第35話

「ルーク。

 一つお願いがあるのだけれど、聞いてくれるかな?」


「なに?

 なんなの?

 お姉ちゃんがいなくなるのは嫌だよ!

 お姉ちゃんが他の誰かと仲良くなるのも嫌だよ!

 僕を一人にしないでよ、お姉ちゃん」


 ルークが瞳に一杯涙をためています。

 手を強く握りしめて、恐怖に耐えるように震えています。

 私に捨てられるのを恐れているんでしょう。

 こんな姿を見たら、恋人が欲しいなんて口にできません。

 でも、子供だけは欲しいのです。

 私の子供は諦めますが、せめてルークの子供はこの手に抱きたいです。


「よく聞いてね、ルーク。

 恋人が欲しいとは言いません。

 自分の子供が欲しいとも言いません。

 でもね、子供は欲しいのです。

 オリビア王国を継ぐ子供が欲しいのです。

 だからルークが結婚してください。

 この手でルークの子供を抱きしめ育てたいのです」


「え?

 なに?

 何を言っているの、お姉ちゃん。

 僕に結婚しろと言うの?

 この城に僕達以外の人間を入れると言うの?

 そんなの嫌だよ、お姉ちゃん!」


 やはり無理なのでしょうか?

 義理の母に嫌われ、実の父親と半分血を分けた兄に虐待された悲惨な幼少期が、ルークを人間嫌いにしてしまっています。

 私のお願いでも、人間と一緒に暮らすのは無理なのでしょうか?


「ルークは女の人と一緒に暮らすのは嫌なの?

 女の人を抱きしめたいと思ったことはないの?」


「そんなの思わないよ!

 お姉ちゃんに膝枕してもらって、ナデナデしてもらうのが一番だよ!」


 ルークは一生大人にならないのでしょうか?

 もう少し大人になったら変わるのでしょうか?

 ローガン陛下が狼狽しています。

 聞いてはならない事を聞いてしまったような、見てはならないモノを見てしまったような、何かとんでもない罰が与えられるのではないかと恐れてもいるようです。


 ジェイデン殿は空気になっています。

 これが人間の差でしょうか?

 それとも王として誰に気を使う事なく生きてきた人間と、絶対権力者である王に仕えてきた人間の差なのでしょうか?

 私には判断できません。

 でも、誰がこの場にいようとも、話し始めた以上途中で止める訳にはいきません。


「ルークは子供がかわいいと思ったことはないの?

 虐められている半人間は助けてあげたよね?

 虐められていた人間の子供も助けて、教会に預けていたよね?

 自分の子供はかわいいと思えないかな?」


「そんなの分からないよ!」


「一度真剣に考えてくれないかな?

 女の人と一緒に暮らすのが嫌なら、母親になる人を城に入れなくてもいいわ。

 でも、子供だけは作って欲しいの。

 勝手な御願いなのは分かっているけれど、ルークの血を継いだ子供が欲しいのよ」

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