第58話

 ルークは各国の全権王族大使を引き連れて、その国を巡ってくれました。

 争う王侯貴族や山賊盗賊を脅し、戦いを止めるように命じました。

 私の事を考えて、直ぐに変化させたりしませんでした。

 王侯貴族にしても、攻められて仕方なく反撃している家もあるかもしれません。

 山賊盗賊の中には、餓えて仕方なく加わっている者がいるかもしれません。

 そんな人達に戦いや略奪を止める機会を与えたかったのです。


 ルークを恐れて止めてくれる人も多かったのですが、中にはルークの恐ろしさを知らず、無視する人もいました。

 そんな人は直ぐに変化させられてしまいました。

 人が間違って狩って食べたりしないように、絶対に食べる気にならない、臭くて巨大なでんでん虫に変化させられました。


 もちろんでんでん虫が人を食べるようなことがあってはいけません。

 だからでんでん虫は土だけを食べる生き物にされてしまいました。

 ルークも今度は嫌がらせだけででんでん虫にした訳ではありません。

 人々の役に立つように変化させたのです。

 今度のでんでん虫が食べた土は、穀物がよく育つ土に変わるのです。


 正直多くの民がでんでん虫に変えられてしまいました。

 村人が餓死するかどうかの瀬戸際では、生きの頃ために村は隣の村を略奪するのが普通なのです。

 全てその国の為政者が悪いのですが、切っ掛けの一つが私とルークであったのは間違いありません。


 その責任を取るために、ルークは魔法で土を豊かにし、種を蒔いて魔法で急成長させ、出来るだけ早く食糧が収穫できるようにしました。

 ですが、流石に直ぐと言う訳にはいきません。

 混乱する多くの国全てに、同時に現れる事もできません。

どうしてもある程度の時間がかかります。


 そこでルークは、穀物や魚肉ではなく土を食べて生き残れるでんでん虫に、悪い事をした人を変化させる事にしたそうです。

 ルークは随分と成長してくれました。

 考えるようになってくれました。

 辛く苦しい二年間でしたが、そう思えば私達には大切な二年間だった気がします。

 その間に死傷した人々にはとても申し訳ありませんが……


 それと、まだ哀しく辛い事は続いています。

 安楽死が横行しているのです。

 歳をとり、ろくに働けなくなったお年寄りが、少しでも孫子に食べ物を与えたくて、子供に死を願うのです。

 その話を全権王族大使から聞いた時、哀しみと恐怖が押し寄せてきて、泣き叫びそうになりました。

 ミモザ達が直ぐに駆け付けてくれて、優しく抱きしめてくれたので、何とか心が壊れずにすみました。

 何が心に衝撃を与えるか分かりませんが、どうやら大きな傷跡があるようです。

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