第59話

「オリビア女王陛下におかれましては、急な謁見願いを御聞き入れ下さり、恐悦至極でございます」


「いえ、構いませんよ。

 王家王国の友好に勝るものはありませんから、何かあればいつでも遠慮なく言ってくださいね」


 さて、それにしても、特に謁見の必要などなかったはずです。

 ルークが内乱や盗賊団の鎮圧し、争いの素になる人間を農地用のでんでん虫に変化させたから、必要な食糧の量も格段に減っています。

 農地の改良も進み、ルークの貢献は恐怖と共に大陸の隅々にまで広まりました。

 どの国ともある程度の意思疎通はできたはずです。


 ルークや私には不要ですが、各国も城下に人質を兼ねた全権王族大使を派遣する事で、不安や恐怖を軽減し、疑心暗鬼が生まれないようにもなっています。

 この状態で危険を冒してまで、ルークが執着している私に謁見願いをする理由が、全く分かりません。


 城下なら、他国の大使館員や庶民に迷惑をかけないのなければ、母国にいる時よりも自由に生きていけます。

 大魔境から狩ったり採集されたりした、他では絶対に手に入らない貴重な素材を母国に送る事で、莫大な利益も手に入っています。

 ルークや私を怒らせることは、その全てを失うことを意味しているのです。


 手続きだって何重にも人が入って面倒です。

 いえ、人どころか半人間や元半人間が入ります。

 当然手続きは時間が係る上に間違いが多いです。

 半人間に人間と同じ能力を求める方がむりですから。

 出来るだけ早く自国に戻りたかった、ローガン陛下とジェイデン殿が考えた方法ですが、普段滅多に使われないので、この娘が願い出てきた時には、正直少々驚いたくらいです。


「ありがたき幸せでございます。

 正直に申し上げます。

 悩みに悩んで、勇気を振り絞って謁見を御願い致しました。

 命懸けの願いでございます。

 どうか御教え願います」


 おおげさ、とは言えないでしょうね。

 ルークと私を怒らせるなというのは、大陸中の人間が骨身に染みている事です。

 何かを教えてもらいたいという願いも、命懸けになるのです。

 しかし、その願いが分かりませんね。

 馬鹿でない限り、私達に害が及ぶような疑問なら、教える教えない以前に、変化させられと分かるはずです。

 この娘はバカには見えないですし、本当に何が知りたいのでしょうか?


「ええ、いいですよ。

 なんでも聞いて下さい」


「ありがたき幸せでございます。

 では遠慮なく質問させていただきます。

 ルーク様は、半人間に変化させられた人間ならば、妻にして下さるのでしょうか?

 もしして頂けるのなら、私を半人間に変化して頂けるのでしょうか?」

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