第8話 対決! 比呂貴とミダマ


 がしかし、そんな雰囲気をミダマが水を差して比呂貴に話しかける。

「まずは人質開放おめでとう。なかなかやるではないか。」

「いえいえ、とんでもありませんよ。あの糞ブタ公爵殿が余りにも単純(バカ)すぎたおかげですわ。むしろこっちが助かりましたよ。

 ハハハハハ。」


「相変わらず口が減らないようだな。しかし、無抵抗な状態で嬲るよりも、真っ向から来たものを返り討ちにして凹ませてこそ嬲り甲斐があるというもの。存分に掛かってくるが良い。」

 そう言ってミダマは右手から炎、左手からは氷を出してきた。火と水も対極にあるもので同時に扱うのはとても難しいはずなのだがなんなとこなすミダマ。流石は魔族と言ったところであろうか。そんな魔法を比呂貴にぶつけてきた。火と水が交差して空間が揺らいで歪んでいるようである。


 比呂貴は現時点では飛べない。魔法でなんとかなると思っているが、風で飛ばすよりも重力を操作したほうが良いのは分かっている。しかし、流石に自分を浮かせるための理論はわかっていないのである。

 しかし、相手が飛んでいる場合は少し対策を練っている。ちょうど今のように、部屋も広く天井も高いとはいえ所詮は部屋の中。これくらいなら部屋全体に重力を掛けて相手の足を止めることである。


 比呂貴はドラゴンの皮膚と回復能力があることを前提にしてミダマの初撃をあえて受け止め、受け止めながら部屋前方に重力を掛けていった。

 しかし、攻撃そのものはとても痛い。激痛に顔が歪むが集中を切らさずに自身の魔法を掛けていくのである。

 ミダマは魔法を放ったモーションがあったせいでその重力場から逃げることが出来なかった。

「くっ。なんですかこれは!?」

 宙に浮いていたミダマだったが自分の重さに耐えられなくなり地面に足を付いた。

 比呂貴はそんなミダマに対してさらに重力を掛けていく。



 ミシッ、ミシッ、ミシッ………。



 今度は建物が自身の重力に耐えれなくなり軋む(きしむ)音が聞こえてきた。



 パリン! パリパリパリッ!

 まずは下品に装飾されたシャンデリアが割れる音が聞こえる。そしてさらに、



 バキッッッ、バキバキバキッ!

 ドドドドドーーーー。



 とうとう、公爵の屋敷は豪快な爆裂音と共に建物が崩壊してしまった。

 そして崩壊とともに一緒に落ちていくミダマ。比呂貴は重力の魔法をいったん解き、落ちていくミダマに対して飛び込んで殴りに掛かっていた。

 この状況、考えればもっと良い戦闘方法があったはずであるが、どうしても一発は物理的攻撃を食らわさないと気が済まないらしい。

 ミダマとしても落ちながら比呂貴が攻撃してくるところが見えたので自身にサンダーボールの弾幕を張っていた。



「おおおおりゃああああーーーー!」



 比呂貴は雷の魔法が見えたが、そんなものは関係なくミダマに殴り掛かる。しかし比呂貴としてもただ殴りかけていたわけでは無い。自身の拳に空気を超圧縮して、インパクトした瞬間スパークさせるようにしていたのである。



 ボフッッッ!


 バチバチバチバチ。



 インパクトした時に鈍い音が辺りに響き、その後、爆竹音が後を追うように鳴り響く。


 比呂貴は先ほど自身をかまいたちで切り裂いたこともあり、上半身の服はすっかり無くなっていた。そしてサンダーボールに突っ込んでいったこともあり、あちこち火傷をして掻き傷のようなものも多数出来ていて血も滲んでいた。

 一方ミダマはというと、これは本能的だととしか言えないが、インパクトの瞬間身体を少しずらして直撃を避けていた。が、しかし右肩から先は消し飛んでいた。


 ミダマはそのまま後ろに距離を取り、肩と腕を再生させながら言った。

「いやはやとんだ化け物ですね。身体の再生も始まっていて、もはや人族ではないでしょう?

 油断して奢っていたのはどうやら私の方だったようですね。最初に全力で行けば勝つのは容易かった(たやすかった)ですが吹き飛ばされた腕と再生した腕のお陰でだいぶ魔力を消費しました。

 この状態で戦い続けるのはとてもリスクが高い。今回は私の負けということで引かせて貰いますよ。」


「いやはや、ミダマさんよ。勝手に決着しているようですが、こちとらそんなんで納得するはずないでしょう?

 公爵の屋敷ごと火の海にする覚悟でここまで来てるんですけどね?」

 比呂貴は不満そうに言った。するとミダマは提案してくれた。

「ふむ。確かにそうですね。負けたのであれば勝者に何か献上しなくてはね。

 今後、私と私が作る組織はロキには一切関わらないことを約束しよう。そして今後ロキに何かあった時、私がひとつ何でも協力しよう。

 これではダメかね?」


 この言葉にレイムが反応した。レイムはファテマとアイリスと二階に居たが崩壊した部屋を二人抱えて比呂貴の近くに降りて行った。

「ちょっとロキ!

 ミダマさんにそこまで言わせたんだから、ここはその提案に乗っちゃいなさいよ!

 このまま戦っても、ロキもタダでは済まないわよ。」

「そっか。確かにそうだな。せっかく負けを認めてさらにそこまで言ってくれてるんだから拒否る理由もないな。

 わかったよ。その条件の提案を受けよう!」


「ふむ。よろしく頼む。深く長い付き合いになりそうだ。

 ということで、公爵殿との契約とも言えないものはここで終了だ。あとは自身で何とかしてくれ。」

 そう言ってミダマは姿を消した。

「ミダマ先生ぇぇぇ! そ、そんな馬鹿な!?」

 公爵は悲痛な叫びをあげて空を崇める。


「あ、そういやお願いってどうやってしたらいいんだよ? 居場所がわからんぞ?

 まっ、その辺は後で考えるとして今は………、」


 比呂貴はその辺で転がっている公爵のところへ向かう。一歩ずつ。向かいながら言い放つ。

「さてさて、公爵殿よ。どうしてくれるんだろうねぇ?」

「ひぇぇぇぇぇええええ!

 すっ、済まなかった。お詫びと言ってはなんだが、儂に出来ることはなんでもしてやろう。

 金か? 地位か? はたまた女か? 奴隷か?」

「ハッハッハ!

 まさにお約束の展開だな。しかし公爵さんよ。ミダマが居なくなった時点でもうお前に何か出来る能力は残ってないんだよね。いわゆる、失脚だよ。


 失脚!


 大事なことなんで二回言っちゃったよ。」


 そう言って比呂貴は公爵の右手を掴む。

「んでもって、さっきファテマを触ったのはこの手か?」

「うぎゃああああぁぁぁあああ!」

 公爵が下品な声で甲高く叫ぶ。

「いや、マジで許さん。許さんからな。」

 比呂貴はそう言いながら掴んだ手から炎が出て公爵の腕を燃やしていく。そして火が全身に移り渡り、まさに焼き豚状態になろうとしていた時である。



「ロキ!」



 レイムが叫んだ。

 その声に比呂貴は冷静さを取り戻して水を発生させて公爵の火を消した。全身軽く火傷はあるだろうが命に別状はなさそうである。しかし公爵は当然の如く気を失っていた。

「レイム。ありがとう。今回はレイムに助けられっぱなしだな。」

「ホントよもう!

 でもロキも人の子ってことがわかってよかったわ。でもまあ、能力はもう人族じゃないけどね。」

 そう言って軽くグーパンチをするレイムである。


「ってか、こんなところで油売ってる場合じゃないんだった! レッドドラゴンだよ。レッドドラゴンの住処探さなきゃいかんのに!」

 比呂貴が不意に思い出して叫んだ。

「それなら北のドラゴンの国に行ってみては如何かな?」

「うわっ! びっくりした!」

 急にミダマが声を掛けてきたので驚いてしまう比呂貴。

「ちょっと、今のは本当に分かんなかったよ。これっていつでもオレの事を暗殺出来ちゃうってことじゃん………。」


「いやはや、流石にそんな無粋なことはせんよ。そこは安心してくれ。」

 ミダマは苦笑いで弁明する。そして話を続ける。

「ドラゴンの情報というのなら同じドラゴンに聞いてみるのが一番だと思うので言ってみたのだが。

 しかし、私もドラゴンの国は行ったことが無いので無駄足になってしまってはすまんのだがね。」


「なっ、なるほど。それは確かに気が付かなかった。簡単なことじゃん!

 ちなみにそのドラゴンの国ってどの属性のドラゴンが居るの?」

「ふむ。ホワイトドラゴンがいる。特にこちらから敵意を向けなければ種族的には友好的なドラゴンである。ただ、したたかさはあるようだがな。」


 比呂貴とミダマが話しているところでちょうどファテマとアイリスが同時に起きてきた。

「ファア、良く寝たのう。」

 ちょっと寝ぼけていたファテマだが、すぐに意識を回復させて臨戦態勢に入る。

「ロキ、注意せい! その魔族はマジでヤバいぞ!」

「あれ? ここはどこ?

 わたし、確か鬼の魔族と戦ってたはず???」


「ふたりとも警戒を解くが良い。我はロキに敗れて今後皆に手を出さないことを誓っておる。」

 ミダマは二人に説明してくれた。これに対してファテマがびっくりした表情で言う。

「なに? ロキはこの魔族をも倒したというのか? いったいどうなっておるんじゃお主は?」

「いやいや、今回は先手必勝で一撃を食らわすことが出来ただけだよ。それで退いてくれただけ。まともに戦っていたらどうなっていたかわからないよ。たぶん、いつでもオレを倒すことはできると思うよ。

 あと、ミダマ。ちょうど良かったよ。さっき、なんでもひとつ言うことを聞いてくれるって言ったけど、いざその時が来たらどうしたらいいのよ?

 連絡手段が無いんだけど?」


「確かに。それは迂闊であった。今後は私も居城を持とうと思っておる。それが出来たら一度招待することにしよう。

 ちなみに、私としてはドルクマンかベアーテ・エンデルに居て貰えれば探すことが可能なのでレイムが叫んでくれたら呼びかけに応えることができよう。」

 ミダマが答えてくれた。

「なるほど。どういう仕組みでそれができるかは不明だけど、ミダマがそれをいうならそういう方法があるんだろうね。了解したよ。」

「では私はこれで失礼させてもらう。良い旅路を。」

 そう言ってミダマは姿を消した。今度こそどこかに行ったみたいである。


「ところでレイムはどさくさに紛れていつまで私に抱き着いているつもり?」

 アイリスがちょっと低い声でレイムに言う。

「え? いいじゃん。私もめっちゃ怖かったんだよぉー!

 それに、今回私、めっちゃ頑張ったよ! そうだよね? ね、ロキ?」

 レイムは比呂貴に懇願するように同意を求める。

「うーーーん。確かに頑張ったと言えば頑張ったかなあ。」

「なっ、なに、その歯切れの悪い反応は!!!」


「まっ、良いわ。まだちょっと頭がフラフラするから、おんぶして貰えるかしら?」

 アイリスはレイムにお願いした。ファテマでなくレイムにである。

「えっ? うんうん。おんぶする! アイリスちゃん大好き!」

「はいはい。わかったわかった。私も大好きよ。」

 そう言いながらアイリスはレイムにおぶさった。


「さて、一件落着と言ったところなんだけど。オレもホッとしたら急に眠気が襲って来たよ。ファテマ、後はお願いね。」

 そう言って比呂貴はその場で崩れ落ちる。そこをファテマが拾い上げ、ユニコーンの姿になり背中に乗せた。

「とりあえず宿に戻ろうかのう。ロキを横にして儂もなんか食べたいな。お腹が空いて来たわい。」

 ファテマが言った。


「あ、ファテマちゃん。実はここドルクマンで、前に言ってたブタ公爵の屋敷なんだ。

 アハハハ。」

「なっ、なんじゃと!?

 それじゃあしょうがないな。普通に宿を探してからの腹ごしらえになるのかのう。」

「そうなるわね。」

 そして三人と爆睡しているひとりはドルクマンで宿屋を探して休むことになった。






 こうしてモンルード公爵は後ろ盾であるミダマを使い、ドラゴンスレイヤーのロキに戦いを仕掛けたが、見事に返り討ちに遭ってしまった。

 これは東京ドームの三分の一ほど火災で燃えていることからも良く分かった。比呂貴自体まだ意識はしていないが、モンルード公爵を失脚させたということで副産物的にその名声は各国に一気に広まることとなる。


『ドラゴンスレイヤーのふたつ名に間違いはなし!』


 特に、次期魔王と名高いミダマを退けたのが大きい。ロキの武勇に大きくハクが付いた。



 ドルクマン王国は現在四世で国王もボンクラである。政治的な力はだいぶ弱くなっており、実質この国は公爵が各伯爵を使役して運営している。

 その公爵が失脚したということで周りの貴族たちもその地位を得るために覇権争いが始まってしまうのであった。

 この国の貴族はモンルード公爵のミダマように後ろ盾がいることが多い。ゴールド級冒険者を数人抱えていたりする貴族もいる。その力が実際の力である。

 今回、ミダマを退けた比呂貴を獲得する貴族も現れる可能性が出てきたということも言えるだろう。


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