そんなの貧乏人の私に『クエストを出す』なんて発想あるわけないじゃん! それにみんなだって気が付かなかったのに、私にそんなこと言うの酷いよぉ。なんだよう。せっかく気付いてあげたのに!」

 レイムは逆ギレで鵬を膨らませて怒っていた。。


「うーん、レイムの開き直りは最低だが、確かにドルクマンでクエストを出せば良いんだよ。なんで今まで気が付かなかったんだよ………。

 オレもダンに依頼をするってとこまでは意識が回ったんだけどなあ………。」

「そうでしょうそうでしょう! なんならもっと感謝しても良いんだけどね! 良いんだよ?」

 レイムは腕を組み、ドヤ顔で威張っていた。

「これはこれでイラッとくるものがあるが、でもまあ褒めて遣わす! こっちに来なさい。」

 そう言って比呂貴はレイムの頭を撫でた。


「ふむふむ。これはこれで悪くないわね。」

 レイムのドヤがいよいよMAXになりはじめたところであった。

「誉めるよ、べたほめだよぉ! 存分に褒めてやるよーーー!

 よーし、よしよしよし!」

 比呂貴も最初は心地よくレイムを撫でていたが、そのスピードはどんどんと上がっていき、もはやこすっていると言ったほうが正確なレベルにまで来た。

「ギャーーー。は、禿げちゃうよ!」

 レイムは飛び逃げて、ファテマの後ろに隠れてしまった。そしてファテマの隙間から一言いう。

「もう、褒める時くらいは素直に誉めなさいよね! まったく!」


 ということで、比呂貴は軽くパンをかじりながらみんなと冒険者登録所へやってきた。

 そして扉を開く。

 すると一瞬周りがざわざわとざわめいた。それもそのはず、ドラゴンスレイヤーのロキ一行である。昨日もミダマを退けてモンルード公爵を失脚させた当人である。そりゃあ周りもざわめき立つのもしょうがないところであろう。


「あ? なんか微妙な雰囲気? 確かにここに来るときにも街が騒がしかったもんな。」

 比呂貴は苦笑いで呟いた。そんな比呂貴に対してレイムは言う。

「何を呑気な事言ってんのよ。そりゃあ、公爵をボコボコにしたんだからあたりまえじゃん。今も屋敷は焼け野原よ。ほら、サッサと行くわよ。」


 そして冒険者登録所の三階へやってきた。受付窓口が六つくらいある。これは銀行や郵便局のようなイメージであろう。そして比呂貴一行は空いている受付のところへ向かった。

「いらっしゃいませ。今日はどのような要件ですか?」

 受付のお姉さんは応対をしてくれた。下の雰囲気とはまた違い、これはこれでまさしくお役所的事務作業としての対応である。


「えっと、仕事の依頼をしたいのですが、どうしたら良いかわからないのでいろいろと教えて貰いたいんですが。」

「はい。わかりました。少々お待ちください。」

 受付のお姉さんは淡々と作業をこなしていた。そして書類を二枚渡された。

「一枚目の紙には申込者の情報と依頼内容を詳細に記載してください。二枚目には壁に張り出す用です。下でクエストの張り紙があったと思いますがそちらのことになります。

 終わったらまた窓口に持ってきて頂ければと思います。時間が掛かりそうなら一度持ち帰って貰っても構いません。」


「わかりました! じゃあ、いったん書類を受け取って準備します。」

 比呂貴は元気に返事をして書類を受け取った。そして近くのカフェバーのランチタイムに来ていた。

 一通り注文をして比呂貴が言う。

「時は来た! キーン!

 とうとうオレの勉強の成果をみせるときが来たようだな! この申込用紙はオレが書くぜ!」

 比呂貴は謎のSEを付けながらドヤッている。


「本当に大丈夫なのかのう?」

 無駄に自信たっぷりの比呂貴を横目にファテマが苦笑いで答える。逆に心配になるやつであった。

「え? 大丈夫だよ! たぶん。きっとね………。

 まあ、わかんなかったら教えてね!」

「まあ、それは良いが。」

 比呂貴の答えにもはや呆れるファテマであった。


 テーブルには食事も揃い、おのおの食べ始めていた。そんなところで比呂貴が思い出したよう言う。

「そういや、ぜんぜんダンとコミュニケーション取ってねえな。そろそろ状況報告でもしておかないとなあ。クエストの依頼出したら一度戻るかな?」

「それなら儂が行こう。クエストを出してすぐに応えてくれる人もいるかもしれんしな。ロキはこの辺におったほうが良いじゃろうて。

 それに前の依頼では大失態をしておるしな。これくらいのお使いはこなしておかねばな。」

 ファテマは快く言ってくれた。


「マジか? それはとっても助かるよ!

 じゃあ、アイリスに………、というか、状況が良く分かっているレイムを連れて行かないとダメか?」

 ロキがレイムの名前を出した時、一瞬固まるレイム。

「うーー、うーーー!」

 口にいっぱいモノをほうばりながら声にもならない声で左右に首を振りながら叫んだ。


「ちょっとお行儀が悪いわよ。レイム。」

 アイリスは冷静に食事をとりながら言う。一度口の中のモノを整理してレイムが再度言う。

「わ、わたしムリ! りーむーだよ! 今度こそ消えちゃう!」

 レイムはファテマとの空の旅がトラウマとして相当刻まれているみたいである。

「なっ、何を失礼な!」

 ファテマはあまりのレイムの拒否っぷりに不愉快になる。

「あああ、違うのファテマちゃん! ファテマちゃんのことは大好きだよ!

 でもでもそれとこれとは何と言いますか………。」

 必死に取り繕うレイムだが、しゃべればしゃべるほど逆効果であった。


 それに間に入って比呂貴が言う。

「た、確かにレイムの気持ちはわからんでもないけどね。

 でもでも、全然急がないから。馬車と同じくらいのスピード感で良いからさ。今日中に向こうに着く感じで、向こうで一泊して戻ってきたらいいよ。それなら大丈夫でしょ? ゆっくりの空の旅なら絶対に快適だと思うよ!

 ゆっくりでも空は飛べるよね? ファテマさん?」


「ふむ。それはそれで可能じゃが………。」

 返事はしてくれるファテマだったがどうにも腑に落ちていないようである。

「そ、それなら頑張るね。」

 食事が終わっただけだというのにすっかり焦燥しているレイムであった。

「あ、そうそう。ファテマさん! ついでに一度宿の清算もしといて! 結構ツケが溜まっているでしょ?」

「ふむ。わかったぞ!」

 比呂貴の依頼に対してファテマは返事した。今度は快く。


「ねえ、ロキ!」

 ここでアイリスが話に入ってきた。

「ん? どうした?」

「うん。壁に張り出す用のイラストだけど、それ、私にやらせてくれない? 絵を描くの結構好きなんだよね。実はもう頭の中で描きたいのが浮かんでるんだ。」

「へえ。そうなんだ。オレは、絵はあまり得意じゃないからそれはお願いしようかな!」

「うん。任せて!」

 アイリスは可愛らしい笑顔で返事してくれた。


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